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龍族たちのファーストエデン

作者: M・A・J・O
掲載日:2021/06/08

 古びた里。枯れた心。周囲の目。

 ……嗚呼、うんざりだ。

 どこかに消えられたらと、周りに気づかれなくなったらと、どれほど願っただろう。


 ――そう、そんな空想に縋り付いていた。あの人に出会うまでは。


 ☆ ☆ ☆


 雷覇沢碧叶らいはざわりくと。現在十二歳。雷の里の名家の息子。

 しかし、母親が父親の愛人であるため、家族や里ぐるみで疎まれている。

 さすが雷の里の名家の子であると示すような雷のような綺麗な黄色の髪を持ち、碧叶の主な能力は草木を操る事が出来る能力のためか、透き通った碧色の目をしている。


 そして、何より碧叶や里の人たちは皆龍である。その、龍を象徴するエルフのような長い耳を持っている。しかも、長い龍の尻尾までも付いている。


 そんな彼等だが、龍の姿に戻る事はあまりしなくなっていた。何故なら空を飛ぶ必要がなくなっていたからだ。人類と同じような生活をし、人類のように生きる事が当然のようになって来ていた。


 しかし、龍は下等種族と見なしたものはとことん忌み嫌い、見下す面がある。そこは昔から受け継がれているようで、皆その面は変えようとはしなかった。

 その面があるからか、碧叶にとってこの世界は生きづらい世の中であるようだった。

 碧叶は里ぐるみで疎まれているため、悪口を言われたり、家族に嫌な顔をされたり、友達が出来なかったりと散々な目に遭ってきた。


 そんな彼は今、里の隅の方に来ていた。

 ふらふらとあてもなく放浪しているようだった。どうせどこに居ても居場所なんかないのだろう。死んだ魚のような目をしながら今にも倒れそうな感じで歩いていた。

 そんな時――


「ねぇ、君。ねぇってば!」


 ――は? と威圧感を出した顔をして碧叶が振り返ると、ちょうど碧叶と同い年ぐらいの女の子が立っていた。


「やっと気づいた……」


 ため息混じりにそう零した女の子。その女の子は息を切らして肩で息をしている。どうやらずっと碧叶に呼びかけていたようだ。


「……なんか用?」


 不機嫌さを隠す気もなく睨むようにその女の子を見た。

 すると、女の子は目をまん丸に開け、困ったような顔をした。


「あ……なんだっけ……」


 ガクッと言う音が聞こえそうな空気になった。

 碧叶がジト目で女の子を見る。すると、女の子はその視線に気づいたのか、ハッとして碧叶を見るとさらに困ったような顔をした。


「えーっと……その……」


 女の子はしどろもどろな様子で、言葉を紡ごうと頑張っているように見えた。

 しかし――


「用がないならもう行くからな」

「ま、待ってっ……!」


 面倒くさそうな匂いを感じ取ったのか、碧叶は最低限関わりたくないと思っているらしい。

 しかし、それでも女の子は碧叶に食らいついた。


「あたし、緑川花楓みどりかわかえで。花楓って呼んで!」


 ☆ ☆ ☆


 緑川花楓。水の里から来た神様……らしい。

 綺麗な水色の髪を持ち、透き通るようなエメラルドグリーンの目をしている。

 髪の毛を二つに束ねているのだが、活発すぎてどちらかがいつも解けるらしい。髪結ばなくても良くないか? と思うほど解ける頻度が高い。

 水色の髪とさすが水の里の神様だというぐらい水を操る能力に長けている。


「まあ、こんなもん?」

「テキトーに紹介するのやめてよ!」


 さっきまで花楓がボケで碧叶がツッコミ役のような雰囲気を放っていたが、碧叶が投げやりな解釈をしたため、花楓が突っ込むほどかなり適当な紹介だったらしい。


「で? なんでこっちに来たんだよ?」


 雷の里と水の里はかなり離れた場所にある。

 それゆえ、碧叶は水の里は実際にないのではと疑うほど噂とか情報が届いてこないのだ。

 龍の姿になって移動しても一時間は余裕でかかる距離だ。

 なのに何故こんなにも離れた土地にやって来たのかどうしても気になる。


「え、えーっと……」


 花楓が口ごもる。顔が真っ青になり、さっきまで合わせてた目線も逸らしている。

 相当何か事情を抱えている様子が見受けられた。

 しかし、花楓が口を開くと――


「ま、迷子……? になった……っぽい……」

「………………は?」


 唖然とはこの事を言うのだろうか。開いた口が塞がらない。


「え、そんなバカな理由なの!? マジで!?」


 一瞬遅れて突っ込む。

 信じられない。余裕で一時間近くかかるとはいえ、そうそう迷うようなものでもないのに。

 碧叶は引いた。本気で引いた。


「バカって何よ! バカって!」

「バカ以外の何物でもないだろ!?」


 花楓が涙目で訴える。バカと言われたのがそんなに悔しかったのか、大きな声で抗議する。

 碧叶も事実を言ったに過ぎないので、素早く突っ込んだ。


 第三者から見れば微笑ましい光景だが、本人達は全然そんな事はないようだった。


 ☆ ☆ ☆


「碧叶はさ、友達っているの?」

「は? 突然何なんだよ……」


