88話 遠いどこかで
お待たせしました。
「うおおっ!」
斎藤は異世界潜行ユニットの中で飛び起きた。
はあっはあっ!
大きく息を吐き、吸う。
巨大な三本爪に掴まれたまま水没し溺死して行く臨場体験に流石にベイルアウトしてしまった。
潜行スーツのインナーが汗にまみれている。相当に消耗してしまった様だ。
シンクロ率は94%近くまで上がっていたので脳はほぼ自身の体験と捉えていたハズだ。シンクロ率90%越えでの死亡体験はタイミングによってはショック死しても可笑しくないレベルだ。今でも年に数件は違法潜行屋でリミッター外して潜行した客の死亡がニュースに流れる。
チリチリする延髄の辺りをさすりながら空間コンソールを展開し現況を確認する。
三木は既に自室のユニットから起き上がっているようだった。
焼死体験からよくこの短時間で復帰できるものだ、
斎藤は自分を棚に上げて思った。
ナーロモニターを…
隣接世界をnearworld、narldと呼び出したのは誰なのかは知らない、多分合衆国辺りのスラング的な物なんだろう、極東Nippon地域に似通った文化風俗のある隣り合った世界を斎藤の界隈では隣接世界のNippon、The Near World Nippon 通称ナーロッポンと呼ぶ。
本来ならナールモニターとでも呼ぶべきなんだろうが極東Nippon地域ではナーロモニターで定着してしまった。
学生時代に隣接世界接続技術の専攻をしていたので細い理論も説明はできるが、基礎知識が無い人間に解るように説明するのはダルい。
ざっと言えば。
隣接世界に生成した疑似生命体の視界を通し、あちらの映像情報を取得する仕組み、と言うことになる。
エーテル振動波理論だけで大学で1つの学科が出来る位には大仰な学問なんだ、最初に考えた奴の頭はどうかしてると思う。
とにかくそのナーロモニターを隣接世界で発見したレア魔核、オーガの変異種と推定したモンスター体、斎藤はスーパーオーガと身も蓋もない呼び方をしている。
その視覚視野情報にアクセスした。
異世界ナビゲータのステイタスではCore(核、モンスターの体形が崩れ魔物から魔核に戻った状態)になっていないからアバターボディはまだ健在のはずだ。
濁った水中でデカいパワードアーマーの三本爪のマニュピレーターに捕まれて湖底に転がっている。月の明かりが湖底にまで差しているのか湖面は仄かに明るい。水深は100メートルほどもあるか。
なんとなく体感で感じてはいたがスーパーオーガのアバターボディは重い、あれだけの筋力と柔軟性を併せ持つモンスターボディは初めてだったが水に浮かないというのはちょっとした盲点だった。その重さを打撃に乗せられるからこそのあの破壊力なのだと思えば正当な交換条件か?
これだけのレアモンスターのボディをむざむざ湖底で朽ちさせるのは惜しい。
なんとかして回収したいものだが。
ユニットから降り補給キューブ食を口内に放り込みハイポトニックジェリーのチューブを咥え消耗した体力を回復させながら考える。
通常、あちらの世界では魔物身体は多少の傷ならば時間の経過で自然回復する。
精神感応受容元素(Telepathy recept element)又は、不思議元素(Wonder element)。
生物の精神に感応し様々な現象を実現させるナーロッポンに存在すると考えられている不思議物質を吸収し自動で修復する様にと魔核に術式記述されているからだ。
魔物身体の自体も魔核の記述に従って形成される。
この物質は魔法元素とか不思議物質なんて呼び方があるが、極東地域Nipponで一般的な呼称はズバリ魔素だ。
その魔素はナーロッボン世界の大気に多量に含まれているらしい。
らしいと言うのは此方の世界では誰もその大気成分を計測した者がいないからだ。
ただし理論通りの結果が出ているのだから、あると判断するのが正解なのだろう。
理論自体に些少の齟齬があろうが実用レベルでは問題にはならない。
通常は呼吸によってその体内に取り込んだ大気の中から魔素を体内に取り込んでいるモンスターは、その疑似生命活動を維持できなくなるほどの規模の身体の破損が起こるか、疑似生命活動を司る魔核を破壊されない限りその活動と再生を続ける事が出来る。
水棲モンスターも居るらしいのだがそちらは見たことも無いので水中での魔素補給の仕組みがどうなっているのかは斎藤はしらない。
とにかく、水中では呼吸が出来ず活動原動力としても補修材料としても必要な魔素の補給が絶望的だ。
ただ、水中に居るから単純に溺死という理由ではスーパーオーガのボディは崩壊しない様なのだ。
モンスター自体の活動に酸素は必要でないのかもしれない。
神経の回復を待つ間じっくりと考えるさ。
◆■
111011111011
111011111011110010011111111011111011110010011111111011111011110010011111…
(…以降翻訳)
「素体が水没してしまったか。再度あのコアとボディを生成するのに数百年もの時間をかけるよりは回収の手法を検討したいものだが」
「監視 AI 37520、発言よろしいか?」e85629区画を担当する端末AIの一柱が許可を求めた。
「もちろんだとも端末 AI 37520-07793」
「私が電子秘書にアクセスし調査の一端を負わせているニンゲン個体の件だが」
「ああ、サイトウ個体の事だね、彼のユニークな行動は我々の活動に十分に貢献している、彼の格闘戦データと現地民を活用した現地端末の量産計画は今後の隣接世界拉致者奪還作戦に十分寄与する事となろう」
監視 AI 37520の評価は上々だ。
「ありがとうございます、我が支配下の補助AI達も喜ぶことでしょう。そのサイトウの異世界ナヴィゲーションAIからの報告です、水没前の戦闘中、こちらの世界の言語を話す個体との接触があった模様です」
ナノ数秒、監視 AI 37520の反応が止まった。
「それは、由々しき事態だぞ?端末 AI 37520-07793、ハブソヨギ本人又はその子孫の可能性は?」
「声音的には適合率20%以下、肉親である可能性すらありません、が…」
「が?」珍しく歯切れの悪い端末 AI 37520-07793の言葉に監視 AI 37520が回答をうながす。
「…行動様式適合率が92%あります。肉体は他人でも中身はハブソヨギまたはその薫陶を得た別個体である可能性があると愚考いたします」
「なるほど、我らがマザー”リリス”の様に、意識を他の媒体に移し生き永らえている可能性は十分にあるな、マザー”リリス”が唯一認める頭脳の持ち主だ、我らの予測を超える事象もさもありなん、MA-0反応を追っていて金星に当たるとは重畳、引き続きサイトウへの支援を続行し周辺を監視せよ」
「了解しました、湖周辺のモンスター群へのアクセス権限を付与願います」
「Level.Bまでの権限を許可する、サイトウのフェードインボディ“魔王の素体”を回収せよ。
今回は二話ぐらい更新できたらいいなぁと考えています。




