92話 いきる
今週2話目です
大きく深呼吸してー。
フェードイン。
異世界潜行ユニットの中でしばし微睡む。
次第に全身の肌が水気と圧力を感じ取り始め、やがてしっとりずっぽりと水没感を味わう様になる。
目を開いて水中を凝視するがナーロモニターで確認したものと同じ光景が広がる。
多分、通常のモンスターボディなら疾うの昔に魔核に戻ってしまっているのだろう。
ここに至るまでこのスーパーオーガボディが保持されている理由があるとすれば。
・水中でも魔素を吸収できる仕組みがある。
・モンスターボディ自体は生物的に呼吸を必要としない、呼吸は魔素吸収の為だけに行っている。
・スーパーオーガボディが元々内在している魔素量が膨大なため肉体維持に消費している魔素にまだ余裕がある。
様々な推測はできるが永遠にこのまま湖底にいてもスーパーオーガボディは維持され続けるという楽観論に縋りつくのは危険だろう。特に元の魔素保持量に余裕がある場合が厄介だ。
保持魔素が多いと言うことは一度魔核に戻ってしまうと、再度ボディを生成するのに時間がかかるということだ。
おそらくはこのスーパーオーガボディを生成する為に魔核は百年単位で魔素を吸収し蓄積を続けたはずだ、これだけ強力な魔物身体を形成する術式記述を納める程の大きさの魔核を生成するのにこれも数百年はかかっている。
一度失えば斎藤の現役の内には二度と使用することは叶わない、しかも今の自分ならこの魔物身体を90%以上のシンクロ率で取り扱う事が出来る。
まさしく神が、―――――ナーロッポン側からすれば悪魔かもしれないが。斎藤に遣わした幸運。
売れば数億信用単位は間違いないでっかいチャンスがこの手に転がり込んできたのだ、これを機に盤石な基盤を作りのし上がらなくてどうする。世間という奴に己の正しさを知らしめてやるために。
ふんっ!!
斎藤は魔物身体に力を籠め、マニュピレーターの三本指を押し開く。
押せば少しは広がるのだがどこかでロックされているのか一定以上は動かない。
それでも何度も繰り返す。
シンクロ率が上がってくると異世界潜行ユニット内の人間体の方の酸素量が足りないと警告が走る。
呼吸をしていない魔物身体の仕草に斎藤の本体の自律神経が引きずられて十分に呼吸が出来ていない様だ。
同調が高いほど現実の肉体がアバターに同期してしまう、異世界潜行者特有の二律背反。
ギリギリまで粘ってフェードアウト。呼吸と心拍が落ち着いたら再度潜行開始。
これを繰り返す、気力と体力を維持させ途中キューブとチューブを胃にぶち込みエネルギーと水分を補充しながら。
何度目かの潜行の時に状況が変わり始めた。
斎藤の周囲を何かが泳いでいる。
(魚か?)
最初は魚かと思えたが、魚にしてはちと大きい。それが何匹も斎藤を中心に取り囲むように泳いでいる。
(これはチャンスかもしれない)
斎藤はそう捉え、暫く身体の動きを止めた。
案の定、謎魚のうち数匹が周回を外れ近づいてきた。
(こいつら魔魚か?)
