90話 鍔迫合(ツバゼリアイ)
お待たせしました。
そうおっしゃるお館様の目を覗き込んだ瞬間、ボクは困ってしまったんだ。
じっと見つめるお館様の目の端は真っ赤で、泣き腫らしておられた事が伺い知れたから。
僕はこの方にどう信用していただければいいのだろう?
答えあぐねているとお館様からお言葉があった。
「袰瓦は最期にお主に何と言い残したのだったかな?」
あの時の事を思い出すとつい目がウルルンでしまう。
「「美都莉愛の事を頼む」と…」
今度は涙をこぼさぬように、グッと口元に力を入れる。
「そしてお主は何と答えたのだったかな?」
優しいお声だ、この方は一体?
「「命に代えて」と そう、誓いました」語尾が震えてしまった。
「そうか…」
再び腕を組み外の景色を見やるお館様。
「袰瓦が貴様に託したか、夢々蔑ろにはできんな」
言われた瞬間身震いした。
袰瓦様の想いを無下にする者か否かを問われている?
これは裏切る訳には行かないじゃないか。
食えないなぁ、これに応えなきゃ男じゃない。
ボクは無言で頭を垂れた。
多分、ボクの呼吸や声色を読んで居らっしゃるんだろうなぁ、くわばらくわばら。
「近うよれ」
顔をあげると真正面から見据えるお館様。
歩を進め執務机の真ん前に迄進み出る。
お館様はおもむろに腰に挿した刀の小刀を鞘ごと引き抜くと、ズイと片手で差し出した。
「遣わす、木ノ楊出流貴族の末として、その誓い守り通せ」
「ハッ」
頭を下げ両手で捧げ受ける。
うおおおぉ
お館様の差料!脇差とはいえ一領の主の持ち物だぞ!
家宝だ家宝。
震える手で小刀に目を向ければ。
漆塗りの黒鞘に金の象嵌で木ノ楊出流家の家紋入り。
これ…貴族未満切り捨て御免のヤツじゃん!
こわい、こわい、こわい、どんだけ信用してくれてんですかお館様!九郎守様の件は疑っているんでしょうに?
袰瓦様の言質だけでここまで信用しますか?普通。背筋の震えが止まらない。
「そうか、これの重さが判るか?期待できそうだな、我が義息子よ」
にこやかに語るお館様、でも最後発音にトゲ無かった?
「わかっているとは思うが、義息子よ、あくまで、あくまで、便宜上の義理の息子だからな、美都莉愛ちゃ…ゴホン美都莉愛との交際…警護に際して女で無くとも個室で同室出来る位の利権だから、勘違いしておらんよね?」
な、何を言ってるんだ?この人は。いやさお館様は。
「悪い虫を追い払う為のあてう…いやいや、仮の許嫁だからね、頼むよ?事後はちゃんと嫁取り迄面倒見るからね、頼むよ、キミが最後の…いや最後から二番目の砦だからね、しっかりね?頼んだよ?」
ボク何回頼まれたのか?なんで、こんなに威光が薄くなるのか。お館様。
でも、その件に関しては言わせて貰わねばなるまい。
「お館様、お嬢様…美都莉愛との件に関しましては本人との約定によりボ、私が“騎士爵位”を賜りました折にはこの木ノ楊出流領に居を構え、我が妻として迎える所存、これに関しましては誠に申し訳ありませんが、たといお館様のご意向が如何様にありましょうとも一顧だにする余地もございません」
言った、言い切ってやった。
お館様は最初ポカンした顔をしていたけれど、やっとボクの言ったことを理解できたのか
「あン?」
それまでにこやかな好青年ばりの笑顔だった物がいきなり繁華街路地裏事務所のボスの顔におなりあそばされた。
「我が義息子よ、領民上がり風情が領主の言に逆らうと言ったのか?それとも私の聴き違いか?今ならまだ聴き違いで済ましょうぞ」
【闇王牙】ばりの殺気が飛んでくるけれど生憎ですがこちらはあの夜を経験しているのですよ。
生半可な殺気ぶつけられた程度で吐いたツバ飲めませんわ。
「申し訳ありませんが、美都莉愛の求める条件を満たし、我が許嫁を妻として娶らさせて頂きます、コレは決定事項ですので他のご意見を受け入れる余地はありませぬ」
直立不動で腰を直角に曲げ頭を下げる。
「な…」
絶句しているお館様。
「あの親にしてこの子ありか…親子共々領主を何だと…」
何やらブツブツつぶやいている。
「簡単に“騎士爵位”と言うが今の王国爵位は飽和状態、生半可な手柄では授爵など夢にも叶わんぞ?
