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黒崎浩二は嘘をつく -幼馴染を守るため、異常なる0組で異能力バトルな世界を生きる-  作者: 望月朔
≪第二章≫黒崎浩二の過去と未来(決別編)
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【0-3】いじめの話

≪過去3≫


 幼稚園から小学校へと進学した際には、とりわけて大きな変化は起こらなかった関係性。

 しかし、幼児から子供へ――肉体だけでなく精神もが共に成長を始める年齢にまでなってしまえば、いつまでも不変であり続けることは叶わない。


 学年が上がっていくにつれ、俺と優華の仲もまた少しずつ変わり始めていく。

 年代の問題。それはちょうど、男と女の性差を意識し始める年頃であった。


 幸いなことに、相手が異性であることを理由にして俺達が疎遠になることはなかった。

 月日を重ねても、優華は変わらず俺に話しかけてくれていたし、彼女が好意的であってくれるのならば、俺から避ける理由なんてありはしなかったから。


 けれども、二人が現状維持を望んでいたとしても、それを取り巻く環境は否応なしに移ろいゆく。

 中途半端に成熟を始める子供達は、誰が何を言うわけでもないのに、自然と異性の目を意識してしまうようになる。


 誰と誰が仲良しだとか。誰が誰を好きだとか。

 あいつは男の前では態度が変わるとか。そいつは女とばっかりつるんでいるとか。


 下世話な噂が辺りを飛び交い、無垢だったはずの関係に妬みと僻みの感情が絡まり始める。

 そんなどうしようもない不安定な時期の彼らにとって、俺達の関係は――優華の存在は格好の的であった。


 幼稚園時代から順当に成長した結果、同年代の中でもずば抜けて愛らしい容姿を手にしていた優華。

 そんなかわいい女の子と仲良くしているのは、かわいげもなければ友達もいない根暗な男の子。

 その男の子のことをよく思わない人間が現れるのは、もはや必然とも言えた。


 嫉妬――あるいは、羨望。

 黒崎浩二に対するいじめの始まりは、そんな人間的な理由からなるものであった。


 子供らしい幼稚な――しかして、子供ゆえに残酷ないじめは、その後俺が小学校を卒業するまで続く。

 その内容についてはもうほとんど忘れてしまっていたが、物を捨てられたり落書きされたりといった生活に支障をきたすタイプの悪意に関しては、対処が面倒だったことを覚えていた。


 ただまあ、面倒だったことは本当にそれくらいで――器物破損にまでは至らない、暴言やら無視やらといった精神を狙った稚拙な攻撃に関しては、その当時どんな感情を抱いていたかすら思い出せないくらいには、まるで効果を成してはいなかった。

 もとより、他人に対する関心が薄かった――自ら関係を遮断していた俺にとって、知らない他人の言葉など耳を傾ける気も起きぬほどにどうでもいいことだったから。


 それに、実際のところ、攻撃を実行したという意味でいじめに荷担していたのは十数人程度で、残りの生徒達は知らず存ぜず我関せずの傍観者を貫き通していただけだったこともあり、それほど深刻な事態には捉えていなかった。

 善意も悪意もない――ただそこにいるだけの存在なんて、当事者からしてみればいないも同然だった。


 一度だけ、優華にいじめの存在が知られたときは本気で焦ったが、なんとかなだめて手を出させないようにした。

 ミイラ取りがミイラになるとは少し違うけど、いじめを止めようとした人がいじめの対象になることだけは――優華がいじめの対象になることだけは、絶対に避けなければならなかったから。


「優華が関わると、状況がさらに悪化する。俺は大丈夫だから、心配しなくていい」


 なんて、優華との関係がいじめの引き金を引いた事情を鑑みれば、あながち間違ってもいない常套句を建前にして、彼女にはこの件に一切関わらないでもらう。

 良心に付け込むずる賢い詭弁を弄することだけは、昔から得意であった。


 自分で言うのもなんだが、見ていた世界が極端に狭かったおかげで、いじめは何の問題にもなってはいなかった。


 けれども、その程度の悲運で終わるほど、俺の人生が甘く作られているはずもなく――悲劇は幕間を挟むこともなく連続し、不幸は数珠つなぎに爆ぜて幼子の身に降り注ぐ。

 まるでそれが自然の摂理であるかのように、黒崎浩二の人生は段々と彩りを奪い去られていく。






 小学校四年生の春――大好きだった母親が、この世を去っていった。


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