91話 兄弟仁義
見張り台で夜警を終えた防魔の里の男達は当番明けの寝に入る前にひと汗流そうと水浴び場へ向かった。
先日の夜中に里中が色めき立った湖の火柱騒ぎでいつもはだらける夜の見張り番もかなりの緊張を強いられ疲労困憊だった。
朝焼けの光の中に立ち大自然の真っ只中、フル○ンで眼下遙かに広がる魔物の森の雄大な風景に目を馳せる男たち。
夜との寒暖差で奈落の森に発生する雲海を見下ろしていると遥か昔、まだ人類が衣服を身につける前の野生が蘇って来るような気分になってくる。
やがて日が昇り、雲海が晴れていくと見慣れた何時もの下界の景色へと移り変わってゆく。
はずだった。
雲の切れ目から見えたの景色の一部がいつもと様子が違う。
「おぃい…あそこ変じゃないか?」
森の木々に見え隠れしているが何かが蠢いている。それが、奈落の森中から一条の帯となって湖まで続いていた。
あれは。
「…おい、誰か長老を呼んで来い!」
◇◇
「魔物集団の先頭は湖を囲むように展開、先行した領民救助隊改め奈落討伐隊は手前の中間地点で防衛線を築き待機中です」
家令様が正武先生の上空からの威力偵察や周辺の状況を取り纏めお館様に報告する。
まだ完調ではないものの飛行能力をもつ正武先生と八八二三〇様の最前線での偵察状況は各拠点間を繋ぐ魔導書版通信網を経由して家令様の魔導小板へ報告される。
それによれば湖周辺の魔物たちの群れの数は万を下らない様子らしい。ほとんどが【小鬼】の眷属や【魔狼】、【大躯】などの陸上系中級魔物らしいけれど【動骸骨】や【死肉喰】などの死霊系や【牛鬼】、【単眼巨鬼】、【巨人】等の大物や【魔熊】、【魔豹】等の魔物も混じっているらしい。
そんな数の魔物が一斉に町を襲ったら…。
「…湖と言ったらやはり」ポツリと呟くお館様に。
「【闇王牙】絡みの可能性が高いと推測されます」返す家令様。
「【闇王牙】が魔物共の旗頭だったのかもしれんな、だとしたら十七代目様が五百年前に身を賭して彼奴と相打ったのは正しく当時の木ノ楊出流を未然に危機から救った事になるか」
お館様は感慨深げに語った。
「集まっている魔物が【闇王牙】配下だとするとやはり…」
「大海嘯の前兆と捉えるべきでしょうか?」
家令様を交えお館様を始め、耀導徒第二の三人、居合わせた木ノ楊出流騎士団、通称”木楊団”の各部隊長の皆さま等を急遽玄関広間へ集め緊急の対応策を練る。天井の補修はまだ途中だけれどもなるべく見ない様にしておこう…。
最前線の正武・出翁礼騎士爵も魔導通信網経由で遠隔会議に参加中だ。
「…まだ、袰瓦の葬儀も出してやれぬに、すまんな麗芙鄭」
「いえ、父も木ノ楊出流の為に一命を懸けたのです、今は全力でこの領難を切り抜けるべきです」
家令様の言葉にお館様も首肯した。
「その通りだな、すべて終えたら派手に送ってやろうぞ。
もし魔物共が奈落へでも引き返すならば全軍を持って追撃。町へ向かって進攻してくるならば現行の領軍待機位置を第一防衛線とし迎撃する。どちらにしろ袰瓦の弔い合戦だ、遠慮はいらん、領軍全力を持って殲滅するのみ」
「はっ、雨田駐屯地の国軍からは倉利州騎士爵を筆頭に魔動騎三騎と国軍三千が防衛線左側面に待機状態。霞村の駐屯県軍一千は既に”奈落”の裏側、矢川領蒼穹騎士爵家の援護に移動中、右側面は長渡支領の駐屯県軍二千が霞村駐屯地へ入る手筈です。
一両日中に既に若様と共に県都を立っている応援の魔動騎三騎と県軍千が霞村の県軍と合流、国軍と連携し両側面から木楊団を援護して頂ける由、県軍からは追加応援として更に三千を手配中との連絡が届いておりますれば、まさに万の援軍を得たものにございます」
卒なくすらすらと回答される家令様。
隣でポチャが甲斐甲斐しく資料を手渡したり何やら耳打ちしたり…ぐぬぬ、これがNTR…(違)。
「これで鄭湛が御代(町)へ到着し後詰に入れば木楊団の布陣は完成か」
「…お館様」家令様は少し眉間に影を落とし苦しそうだった。
「苦病むな、麗芙鄭。袰瓦の弔い合戦に私自身が本隊を率いずして何とする?、近隣の応援体制はどうなっておるか?」
「はっ、隣領文和からはご舎弟茶日琉・105男爵令息が騎装の上供回り五百にてご参陣、御代にて後詰へ合力いただけることとなっております…」
そこで家令様は語尾を濁した。
「…富嶽和は相変わらずの日和見か?何やら理由を付けて遅参するのであろう?
