86話 事後いろいろありまして
スポ~ン
と、音が聞こえてきそうだった。
袰瓦様の絶叫が僕達の耳に飛び込んで来ると同時に。
高速回転されていた五六八〇様は、腕ごと【闇王牙】を放り投げた。
切り離された腕部は【闇王牙】を掴まえたまま見事な放物線を描きながら宙を舞った。
そしてそのまま、湖のほぼ中心辺りへ着水すると白い水柱と波紋を残し、あっけない程にあっさりと水面下へ消えて行った。
あ、あいつ。詰まってるから重すぎて水に浮かばないってことなの…か…。
◇◇◇
「私に後詰をせよとな?」
木ノ楊出流領現当主、可汎・Ⅵ・木ノ楊出流は漆黒の総髪をかき上げながら自領よりの使者の持参した帰領を促す書簡に目を通し口頭を持って再度確認した。
「はっ!既に袰瓦・有手倉卿、正武・出翁礼卿、各々単騎出陣。編成中の騎甲師団も準備済の隊から順次出陣を始めております。
周辺領の皆様方、国軍、県軍のご援軍方々には緊急待機の要請が成されておりますれば、お館様に置かれましては領央にてご采配を賜りたいとの家令様のお言葉にて」
早馬でたどり着いたままの姿で息を継ぎながら片膝をつく使者に執務机に居ながらにして相対する。
可汎は己付きの事務官に持ってこさせた水杯と汗拭き用のおしぼりを使者に奨めた。
「現状に沿った良い布陣だな、流石は麗芙鄭である。ご援軍方々の手前勿論私も参陣するが、魔導学校の鄭湛を連れて行こう、良い経験になるだろう」
この布陣では自分は既に対外的なお飾りに過ぎない、そう急ぐ必要もなかろう。むしろこの機会をどう利用するかに知恵を絞るべきだと可汎木ノ楊出流は考える。
溜まっていた有給休暇も使用の申請は軍監殿に提出済みである。色々あって久しぶりの里帰りだ土産も用意せねばなるまい。
そんな、可汎の気分を察したのか使者は続けた。
「魔導学校の若様には別使にて参陣を願い出ておりますれば、お館様に置かれましてはご迅速なる出立をお願いしたいとの家令様のお言葉にございます」
笑って可汎は応える。
「判った判った、明日一日で仕度を整え、明後日には出立しようではないか、朱秘頼図弩伯にご挨拶もせねばなるまい」
(朱秘頼図弩伯には内々に魔導騎士三騎に供回りの県兵千名、他に木ノ楊出流駐屯兵団三千を側面援護にお借りする話しがついている、いかに【闇王牙】が相手と言えど十分な戦力である。
だいたい、些少の行違いで帰郷不要などと言い出したのは亜瑠美奈ではないか、帰郷解禁に釣られて楚々草と帰っては今後の夫婦間の駆け引きにも我の軽重が問われよう程に、ここは家長たる者のの重みを示すところではないか)
夫婦間の駆け引きなど使者には分かりようも無い。
可汎の腰が重いと見た使者は、一瞬ためらった後。懐から半分に折られた一枚の懐紙を取出した。
万が一、主の腰が重いと見た場合渡すようにと言付けられたものだ。
封もされていない為内容は知っている。
何事もなければ極力使わずに済ませようと考えていたが。
折られた懐紙の表書き、差出人の名は諏訪久木ノ楊出流。
その名を見た時にお館の顔が陰ったのは見逃さなかった、当たり前である。
「九郎守様の加護を獲たとかぬかす義理の息子とやらか?麗芙鄭ともあろうものがガキの手妻に惑わされようとは…」
亜瑠美奈初め領内の重鎮共の目が皆フシアナさんと言うこともあるまいからそれなりに有能な者のなのだろうとは思う。
鄭湛に聞けば、魔導学校へ隣県太守殿のご令嬢留学警護のおり、貴人の列を遮った痴れ者を庇い鄭湛の魔法を打ち消したと言う。
少なくとも対魔系の魔法の使い手なのだとは思う、麗芙鄭の知らせの通り金星なのだろう、そのとおりなのであれば。
美都莉愛ちゃんの
美都莉愛の
娘の
む、む、む、ムコ…あくまで、あくまで(二回言った、ここ大事)仮のだが。
