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翌日に発症した井坂先輩をとっとと治療して、ねちっこい執着心をヴァンピールの力で断ち切った。まずい血ももらわない。校内でもう1人見つかった発症者も治療。様子を見ていた文化祭当日の感染者も問題なく、念のため二週間様子を見ても、誰も発症することはなかった。
これにて駆除完了。ミッション終了だ。
あー、疲れた。
赤いオレンジを口に当てて、オレンジの中の成分をさぐる練習をする。
時々失敗して、酸っぱい液が目や口の周りにはじけてちょっと染みる。それでもなんとなくコツは掴んできた。
続いてブドウを口に当てながら、食べようとしない俺に、妹がいやらしい顔で笑った。
「いらないならもらってあげようか?」
そう言って伸ばしてきた手を、ぴしりと叩いた。
そう簡単に取られてたまるか、シャインマスカット。
人の好物を取ろうとする奴は、容赦しない。
あいつは真面目だから、期末テストが終わってから誘う方がいいだろう。
しばらく大人しくすることにした。
文化祭の日にあまりに充分な量の血をもらい、吸血ウイルスも早々に解決したおかげで、当面血はもらわなくても生きていけそうだ。
時々恋愛の勇者が来て、俺に声をかけてきたが、笑顔は見せても返事はNOだ。お試しでも当面誰の申し出も受けるつもりはなかった。
…一応、断られてるからなあ。本格的に駄目だってことになったら、これまで通り、シンプルに人をエサだと思って生きていけば楽だろう。だけど、今の俺は、楽をしたいとは思ってない。
どうしても駄目だと言われたなら、力を使って惹きつけてもいい。従わせることに罪悪感などない。せっかくヴァンピールに生まれたんだ。人でなしなのは生まれつきだ。
だけど、何となく、我ながら図々しくて驕っていると思うけど、多分、そんな無理強いをしなくてもうまくいく。そんな気がしていた。
そう信じられるほどに、ぴかりんは特別だ。昔も、今も。
試験最終日に遊びに行く約束をし、街まで引っ張っていって、普通のデートをした。
昔と変わらず、手を繋いでも拒否されない。遠慮なく繋ぎっぱなしにした。
血は吸わないよう、充分注意した。手からは吸わないようちゃんと制御できていた筈なのに、あの甘美な味を求めて掌がうずうずする。これも練習だ。
血のやりとりがなくても、遠い昔のあの安心した気持ちを思い出して、不思議に安らぎを覚えた。
ケーキを美味しそうに食べる姿を見ているだけで、笑みが浮かんでくる。何で俺が嬉しいんだろうなぁ…。自分でも、何が今までと違うのか判らない。