そんな者らに親戚になろうなどと持ち掛けられ娘を乞われようとも頷ける訳はないのだがな、しかも相手は準男爵の息子でもない単なる姻戚の庶民、いかに領の流通を握られていると言えど足元を見るにも程がある。
まずは従者となりて親睦を計りたいと言うから募集があったらその時にはと濁してはおいたが。
同じ庶民なら惚れた女の為、己が領主にでも食って掛かるどこぞの気骨ある馬の骨にでもくれてやった方がまだ胸がすくわ」
…なんだかでぃすられている様な褒められている様な複雑な気分。
でも、これは、事実上の交際許可宣言ではなかろうか?
ちろりと美都莉愛を見やると目が合った、顔が真っ赤になっている。途端にボクも顔がカァッと熱くなった、はずかちぃ…。
「後詰には有手倉家魔導騎五六八〇殿にも着いて貰う、本領の守りを全て他領のものに任せるわけには行かない、五六八〇殿には名誉の破損にて隻腕状態のところ無理を押して剣後の護りをお願いしたい」
「!お館様…」抗議の声を上げようとした家令様を遮って。
「おとう…お館様!我ら耀導徒第二にも先陣の一翼の名誉を承りたく…」美都莉愛が声を上げた。
正直この布陣、何が不味いって本隊の主戦力が圧倒的に足りない。少なくとも【闇王牙】を抑えるのには八八二三〇様一騎じゃ申し訳ないけれど役者不足だ、【闇王牙】不在ならギリ何とかなると思うけど、【闇王牙】か【人狼】級が出てきたら、その戦力差分を埋めるのは領軍兵士の命と言うことになる。
ならば、少しでも【闇王牙】に打撃を与えられる耀導徒第二の最前線行きは必須だ。
お館様は愛おし気に美都莉愛を見つめ言った。
「よう言った美都莉愛、それでこそ辺境に生きる木ノ楊出流の女郎花。
しかしお主の冒険者集団は未成人にもかかわらず既に誘拐された領民の奪還という偉業を成し遂げている。
続けて領都防衛の任に当たるというも稼ぎすぎというものであるに、先陣を望むとは大人どもの顔が立たんではないか、そこはちと譲れ」
木楊団の隊長さん達の間から僅かにクスと笑み声が漏れた。
子供にばかり活躍されると大人の立つ瀬がないと面白可笑しく説いてはいるが
愛娘を危険な所へは置きたく無い親心が透けて見える。
そう、美都莉愛を前線に連れて行きたくないのはボクも同じ、ここは一つ。
「お館様、お願いが御座います。我も木ノ楊出流の末席に連なる者として初陣の栄誉賜りたく」
お館様は暫し黙考された。
美都莉愛が行かなくてもボクが行けば耀導徒第二は参加したことになるから名声的には十分。
お館様的には美都莉愛を守れて目的達成。ボク自身の値踏みもできる。
隊長さん達の中には演習でシゴイて貰ってる方々もいる。彼らも木ノ楊出流性を賜ったこのボクが何処までやれるのか見てみたいだろう。
そしてボクが行けば少なくとも何人かは【治癒】で助けることも出来るハズだ。
隊長さん達迄は知らなくてもきっとお館様は報告を受けている、少しでも領兵を死なせたく無いお館様は喉から手が出る程に連れて行きたいはずだ。
むしろ行かないという選択肢がない。
「命の保証は出来んぞ」
値踏みするような目で見て来る。
「ボクだって木ノ楊出流の男です、袰瓦様に戴いた命、今更何を惜しみましょう」
「…そうか、貴様も袰瓦の子か、ならば我らは兄弟よ、共に参るか、諏訪久よ」
「お頼もうします」
これじゃ義親子じゃ無くて義兄弟じゃないてすか、お館様。
これから明日夜までに1話分書けたら明日も更新しますが書けなかったら来週になります。
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頑張りますので今後もよろしくお願いします