としても相応しかろうガキなのであろうが。
いかんせん、木ノ楊出流家先祖の名を語る事だけは許せなかった。
「で、その義理の息子とやらが何用か?」
「それが…その…」使者は言葉に詰まった。
「構わん、申せ」
「…その、家令様曰く、『可汎…様の性格から言っていざ参陣願いたしの時機に考えすぎて腰が重かろうから色々ゴネたらこれを見せてケツを叩け』と…その、預けた諏訪久殿も奈落への出立の直前九郎守様より言付かったとのことでありまして…」
…ほう…
主を見る使者の顔色が変わった。
「余程死にたいと見える、その諏訪久とやら」
震える手で折られた懐紙を開く可汎。
『首もぎ小僧、息災か?問答無用さっさと来やれ』
使者は己の主の顔色がみるみると青白く染まってゆく様を始めて目撃した。
(…あの件は袰瓦しか知ら…)
がたりと席を立った可汎・Ⅵ・木ノ楊出流は叫んだ。
「たれか!沙綾部呂騎士爵に連絡を取ってくれ大至急だ!」
◇◇
「莉夢〜」
空の上から五六八〇様と忍者軍団及び拉致女性集団ご一行を発見した美都莉愛とボクは八八二三〇様の腰部に即席で吊るされた簡易な立ち乗り器具に乗ったまま手を振り合図した。
袰瓦様の機転で五六八〇様の右腕ごと湖の中に放り込まれ沈んだ【闇王牙】は一晩中監視していてくれた忍者軍団の方々によれば朝の段階では浮かび上がっては来た様子はないとの連絡があった。
陸上の魔物である【王牙】が水中に沈められて数刻、息の根を絶ったかどうかは確認できていない。
「【闇王牙】があれで最後だとは思えない」
正武先生はそう仰言って難しい顔をして湖の水面を見つめていたが。
いつまでそうしていても拉致も開かず。
袰瓦様をこのままにしておくわけも行かず、一部監視要員を残し当初の打ち合わせ通り、最寄りの木ノ楊出流領軍要害の一つを目指した。
分散した救助女性達も全員無事に集結を完了し、胎内の魔石を破壊後、狭い砦内の床で殆ど雑魚寝に近い状態だったけれど数週間振りにぐっすりと安眠することが出来た様だ。
忍者軍団の方々も必然的に野営となったけれど一言も文句を言わず従ってくれた。勿論僕達もだ、五六八〇様中に安置された領の英霊をお守りしするのだから苦でも何でもない。
主を失った五六八〇様は自閉症モードに陥り、外部からの命令を受け付けなくなったけれど、ボクを介したイナヅマの操作で補助知能を独立起動し、歩く程度の単純な行動は取らせることができるようになったので取り敢えず自走での移動が可能になった。助かった。
その後正武先生と美都莉愛、莉夢とボクと忍者隊長さんで今後の方向性をすり合わせた。
イナヅマはボクを通して八八二三〇様の修理を第一に推した。あの、前線基地の修繕機構を使えば短期間で最低限の復調はできるとのことで。
【闇王牙】の動向が掴めず五六八〇様は活動困難の状態では木ノ楊出流が丸腰になってしまうため八八二三〇様の復調と機動性の確保が第一義と主張してきた。
他の皆様にも御賛同頂いた為、美都莉愛、正武先生、ボクが修理組として歩真[彩母ちゃん]を里に送り届けながら一度防魔の山迄戻り。
莉夢を筆頭に忍者軍団の皆さんで袰瓦様、五六八〇様、救出した女性達を連れて帰路に付いてもらい。八八二三〇様をとりあえずでも飛べる様に直して空から合流すると言う作戦を展開する事となったのだった。
今回の公開はここで一区切りです。
昨日は更新無理でした。
流石に週三話は厳しかったので来週末は一話か二話。ノリノリで書けたら三話でお願いします。
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頑張りますので今後もよろしくお願いします




