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黒崎浩二は嘘をつく -幼馴染を守るため、異常なる0組で異能力バトルな世界を生きる-  作者: 望月朔
≪第二章≫黒崎浩二の過去と未来(決別編)
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【14】雛壇学園生徒会長

   ***


「お見事、よくぞここまでたどり着いた! 俺様が雛壇学園に所属する全学生の頂点――生徒会長の霧梅颯(きりうめはやて)だ。歓迎するぜ、1年0組諸君」


 本校舎から徒歩一分ほどの距離にある別館二階――図書室の扉を開いた先で待っていたのは、静粛な雰囲気がまるで似合わぬ騒がしい男であった。


 背丈は俺と変わらないくらい。確か、生徒会長は三人官女の一つ上――二年生だったか。

 一応、生徒会長としての威厳を保つためか曲がりなりにも学校指定のブレザーに身を包んでいたが、豪奢なピアスをひっかけた両耳に前から後ろまでをオールバックで固めた髪型を見れば、この男が生徒の模範とは程遠い性格をしていることは一目瞭然であった。


「初めまして、霧梅生徒会長。お噂はかねがね耳にしておりますわ」


「噂? なんだ、俺様の名声はついに学外にまで響き渡るほどになったのか」


「ええ、それはもう。雛壇学園最強の能力者にして、他人の上に立つ天才――生粋の俺様気質な御方であると、各所で囁かれておりますよ」


「かっはは! そいつは確かに、俺様以外いねえわな」


 獰猛な臼歯をむき出しにして、生徒会長は豪快に笑う。

 雛壇学園最強の能力者――『救いなき成果(ブランダーエーテル)』を持つあの葛籠でさえ0組最強に留まっていることを考えれば、学園最強というのははたしてどれほどのものなのかと、自然と体を身構えさせてしまっていた。


「おっと、神経をとがらせてるねえ。俺様のことがそんなにも怖いか?」


「当然の警戒でしょう。なにせ、(わたくし)達を会合などという嘘の用件で呼びつけ、更には能力バトルなどと称して戦いの火種を放り込んだ張本人と対面しているのですから」


「嘘だなんてとんでもない! あんたら0組とお話しがしたかったのは本当なんだぜ? ただ、それ以外にも目的があったことは違いねえがな」


 好戦的な姿勢を隠そうともしない鋭利な眼差しに、緊張の色が走る。

 肩書きにあぐらをかいているわけではない――絶対的な自信に裏付けられた余裕の態度に突き動かされてか、つい口を挟んでしまった。


「……なあ、聞いてもいいか」


「おうなんだ、男子」


 三人称が男子とは、なかなかに傲慢な呼び名だ。


「生徒会長さんの提案したゲームってのは、ここに到着した時点で俺達の勝ちってことでいいんですよね」


「もちろん。あんたらは見事うちのかわいい後輩達を打ち倒して、暗号を解いてみせたんだ。このゲームは、間違いなくあんたらの勝利だよ」


「だったら、貴方の考えたテストはもう済んでるってことですよね。なら、俺達がここにいる用事は他にないはずですし、とっとと話を済ませて帰らせてもらいたいんですが」


「そう結論を急ぐなって、男子。確かに、当初の呼び出した目的は果たされたし、俺様としても話すことは特にはねえんだが……このまま負けっぱなしで『はいそうですか』と引き下がったら、雛壇学園生徒会の名が廃れちまうとは思わねえか?」


 自分から仕掛けたゲームに負けておいて、コンティニューを求めるとは都合のいい話だが――生徒会長の表情は、その戦意が本気であることを物語っている。

 

 人の上に立つ天才で、生粋の俺様気質。

 なるほど、篠森の人物評価はどこまでも的確だ。これほどまでに身勝手極まりなく――それでいて、かわいい後輩思いの人間はそうそうおるまい。


「後輩の失態を挽回しようという姿勢には感銘を受けますが、そもそも、内裏雛のお二方は戦いに参加しないという約束では?」


「固いこと言うなって、お姫様。それに、こいつはゲームとは関係ない……言っちまえば、俺の個人的な好奇心の好奇心による好奇心のための戦いだ。俺様にも見せてくれよ、うちの三人官女を打ち破ったあんたらの実力をさ」


「……だめだ、言ってることが無茶苦茶すぎる」


「いいじゃねえか! これくらい大雑把な方が、人生楽しめるってもんだぜ?」


 ただ会って挨拶するだけじゃ面白くないからといって、会談の予定を捻じ曲げて能力バトルを仕掛けてきた暴挙に然り、基本的に論の筋道が破綻しているというよりは、初めから動機付けをする気が全くないのであろう。

