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9話 屑星からの脱出

 家令様の視線にこくりと首を降って承知しましたの意思表示。


 家令様はお嬢様に構わず話を続けた。


「ここで取り繕っても仕方がないので単刀直入に言おう。諏訪久(すぽぅく)、君を吏員見習いで雇用したい」


 耳を疑った。

「はい?」

「君は昨日、吏員になりたいと言っていたね。だが私は恩恵技能(ぎふと)の正体が不明な事を理由に即答はしなかった」


 え、今何が起こってるの?


「昨夜、君の恩恵技能(ぎふと)が希少魔法もしくはその互換である可能性が出てきた。その確認だけ行って結果により採用の可否を判断しても良いのだがそれでは余りにも君に利が少ない」


 もしかしてだけど、これ野望(ゆめ)の第一歩がかなう瞬間なの?


「これから君の恩恵技能(ぎふと)の確認を行いたい、その行為を受ける見返りとして最低一年、吏員見習いとして採用することを約束しよう」


「受けます」


 即答した。


 逆に家令様が引いた。

「いや、諏訪久(すぽぅく)ご両親と相談して返答は明日にでも……」


「受けます、お願い致します試験を、ぜひ」

 繰り返した。フンスと鼻息も荒くズイと家令様の前にクイ気味に進み出る。


 このままいっても親父が死ぬまでゲンコツ貰いながら修理職人になる将来しか見えない。


 洗礼の儀で恩恵技能(ぎふと)を授かって初めて別の道を進む可能性が開けたんだ、多少無理してでも飛び乗りたい。


「……わかった今日は一日仮採用という事にして、今後のことはご両親に後で私から説明しよう。もし仮に雇用の話が流れたとしても今日の()()は秘密だよ?」


 茶目っ気たっぷりな微笑みの家令様。


「はい、承知しました」

 そうだよな採用の陰には(今日あったあんなコトとか、こんなコトとか黙っててネ)というのも入ってるんだろうな。主にお嬢様のこととか、お嬢様のこととか。


 ボクが頷くのを確認して。家令様はおもむろに机の中から神官様がお使いになる《魔導小板》を取り出した。


『とぅっとぅる〜♪ステイタスチェッカー~』


 いつの間に帰ってきたのかイナヅマ……様。突然ロクでもない機会(たいみんぐ)で話してくる。もちろんイナヅマ様の台詞は家令様達には見えていない。


「これから、もう一度諏訪久(すぽぅく)恩恵技能(ぎふと)を確認する、洗礼の時にやったから覚えているね?」


 再びうなずく。


 数瞬おいて。


 きた、洗礼の時は感じなかった圧力。

 窓が開く。

 文字が光る。

 走る。


 同時にもう一枚! 更に窓が開く。


很好(へんはお)(いいね)! 複数同時起動(まるちたすく)


