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黒崎浩二は嘘をつく -幼馴染を守るため、異常なる0組で異能力バトルな世界を生きる-  作者: 望月朔
≪第二章≫黒崎浩二の過去と未来(決別編)
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【3】守るべき笑顔のために

   ***


 五月にもなれば、冬頃と比べて日が出ている時間もだいぶ伸びてきているもので。

 部活終わりの優華と歩く帰り道。少し前までは真っ暗だったこの道も、今は辛うじて残る夕日に赤く染められていた。


「『ホーム』では、何をして待っててくれたの?」


「篠森とチェスを打ってたよ」


「チェスかー……勝てた?」


「……まあ、惜しいところまではいったな」


 さすがに惨敗したと言うのは恥ずかしかったので、見栄を張ってしまった。

 とてつもなく、しょうもない見栄を。


「浩二でも勝てなかったか……やっぱり、眠姫ちゃんってすごい強いんだね」


「優華も打ったことがあるのか?」


「ううん。けど、前に蛍ちゃんが教えてくれたんだよね。ネットの世界ランキング? か何かで、百位以内に入ってるんだって!」


「ガチ勢じゃねーか……」


 それこそ、素人に毛が生えた程度の俺に勝つなど、赤子の手をひねるよりも簡単であっただろう。


 まあ、接待チェスというか、相手に気づかれないように互角の戦いを演じられるというのは、相当な技量を持っているからこそ出来る技。

 転校生討伐戦での演技を見破れなかった時点で、すでに負けていたようなものか。


「眠姫ちゃんすごいよねー! 美人だし、頭もいいし、運動神経もいいし……もうなんでも出来ちゃう! この前も0組の女の子達とテニスをしたんだけど――」


 足の動きにあわせて手に持った鞄を揺らしながら、彼女たちとの思い出を楽しそうに語る優華。


 ここ数週間の話を聞く限り、優華はもうすっかり0組に馴染んでいるようだ。

 まあ、優華の社交性に心配な部分なんて何一つないが、こいつならきっと+3組と0組、どちらにいっても楽しくやっていけるんだろうな。


 ――そういえば、優華にも編入状は届いているのだろうか?

 ふと疑問に思い、話が途切れたタイミングで尋ねてみようかと思っていると、俺の心を読んで――というわけではないだろうが、逆に優華の方から望んでいた話を振ってきた。


「あ、ねえねえ! 0組といえばなんだけどさ、浩二のところには編入状って届いた?」


「ああ、届いたよ。やっぱり、優華のところにも届いてたんだな」


「うん、昨日届いてた」


 転校生討伐戦。

 篠森は、戦争の目的は俺にあったと予測していたが、巻き込まれたのが俺と優華の二人である以上、優華にもまた編入の資格が与えられるのは必然であったのだろう。


「編入の話、浩二はどうしようと思ってる?」


「俺は、もう少し考えてみようと思う。優華はどうするつもりなんだ?」


「私も、ちょっと迷ってるんだよねー。+3組のみんなとはすごい仲良くなったけど、0組のみんなと一緒の生活も楽しいんだろうなーって思うと、なかなか決められなくて」


 どっちも楽しそうだから、それ故に決められない。

 なんて優華らしい、前向きな理由だろう。メリットとデメリットを天秤にかけて比べる俺とは、精神構造が根本から異なっていた。


「正直、私としてはどっちでもいいなって思うんだ。編入してもしなくても、それぞれの友達との縁が切れるわけじゃないし。だから、どっちでも楽しそうだからって意味で、どっちでもいいって思うの」


「優華的には、何か基準みたいなのはないのか? こっちにはこれがあるからいいとか、そういう加点対象みたいなもの」


「うーん……その、一つだけ……基準ってわけじゃないけど、希望みたいなのはあるかな……」


「……? どういうのなんだ?」


「えっとね、その……」


 優華にしては珍しく、目線を泳がせながらごにょごにょと言葉を濁している。

 気になったのでさらに問いかけてみると、優華は恥ずかしそうに頬を染めながら、「あのね……」と囁くような声で呟いた。


「浩二と一緒のクラスがいいなー……なんて!」


 言ってる途中で恥ずかしさが限界を迎えたのか、最後はやけくそ気味に語尾を強めて、それから照れくさそうに笑う優華。


「……そうだな。俺も、優華と一緒のクラスだと嬉しく思うよ」


「ほ、ほんと!? えへへ……おんなじだねー」


「……ああ、おんなじだな」


 そんな彼女の無垢な眼差しを、俺は受け止めることが出来なかった。


 心臓を締め付けられるような感覚。心がずきずきと痛んでくる。

 彼女の善意につけ込んでいる自分が――甘えている自分が、殺してしまいたいほどに嫌になる。


 きっと優華は本心から、俺と一緒にいたいと思ってくれている。

 瞳をきらきらと輝かせながら、俺という愚か者の嘘を――表面にすらない幻想を、彼女は信じている。


 守ってくれた人。助けてくれた人。

 そんな、ありもしない虚像を見せているのが、他でもない俺だというのに。


 彼女の純粋すぎるその心は、濁りきった俺の目には眩しすぎたから。


 光に潰されてしまいそうな目を背けて――少女からも、現実からも目を背けて。

 あの日から何も変わらぬままに、嘘ばっかりを積み重ねて、俺は今日も生きていくのであった。


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