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黒崎浩二は嘘をつく -幼馴染を守るため、異常なる0組で異能力バトルな世界を生きる-  作者: 望月朔
≪第二章≫黒崎浩二の過去と未来(決別編)
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【4】雛壇学園生徒会

≪2≫


 それから何日かが経過し、平日の終わりとともに週末が訪れる。


 五月に入ってから初めての休日となる土曜日。

 篠森より半ば強制的に結ばされた約束通り、俺は苦手なバスに揺られながら雛壇学園へと向かっていた。


 せっかく休日だというのにわざわざ制服を着用して符号学園に足を運び、篠森と合流した後バスに乗って雛壇学園を訪問する。

 それだけでも既に面倒だというのに、隣に座っているのが絶世の美女(ただし、TPOを弁えないドレスを着ている)といった具合なわけだから、乗り物酔いが回ってきていることも相まって、目的地に着く前から既に疲労困憊といった状態であった。


「他校を訪問するんだから、今日くらいは制服で来ようとは思わなかったのか……?」


「もちろんですわ。そう思ったからこそ、符号学園1年0組の学級委員長として恥じぬよう、しっかりと余所行きのドレスを着てきたのではないですか」


 平常時と余所行きとでドレスを着分けているのかとか、お前にとっての制服はドレスなのかとか、そんなツッコミを入れることも億劫になるくらいには、心が疲弊しきってしまっている。


 乗車人数の少ないバスの中でも、明らかに人目を集めてるし。

 初めに乗り込んだ際、乗客達が見せたあの常識を疑う呆然とした視線は、向けられた当事者ではないはずなのに、今もなお俺の心に突き刺さっていた。


「……それで、今日の目的ってのはなんなんだ?」


 気にしたら負けだと思ったので意地でも触れてやるものかと、強引に舵を切って話題を別の方向にシフトさせる。


「一言で表しますなら、顔合わせですわね。雛壇学園の生徒会と(わたくし)達0組の交流会といったところでしょうか」


「交流会ね……」


 友人どころか知り合いとすら交流のない――人付き合いの薄い俺には、まるで縁のない言葉である。


「他校の生徒会と交流だなんて、また何のためにそんなことを?」


「いくつか理由はございますが、今回の主な目的は依頼制度に関するものですわね」


 依頼制度――その話題はつい先日、彼女より直々に説明を受けたばかりなので記憶に新しい。

 今回の雛壇学園訪問も、元を辿ればそういった依頼が舞い込んできたのが始まりだった。


「この制度を通して回ってきた依頼は生徒会が管理を行い、基本的には自分達の学園内のみで完結させるという仕組みになっています。ですが、中には自分たちだけで処理しきれない依頼が入ることもございまして、そういった場合には他の学園の協力を仰ぐこともあるのですわ」


「……その協力を仰ぐ学園ってのが、符号学園と雛壇学園の関係性なわけか」


「理解が早くて助かりますわ」


 篠森から詳しい話を聞く限り、どうやら符号学園は第三区画内でもとりわけて規模の大きい学園であるらしく、依頼の執行機関がしっかりとしていることもあってか、他校から依頼が回ってくることも多いのだとか。

 そしてその中でも今回の訪問先である雛壇学園は、特に0組や-組が関与するような普通でない依頼の協力をお願いされることが多いのだそうだ。


「雛壇学園とは長い間お付き合いがあるらしく、こういった0組と生徒会との交流もまた、毎年行われていることなのだそうですわ」


「一緒に仕事をする相手の顔を見ておきたいって、そんなところなのかね?」


「依頼の中には金銭のやり取りが生じるものもありますし、営業の挨拶回りとは少し違いますが、そういったビジネスな面があるのも確かでしょうね」


 報酬が発生しているとなれば形式的とはいえども、こういった信頼関係を築くための対面もまた必要なことなのであろう。

 特別な依頼を請け負う、0組ならではの活動。顔を合わせるだけなら案件としてそれほど難しいものでもないし、0組を知るための研修にはちょうどいい依頼なのかもしれない。


 まあ、連れてこられたのは半ば強制的なものではあったが、0組の活動についてを知りたいと言ったのは俺の方からなのだ。

 折角の機会なのだし、真面目に取り組むとしようかね。


 なんて、篠森の説明を受けて少しずつやる気が出始めてきたところで、乗ってきたバスが目的地付近に到着する。

 雛壇学園はここから少し歩いた場所にあるのだそうだ。


 乗車時同様、エキセントリックな格好をした篠森は好奇の目にさらされながらも、堂々たる振る舞いで運転手にお金を払い、優雅にバスを降車していた。

 ……隣のお姫様がまともな恰好をしてたら、もう少し早くからやる気も湧いてきたんだろうかね?