 何か興奮しているというのは判るが意味はさっぱり分からない。


 でも窓が重なった部分を“邪魔だ”と意識すると。意識した方の窓が奥に行き見たい窓が手前に出る。

 窓は上側の横棒を意識することによりその位置を任意に移動させることができ、窓周囲の桟部分を意識することで窓自体の拡大・縮小が可能なことが判った。


 《魔導小板》の魔法が完了すると窓が閉じる。この開いてから閉じるまでの一連の間が詠唱時間という事になるのだそうだ。


 昨夜のイナヅマ様との実験では詠唱時間内に窓の中の紋様を”選択”し”消し去る”ことを意識することで魔法の発動を妨害できるところまでは掴んでいた。



「なるほど……神官から”読めない技能(すきる)”と聞いていたけど、確かに」


 家令様は何やら書類に《魔導小板》に表示された紋様の形を書き写している。

 ぼくも初めて見る模様だった、神官様からは恩恵技能(ぎふと)はあるが何かわからないとしか聞いていない。


 家令様の書き写した恩恵技能(ぎふと) その名は【editor】


『うーん、これはね…()()の文字で【editor】(えでぃたぁ)って書いてあるんだ……”編集する者”って意味だね』


 ぴろん、と開いたイナズマ様の窓に

「えでぃたー?」うっかり反応してしまった。


 はっとして家令様の顔を見る、目が合った。

「読めるのかい?」興味津々な目をしている。


『すまん私のミスだ、解説は後でするべきだった(汗』

「……いえ、何となく、こんな読み方かなぁ、と」


 かなり焦った顔しているだろう、これで誤魔化し切れるとは思わない方がよさそうだ。

「ふぅん…いつまでも“読めない技能(すきる)”じゃ困るしね、本当の読み方が判るまで所有者命名ということで“えでぃたー”と呼ぼうか」


 ツルの一声で決まってしまった。これ本当の呼び方が判った時に何故ボクが読めたのか詰められそうだけど、まだ来てない未来は未来のボクに任せよう。


「さて次は【editor】でできることを確認しよう、具体的には昨日“若”に対して諏訪久(すぽぅく)がやったことを再現したい」


(にい)様と同じ系統の魔法と言ったらアタシよね」


 先ほどから頭を押さえつつ、じと目のままおとなしく成り行きを見守っていらしていたお嬢様がここぞとばかりに名乗りを上げた。出番が来たのがうれしいのかニコニコが止まらない。


 でも、ごめんなさいお嬢様。


「あの、多分若様の魔法を再現をしなくても試せると思います」


 昨夜イナヅマ……様とあれだけ頑張ったんだ、できるはずだ。


「もう一度《魔導小板》を使って恩恵技能(ぎふと)の確認をしてみてください」




 はたして、イナヅマ様の魔法と同じく調査系魔道具の魔法起動を停止させることなど容易かった。


 続けて、家令様の持つ【水口(わら)】と【土礫(ぐらべる)】(なんと、家令様は二つの魔法を持つ“二つ星”だった)の魔法起動をそれぞれ止めて見せた。


「これは…」


 自らを持って、生まれて初めて魔法起動を止められるという経験をした家令様はさすがに興奮を隠せぬ様子でかなり長い文章を書類に書き留めていた。


「【無効(あんち)】よりも【消魔(いれぃず)】に近い感じかな? 研究者に問い合わせれば何か解りそうか……」


「ねぇ~麗芙鄭(れふてぃ)ばっかり楽しんでてズルくない?アタシの魔法も消して見せて~」


 招かれざる客であるはずのお嬢様は、地道な検証作業に飽きてしまったのか、自分にも参加させろと駄々をこね始めた。


「どうする? 諏訪久(すぽぅく)私としては研究者に送る情報としてはもう十分だと思っているが」


 ボクの中ではすっかり残念認定されてしまったお嬢様ではあるものの吏員として勤める上は雇い主様(すぽんさぁ)のお嬢様でもある、点数を稼いでおいても罰は当たらないだろう。


「大丈夫です、やってみたいです」


 手を抜く気は全くありませんが。


「そうこなくっちゃ」


 嬉々としてお嬢様は立ち上がった。


 家令様はしばらく考えると


「そうですね()()だけなら大丈夫でしょう、危険なので屋内演習場で行いましょう」





 屋内演習場はお屋敷の中庭に隣接された屋根の高い広間といった風情だった。


 屋根と壁があるだけで床は地面と変わらない。単純に雨天時でも雨に当たらず修練できる。

 それだけの場所だが片方の壁に弓矢の的が置かれているので弓の練習も行われているのだろう。

 今回は秘密の特訓と言った体で窓をすべて閉じて行う事となった。



 そこで【editor】の欠点が露呈することとなってしまった。



 窓を閉じて薄暗くなった屋内演習場に魔導照明を灯すため設置された切替(すぃっち)を操作した時だった。


 天井に設置されたいくつもの大型魔導照明が起動して明かりをともし始めたのを見上げたとたん。


 窓。 窓。 窓。 窓。 窓。 窓。 窓。 窓。 窓。 窓。 


 窓。 窓。 窓。 窓。 窓。 窓。 窓。 窓。 窓。 窓。


 窓。 窓。 窓。 窓。 窓。 窓。 窓。 窓。 窓。 窓。


 窓。 窓。 窓。 窓。 窓。 窓。 窓。 窓。 窓。 窓。


 窓。 窓。 窓。 窓。 窓。 窓。 窓。 窓。 窓。 窓。



 魔導照明の数だけ窓が開いた。


 同時に意識は暗転した。




 数の暴力には敵わなかったよ。

山本貴嗣先生ごめんなさい


惰弱:しまった!スポークは言わない言い方でアレを言わせてしまった(汗)0:45頃修正しました。

キャラクターの読み方の違いで張る伏線は何気にハードル高かったです

、記述ミスが即ミスリードなるし、まともに推理されてる方居たら怒られそうです。

 予定変えて早目に伏線回収するかもです(ΦwΦ)


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