83話 賑やかな湖畔の森の陰から
「ぬぅ!」
未来位置へ振りかざした回転鎖刃剣を躱されてしまった。
重厚で頑丈な 五六八〇だがその分機動性が劣るのは致し方ない。
追い込み誘い込みで罠にはめる、それが五六八〇で魔物を狩るのに最も良い方法であったはずなのだが。
【闇王牙】は、俊敏性、機動性が高くこちらの策を軽々と踏み潰し超えてくる、竜種並に高い討伐難易度ではないか。
いや、大きさの問題も入れれば竜種以上か?最低でも五六八〇の数倍はある竜種と比較して、【闇王牙】はせいぜい八尺(約2.4m)そこそこ、
的が小さく俊敏すぎて悲しいかな五六八〇では追い切れない。正武・出翁礼から送られて来た戦闘情報を読めばこれ迄の常識から逸脱した魔物であることが読み取れる。
「御爺、かわされたーごみんなさいー」
「嘆くな、わらし。お主のせいでは無いわ」
今まで戦ったどんな魔物より桁違いに強い、魔導騎であっても単騎で狩るのは難しい、竜種よろしく騎甲師団を編成し数で囲んで圧殺するのが正解であろう。
はたして、木ノ楊出流十七代目亜露威様は如何にしてこの難敵を相打ち倒したものか。
最初の頃は何回か掠めていた回転鎖刃剣も異様に頑丈な体表に邪魔され斬り裂き切れない。五六八〇の小回りの利かなさもそろそろ見切られ始めてきた。
このままではまずい。
袰瓦の焦りが伝わってしまったものか。
「スキありぃぃぃ!」
五六八〇の戦闘想置は【闇王牙】の隙を発見し自律攻撃で手首回転正拳突きを発動した。
してしまった。
「!いかん、五六八〇…」
一度敵と認識した目標に対しての攻撃意思の継続委任を設定していた袰瓦。
騎内で装者が死亡しても、敵を倒すまで自律戦闘の継続を可能とさせるための設定が裏目に出てしまった。
◇◆
来たぁ!待ってたぞ、稀に来る雑な攻め、"ここを攻めて来い"とワザと隙を作れば半端達人程引っ掛かる。二人操作のうちの未熟な方なら引っ掛かると思った。
あのドリルパンチは手首回転を起点に伸縮自在の腕が真っ直ぐ突っ込んてくる。固定動作はもう読んだ!
バックステップと上体を反らしながら真っ直ぐに伸びた突き腕をまぁるく受け流す。
地を蹴り、伸び切った腕の上に飛び上がり走る。銅色の重機胴体までの一本道。
途中反対の腕のチェーンソーが薙ぎ払いに来るが、わかっていれば避けられる。自分の腕を斬りつける方向での変化は来ないだろ?
そこから更に跳ね、重機の本体の上部に体重を載せた両の踵をたたきつける、全体形状から推測してここに人間が乗っているはずだ。ベッコリと凹ませてやった。まぁ思いの外頑丈で完全に潰したとはいえないが多少は影響出るんだろうが?
飛び降りついでに置き土産のダブルスレッジハンマーで同じく本体を叩くがこちらも僅かに凹んだだけだ。
戦車より硬いんかよっ。
◆◇
緩衝装甲を突き抜けて装者に衝撃が届くとな!
「ぬう!竜種の一撃にも耐えた五六八〇の外装をひしゃげさせるか」
破損の一部は袰瓦の頭部を掠りその白髪と顔面を血に濡らしていた。
五六八〇本体まで敵の攻撃が届き緩衝装置の限界を超えて装者迄毀傷させらるる等初めてのこと、古傷にまみれた身体がきしみ始めてしまった。
いくつかの操作系を破損し精細制御が困難になったことも痛い。
「この年になって初めての事態か、経験不足とは情けないのう」
流石に老骨には身にしみる…叶うなら全盛時代に遣り合いたかったものよ。
◇◇
「あの音は不味い、緩衝装甲が衝撃を殺しきれず中の袰瓦殿にまで届いている、御人、古傷に触らねばいいが」
正武先生が焦りの声で呟いた。
ぽつりとお嬢様が言う
「伯父様の身体、全身傷だらけで、雨の日は古傷で起き上がれない位酷い痛みらしいの、いつもは我慢してワザと涼しい顔をなさっているけれど」
何ですって!?単なるおちゃらけた御老人だと思っていたのに!だめです!木ノ楊出流の鉄壁が堕ちることなんてあっちゃいけません。
決めた!