 戦いたいから戦うし、その為にならルールだって捻じ曲げる――この男の精神構造に、それ以上もそれ以下もありはしないのだ。


「さてさて、準備は出来てるか? って、こいつは余計な気遣いか。あんたらここに入ってきた時からもう、戦う準備はばっちりだったもんな」


「穏便に解決出来るのであれば、それに越したことはなかったのですがね」


 戦闘が始まる可能性自体は、図書室を訪れる前から考えてはいた。しかし、まさかここまで強引に展開を運ばれることは想定外である。

 それでも、挑まれた以上は応戦するしかない。この『超常特区(スキルテーマ)』という都市は、それが許されているのだから。


 霧梅は口元を隠しきれない狂喜で歪ませながら、人差し指を天井に突き上げてフィンガースナップを鳴らす。

 すると次の瞬間、背後に鎮座していた本棚が二つ、ガタガタと異音を発しながらゆっくりと宙に浮かび始めた。


「おい、待て。まさかあんた、ここで戦いを始める気じゃ――――!?」


「おお、理解が早いじゃねえか! 俺様のいる空間では常在戦場、油断してたら叩き潰されるぜ」


 物体の浮遊――持ち上げられた二台の本棚が、再び空中で軋み揺らぐ。


 なんらかの能力であることは間違いない。

 しかし、物を浮かばせるという単純な現象だけでは具体的な内容までは予測しきれず――また、それを推し量るだけの時間は、今の俺達には残されていなかった。


「まずは挨拶代わりだ! 楽しませてくれよ、0組!!」


 雄叫びの声と共に背後から本棚が射出される。

 棚の内側に本は一切詰まっていなかったが、それでも高校生二人の体躯を優に上回る巨大な木塊で押し潰されれば、単なる人間でしかない俺達はひとたまりもないだろう。


 刹那の選択を迫られ、今の俺にこいつを避ける手段はないことを直感が悟る。猛然とした勢いで襲来する暴力に、ほんの一瞬だが思考を奪われてしまう。

 しかし、この都市に越してきたばかりの不慣れな俺とは違い、能力との戦いに慣れている篠森の判断は実に素早かった。


「黒崎さん、後は頼みますわ!!」


 彼女は両腕をこちらに伸ばし、俺の左肩を全力で突き飛ばす。

 押し出された勢いのまま右方を転がると、足の先を掠めるようにして本棚が過ぎ去っていき、隣に立っていた篠森を巻き込んで床を抉るように墜落する。


 轟音が耳を(つんざ)き、叩きつけられた本棚の衝撃で地面が僅かに振動する。

 小さな地震の発生を錯覚させるほどの揺らぎは、霧梅颯が見せた挨拶代わりがどれだけの威力を秘めていたのかをありありと物語っていた。


 おそらくあの様子では、俺の身代わりとなってしまった篠森は今頃本棚の下でぐったりと倒れていることだろう。

 守るべきお姫様を先に討ち取られ、逆に下っ端な男の方が守られてしまったことは大いに省みるべき事態ではあるのだが、彼女に後を頼まれた以上、後ろを振り返っている時間はなかった。


 横転した身体を受け身の要領で弾み上がらせ、軸足を後ろに蹴り出して一気に男の下へと接近する。

 次の本棚を持ち上げる暇を与えず数歩の距離を肉薄し、引き絞った腕を前に突き出して『狂言回し(イミテーション)』を加えた掌底打ちを叩き込んだ。


「――――っつ!?」


 バチンと、硬いコンクリートを殴りつけたような鈍い手応えと共に、無慈悲な痺れが腕を伝ってくる。

 視線だけで手元を流し見ると掌底は彼の腹部に到達してはおらず、不可視の壁に阻まれ攻撃を受け止められてしまっていた。


「回避から即行動、いい切り替えだ! だが、正面から愚直に突っ込んでくるだけってのは頂けねえなぁ」


「……その能力、物を浮かばせられるだけの力じゃねえのか」


「なるほど、攻撃に特化した能力と踏んでの奇襲か。だが、ただ物を浮かべるだけの能力で、学園の天下が取れたと思うか?」


「能力の強さが地位の高さだと勘違いしているようなら、雛壇学園の生徒会長もたかが知れてるな」


 現に1年0組の学級委員長を務める篠森は、能力だけを見れば下から数えた方が早いくらいである。

 しかし、それでも彼女は0組の――俺達のトップを名乗るに、これ以上なく相応しい。


「ご忠告痛み入るねえ。だったら見せてくれよ、俺様が愚かさを自覚出来るくらいに……目を覚まされるような一撃をよ!」


「言われなくても、そのつもりだ――!!」


 王座に立つ者の挑発には行動を持って返礼する。

 俺は打ち込んでいた腕を相手の肩まで持ち上げさせ不可視の壁に指をかけつつ、両足で地面を蹴り上げることで覆い被さるように上を取った。


 霧梅の目線が、跳躍した俺の方に引き寄せられる。

 直後――ほんの一瞬だけ意識が逸れた彼の足元で、巨大な落とし穴が口を開いた。


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