「今更な質問だが、変な目で見られてるとか、気になったりはしないのか?」


「ドレスを着ていなくとも、注目を集めてしまうことに変わりはありませんもの。もう十分に見られて、慣れきってしまいましたわ」


 確かに、こんな童話の住人みたいな麗しい少女が歩いていたら、無意識のうちに目がいってしまうのも無理はない。

 だからといって、どうせ見られるのだから好きな格好をしてしまおうと思うあたり、さすがは精神力が強いというか、肝が据わっているというか。


 動きづらそうなドレス姿を苦ともせず、背丈相応の――優華より少し広い歩幅で歩く篠森の後を追うこと数分。

 住宅街の角を曲がったその先から、真っ白な校舎が姿を現した。


「……ここが、雛壇学園か」


 外観を見た限りでは、一般的な高校と変わらない平均的な規模感をしている。

 符号学園のように、規格外な敷地面積をもっているわけではなさそうだ。


 しかし、外見から特におかしなところを見受けられずとも、中身が――その学園に所属する生徒までがおかしくないとは限らないわけで。


「あら、少し早めに到着したはずなのですが、どうやら待たせてしまったようですわね」


 雛壇学園という学名の掘られた校門の前にて、全身を黒い布で覆い隠したなにかが一人で佇んでいる。

 その黒衣(くろご)が雛壇学園の生徒なのかどうかはわからないけど、それが俺達の来訪を待ち構えていることだけは伝わってきた。


「……なんだ、あれ?」


「考えられるとすれば、生徒会から派遣された案内役の方でしょうか」


 ゆったりとした黒のローブで全身を覆っているため、性別の判断がつけられない。

 ただ、女子にしては肩幅が少し広い気がするので、男子の可能性は高そうであった。


「……まあ、黙って見ていても仕方ありませんわ」


 そう言うと、篠森は黒衣の生徒に近づいていき、「もしもし」と躊躇うことなく声をかける。


「生徒会の方でよろしいでしょうかね? もっとも、顔を隠しての出迎えとはいささか失礼にも思えますが」


「……申し訳ございません。ですが、我々使用人の五人囃子は、生徒会活動中に顔を晒してはならないという校則があるのです」


 返ってきたのは、低い男の声であった。


 五人囃子。かの有名な雛人形にも飾られている、五人一組の童子人形――雛壇の三列目。

 真っ黒な布で顔を隠した男子生徒は恭しく一礼をすると、懐からするりと一枚の封筒を取り出して俺達に差し出してきた。


「こちらは、本学園の入校許可証となっております。生徒会の役員方は校舎で歓迎の準備をしておられますので、どうぞご自由にお入りくださいませ」


「役員の方々はどちらにいらっしゃるのでしょうか?」


「まずは、本館三階の第二会議室へと向かっていただければ。それからの流れは、別の者より説明があるかと存じます」


「……そうですか」


 淡々と、事務的な口調で言い切られてしまえば、これ以上は聞いても無駄なのではと思わされてしまう。

 他に質問はあるかという問いに対して篠森が黙って首を横に振ると、五人囃子の一人を名乗った彼は「それでは、私はこれにて」とだけを言い残し、役目を終えたとばかりに再び一礼をすると、次の瞬間にはもう既に、俺達の眼前からその姿を消してしまっていた。


「消えた……? どこかに瞬間移動でもしちまったのか、それとも透明にでもなったのか……」


「気にする必要はありませんわ。大方、(わたくし)達が黒崎さんと優華さんに『身体転移(テレポート)』を披露した時と同じ、デモンストレーションのようなものでしょう」


「……思いの外、淡々としてるんだな」


「黒崎さんはまだ『超常特区(スキルテーマ)』に来てから日が浅いので驚くことも多いでしょうが、半年も経つ頃には、目の前で能力を使われる驚きにも慣れてしまうものですよ」


「……そんなものなのかね」


 まあ、『超常特区(スキルテーマ)』に住む学生の大半はなんらかの能力を所持している人間なのだ。

 外の世界では珍しかった能力も、中の世界ではさほど驚くものではないのだろう。


 意識は傾けていても、深入りはしていかない。

 いちいちリアクションをとってたら埒が明かないくらいには、この都市は能力者で溢れているというわけか。


「それよりも、(わたくし)が気になっているのは、こちらの封筒の方でしょうか」


「確か、入校許可証とか言ってたよな。首にかけるパスケースでも入ってんのか?」


「でしたら、わざわざ封をせずとも直接手で渡せばいいものですわ。おそらく、入校許可証なんてものは建前で、もう少し厄介な代物が入っていると予想しますが」


「厄介な代物ね……そんな回りくどい手を使うかね?」


 なんて、たかだか交流会程度でそんなに面倒なことを強いられるなんてないだろうと、封を開ける前までは楽観的に考えていた俺だったが、無地の茶封筒から滑り出てきた一枚の用紙を見て、直前までの甘い発想を即座に撤回することとなった。


「…………なんだ、これ?」


 封筒に入っていたのは校舎の見取り図が一枚と、黒服が話していた第二会議室までの案内が一枚。

 それから、何の変哲もない無機質な用紙が一枚。


 一見すれば何もおかしなところなどない組み合わせではあったが、しかして最後に落ちてきた真っ白な用紙に記されていた内容こそが、ただの紙を篠森の言うところの厄介な代物へと変質させていた。


「これは……暗号、でしょうか?」




『2730364330374405 : 19380521321016


 13094330374405 : 250202224707

 234419 : 324018212237

 43301230 : 23033930262614

 470504 : 3407114533170346


 ※44051229071740434532

  3623442348111608142309451830』




 そこには、見慣れない不可解な文字列――正確には、不可解な数列が書き並べられていたのであった。


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