仄暗い湖の底でスーパーオーガの周囲を泳ぎ始めた魔魚(推定)。
ごくり。
オーガの身体が唾を飲み込んだ様に感じられた。
神経系をエーテル回線経由でハッキングしこっちの世界から操っていたとしても基本的にモンスター共は魔核の中に刻まれた術式記述の通りに動こうとする。
動物で言う所の本能とでも言う部分だろうか、いかに強く同調していたとしても魔物身体の本質に近い所では行動を制御しきれない部分がある。
モンスター全般に植え込まれている破壊殺人衝動や魔素不足状態に陥ったときの空腹感もそれだ、特に人形を取るモンスターはその傾向が強い。
”ハラヘッタ”
スーパーオーガボディの強烈な欲求が同調した斎藤の摂食中枢をも刺激する。
瞬間、斎藤はスーパーオーガボディの制御を外し自律行動に任せた。
斎藤が再度アクセスしたときスーパーオーガボディはボリボリと魔魚を頭から丸かじりしていた。
状況によっては魔物身体の制御を外しモンスターの自律行動にまかせた方が動作が速い場合がある、エーテル回線を経由するラグが無くなるのだから当たり前だがここのオン・オフもアバター使いのセンスが問われる処だと斎藤は思っている。
(それにしても酷い味だ)
泥とヘドロを混ぜ合わせた生臭い煮凝りを硬い魚の骨ごとかみ砕いている。
味覚だけ神経系を切り離せないものなのか。
口内にカチリと当たる。
(小さいが魔魚の魔核か…)
体感、ゴブリンの半分ぐらいか?それでも魔核ならば…。
その牙で丁寧に魔魚の魔核をかみ砕きゴクリと飲み込む。
要するに魔核も魔物身体もその構成の仕方は違えども魔素の集合体だ術式記述での結晶化が解かれれば魔素に戻る。
結果、魔物は魔物の良いエサになるのだ、構成素材という意味では。
斎藤は暫くスーパーオーガボディのなすがままに任せた、具体的にはオーガを覚醒させたままフェードアウトしナーロモニターで観察を続けた。ヘドロの味など何度も味わいたくはない、それに通常はモンスター同士が喰い合いしない様術式記述で制御されているはずなのだがこのスーパーオーガボディにはそれが無い。
(もしかしたら、異世界侵攻最初期の魔核なのかもしれんな)
だとしたら千年モノ、最古の魔核の一つということもあり得る。
拉致被害者救出作戦と歴史上は詠っているがあれは侵攻だと斎藤は思っている、異世界の便利物質を使って異世界人を殺すかもしれない怪物をばら撒くことのどこが救出だ。
現在は殺人衝動を持ったモンスターの魔核を生成すること自体は法に反しているが規制以前にばら撒かれた魔核は幾百幾万幾億あるものなのか。
それに、斎藤の体感では禁忌であるはずの殺人魔核の生成供給は止まってはいない。
こっちの世界の管理局が掌握できていない異世界へのエーテル振動波発生源があるという事だ、それも無数に。
不思議なことに魔魚は次々とやって来た、まるで『私を食べて』とでも言いたげに。
やがて。
腹を満たしたのか、噛み砕いた魔核や魔魚が魔素に還元されスーパーオーガのエネルギーとして活用され始めたのか。
沸々と力のみなぎって来たオーガボディは自律行動で赤銅の蛸蟹のマニピュレータを外し始めた。
リミッターが無しの物凄い力でマニピュレータが変形して行く。
それに加えていくつかのヒトガタ達が両腕を垂らしたバタフライ泳法に近いアトランティスから来たかの様なキックで泳ぎながら近付いてくるのが見えた。
(魚人か?)
ウロコやヒレのついたインスマス面なヒトガタの魔物が長い棒を持って寄ってくる。
スーパーオーガを助けるようにマニピュレータの爪の間に棒を突っ込みそれを複数で集ってこじり、破壊をほう助する。
(…スーパーオーガを助けているのか?)
まさかとは思うが…千年前の魔物の中には別種の魔物をも従える統率属性を持つ個体が存在したという。所謂”魔王”という奴だ。
もし、このスーパーオーガボディが”魔王”属性を持つ個体なのだとしたら。
この個体を持って本当に魔物の王国を構築することが可能なのではないか?
もしそれが成ったとしたら異世界干渉禁止法は”異世界の出来事に能動的に関わること”が出来ないのだから、魔王がフェードインボディだと気づかれない限り、魔物王国内で異世界人が魔物にどれだけ蹂躙されようが現世界からは干渉することができないということだ。
魔物王国内であれば裏商売もヤリたい放題という事になる。
ウリだけじゃなく。人狩だって異世界警察は干渉出来ない。
間違いなくバズる。
裏商売として。数億信用単位は簡単に超えるビジネスだ。
ならば、腹をくくるか。
今日は創作進んだので今回週二話目の更新です。
更新情報は「活動報告」とツイッターで流します。
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頑張りますので今後もよろしくお願いします