 バカの口論から数時間経った頃だった。花楓が傷口を抉ってきたのは。

 花楓は純粋に友達がいるのかどうか聞いただけだろうことはもう分かっているのだが、嫌な気分だということに変わりはない。


「まあ……いねーけど……」

「えっ! なんで!?」

「いや、なんでって言われても……」


 困った。非常に困った。

 正直に打ち明けてもいいが、重い話になる事は避けられないし、下手に隠すと嘘がバレかねないのでその手も取れない。

 ――どうしたものか。そう悩んでいたのを見透かされたのか、花楓がおもむろに口を開いた。


「言いたくないことなら……無理に言わなくてもいいんだよ?」


 ――ふと、罪悪感が過ぎった。

 花楓は親切心で言ってくれているのは分かる。ただ、寂しそうな悲しそうな顔をさせてしまった事に対して、罪悪感が募ってゆく。

 碧叶は正直に話そうと口を開きかけた時だった……


「――ねぇ」


 花楓の方が先に口を開いた。何故か妙に威圧感があった。

 罪悪感で俯いていたが、勇気を出して顔を上げると、泣きそうな顔で花楓が碧叶を見ていた。


「あたしが……全部知ってるって……言った、ら…………どう、する……?」


 ☆ ☆ ☆


「は? 全部知ってる? どういうことだよ……」


 碧叶は訳が分からないまま、混乱しながらそう尋ねた。

 出会ったばかりの赤の他人だったはずなのに、全部知ってるとはどういう意味なのだろう。


「ご、めん……あたし……その、一応、神様……だし……ある程度、は……知らされてる……って感じ……で…………」


 ――嗚呼、そういうことか。ある程度知っていながらわざと聞いたのか。


 碧叶は何とも言えない表情で花楓を見る。花楓はとうとう堪えきれずに涙を流した。

 それが碧叶の今までの環境に対する感情なのか、何も知らないという素振りで碧叶に失礼なことを聞いたことに対する感情なのか、判別することは叶わなかった。


「なぁ、お前さ……」


 今度は碧叶が口を開く。嫌な気分も罪悪感も何とも言えない気持ちも全て捨てた、純粋な一言を放った。


「なんで、謝ってるんだ?」

「……え?」


 嗚咽混じりの声を発し、花楓が顔を上げる。

 当の碧叶は「ん?」と小首を傾げている。

 碧叶にとってはかえって花楓が自分を知っている事は良かったのかもしれないと思っているようだ。


「だ、だって……あたしっ……碧叶の、現状を……」

「だからなんだってんだ? 神様とやらなら仕方ない事なんじゃねぇの?」

「っ……でもっ……!」

「往生際が悪い」


 と碧叶が花楓にデコピンした。ビシッという効果音が聞こえ、花楓のおでこが赤くなる。

 花楓は訳が分からないという顔で目を回した。


「まあ……過去を覗き見されたみたいなのは気分悪いけど、お前のせいってわけでもないだろ。それに、俺もお前に過去や現状を伝えるのを躊躇っていたからな……」


「おあいこだ」と碧叶は口角を上げ、


「だから気にすんな」


 と笑った。

 花楓は次々に起こる有り得ない出来事についていけずにいた。

 過去に花楓が自分のことについて正直に話したことがあるが、その人は離れていってしまう事がほとんどだったから――

 しかし、花楓も碧叶の笑顔につられたのか、次第に笑顔になっていく。


「碧叶の笑った顔……初めて見た……」


 ポツリと呟くように言う。

 碧叶はそれが聞こえてしまったようで、慌てて顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。

 その様子をじっと見ていた花楓が吹き出す。


「あはは」


 今度は花楓が声を上げて涙を拭きながら笑った。

 碧叶はますますいたたまれなくなって、くるりと背を向け、花楓と少し距離をとった。すると、


「碧叶」


 と花楓が声をかけた。その声にゆっくりと碧叶が振り返ると……


「ありがとう」


 精一杯の笑みを浮かべた花楓がいた。その目は赤く腫れているが、幸せそうな雰囲気を感じさせた。

 その様子に碧叶は目を丸くして、「別に」と満更でもない様子で応えた。


 その碧叶の顔をじーっとのぞき込んだ花楓は、驚いた顔で言った。


「今気づいたけど……目の色、私とおそろいだね!」


 花楓はまたニコリと笑った。

 碧叶はさらに目を丸くした。花楓の言っている意味が分からない。明らかに花楓の方が綺麗な色をしているというのに……


「お前……眼科行った方がいいんじゃないか?」

「ひどい!」


 花楓はショックを受けてシクシク泣いている。

 碧叶はそんな花楓の様子には目もくれず、顔に手を当てている。その顔には動揺の色が見られた。


「う、うそ……だろ……?」


 花楓が放った言葉が忘れられない。花楓の笑顔が脳裏に焼き付いている。

 碧叶は、もやもやしていた。この気持ちは一体……?


 ――自分の変化に気づき始めた碧叶と、どこかスッキリした様子の花楓。


 後にこの二人が雷の里を滅ぼしてしまう事になるのだが、それはまた別のお話。


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