今の時代何処かの隣接領の様に金銭供与で爵位が買えると思うなよ?」
あー富嶽和領のことかな?
「存じております、成人(16歳)した折には県の魔導学校へ推薦いただきとう御座います。
その後魔導院へ進学し好成績を納めれば法服貴族として騎士爵位を賜れましょう」
ボクの熱弁にあきれ顔で返すお館様。
「それは、シマノクニ全土の学生の中でその年最も優れた人間にだけ与えられる栄誉だ、将来の宰相候補の中にも数えられるに等しいと言う事だぞ?意味をわきまえて語っておるのか?」
「もちろんです、私、諏訪久・木ノ楊出流は美都莉愛・木ノ楊出流を愛しています」
あっ、お館様のコメカミに#、ビキッ!で聞こえた気がした。美都莉愛によう似ている。
「言わせておけば小僧、その若気の意気は良いが多少は躾と言うものも必要な様だな?
よかろう、中庭に出よ、貴族の作法という物を教えてくれよう」
「望むところで御座います、お館様、イヤさお義父上」
こうなったらヤケだ!毒も喰らう栄養も喰らう。
…多分、治癒があればなんとかなるよね。
後は初見殺し“瞬間【縛】”で一本取って勝ち逃げるか。
まぁ最悪イナヅマ先生がなんとかしてくれるんじゃないかなぁと淡い期待。
つかつかと靴音を鳴らしボクの傍らを通り過ぎて行くお館様の背後に付き従う、僕に小刀渡しておいて凄い度胸だなぁ。
まあ、ボクを信用して頂いているのか。
ボクには出来ないと舐められているのか。
まあ、デキても刺さないけど。
黒檀の扉の数歩手前でお館様は立ち止った。
「まて、話せば分かる」
黒檀の扉に話しかけるお館様。
?まさか余りのお怒りに脳の血管でも、義理の父上になられるやも知れぬお方なのだお体の心配はする。
ギイぃ…。
開いた扉の向こうには長杖を斜に構え、美都莉愛を守備する体制の莉夢と
お館様に向けて弓を引き絞る美都莉愛。
「お父様、お名残り惜しゅう御座います」
美都莉愛が悲しそうな顔でご挨拶申し上げた。目だけが座っている。
「ちょ!まてや!美都莉愛ち…美都莉愛!」
「諏訪久を単身呼び出したと聞き、よもやとは思いましたが、問答無用に我が夫をクビると言うなら父上を殺めて私も死にます」
嗚呼……我が妻。
「まて、思いつめるな美都莉愛!ダメとは言っておらん、まだ早いと…」
「元よりあの夜、誰が欠けていたとしても今ワタクシは生きてここには居られなかった事でしょう。
命を共にした我が夫に無体なる真似をしようものならワタクシにもそれなりの覚悟と言うものがあります。
これよりお母様もお呼びし夫婦対決で決着を付けましょう、貴族たる者己が意思を押し通すには力を示せとのご薫陶の賜物、今日こそお目にかけましょうぞ」
物凄い殺気が美都莉愛から並々と溢らるる。
あの夜を過ごしたならばここまでの殺気を発する事も頷けるというもの。
「ふざけるな!亜瑠美奈迄呼べばお主等の味方が増えるだけではないか!主ら今は危険を共にした直後で親近感を増している状態……」
さもありなん。
一触即発、木ノ楊出流親子夫婦喧嘩の乱勃発寸前。
Rrrrrri!
Rrrrrri!
美都莉愛の魔導小板が音を立てた。
ボクらは互いの顔を見合わせ。
美都莉愛とボクと莉夢はお館様の顔を見た。
お館様はどうぞ、と掌を差出し。
美都莉愛は弓を降ろすと胸元から魔導小板を引っ張り出した。
ちなみにまだ僕達の魔導小板は取り上げられてはおらず処置は保留になっている。
今回の【闇王牙】騒ぎが落ち着く迄はこのままだろう。
お嬢様は魔導小板の受信記号に触れ話し始めた。
「あら、長老?先日はありがとうございました」
声が裏返ってますよ、美都莉愛サン。
防魔の里の長老かららしい…って!この電話!
「ええっ!」
美都莉愛の顔が蒼白となった。
「奈落で大海嘯の兆候が!?」
これから明日夜までに1話分書けたら明日も更新しますが書けなかったら来週になります。
更新情報は「活動報告」とツイッターで流します。
https://twitter.com/DarJack51
頑張りますので今後もよろしくお願いします