「正武先生!ボクを袰瓦様の所まで連れて行ってもらえませんか?」
正武先生は何を言われてるのか解らないといった顔をしていた。
「ボクが袰瓦様を回復します」
と伝えるとお嬢様と莉夢が
「本当です、諏訪久はお母(奥)様の【治癒】が使えるんです!」と、取りなしてくれた。
「…ぬぅ、命の保証はできんぞ」真剣な眼差しでボクを見る先生に向かって
「ボクも木ノ楊出流貴族の端くれです」
武者震いしながらそう伝えると先生はニッと笑い。
「某の眼力もたいしたものよの。ゆくぞ、諏訪久卿!」そう叫んで面頬を下ろした
◇◇
長い両腕の内側に入られてしまえば戦闘は小回りの効く【闇王牙】の独壇場だった。四本の脚は主に移動用途、簡単には壊されない反面攻撃への転用も難しい。ほぼ防戦一方であった。
「何とかして引き離さんと…最終手段も止む無しか?」苦渋の決断に迫られるかと思いきや。
「五六八〇!さがりおろう」一度引いたはずの八八二三〇が割って入った。
「!すまぬ正武!助かったわ」
「なんの!一時諏訪久の元へ、治療をうけられよ」「なんと!?」
数合の上段打ちから腰を沈ませての肘で水月へ打ち込む技に片足に残された推進力を合わせて【闇王牙】を五六八〇から引き離す。
「八八二三〇と某ではいずれは押し切られる、お早く!」
「判った!暫し頼む」
◇◇
八八二三〇様と交代で後退してきた五六八〇様に面頬を上げて駆け寄る。
「有手倉卿!」白髪もお顔も乾いた血にまみれている、おいたわしや。
「おお、諏訪久、治療の手があるとな?」四脚をたたみ高さを下げた五六八〇様の歪んだ搭乗天蓋を無理やりこじ開けながらおっしゃる。
「ボクを載せてください。ボクは奥様の【治癒】を使えます、お体に触れていないと発動できません、ボクの恩恵技能はそういう力です」
有手倉卿は目を丸くし。
「やはりそうか美都莉愛の見間違いではなかったのだな、領内に三人もの【治癒】の使い手がおるとは、木ノ楊出流の未来も安泰よ!重畳である」
「されば、お早く」「ならん」「!なぜ!?」
「諏訪久よ、治癒系の魔法を扱う者は心得ねばならぬことがたんとある、木ノ楊出流へ帰還したら亜瑠美奈に教えを乞うべし」
「なんと申されます!」
「ワシの傷はな、深く数が多すぎで【治癒】の高速回復を行うと逆に古傷が開く、ズレて繋がってしまっている皮膚や腱が戻ろうとしてな…だから今は【治癒】は受けられん、そういう判断が【治癒】を扱う者には必要なのよ」
逆にボクが驚いた、「そんな…」ガクガクと膝が震える、何の役にも立てないなんて。
「嘆くな!ワシは木ノ楊出流の益々の発展を今確信したぞ、お主らに木ノ楊出流の行く末を託す、必ず生き延びよ」
ボク達は力を込めて頷いた。
「さて、一息入れさせて貰った、正武と替わってやらねばならん」
チロリと視線を正武先生と【闇王牙】の方に向け。
「たれか、水を一杯くれまいか?」
有手倉卿の言葉に美都莉愛が己の水筒を投げ渡す。
その水筒を煽った有手倉卿は
「おお、甘露の如し!」
一言残し、搭乗天蓋を下ろすと再度【闇王牙】の元へ向かって行ってしまわれた。
…な、何も、できなかったなんて…。
◇◆
なんだぁこの銀鷹アーマー、地に足を付けてもこの強さとは!銅蛸蟹モドキと交代してからこっち防戦一方だ…でも、判るよ、受けに回ると装甲の薄い所ヤラれて終わるもんな。このラッシュはそんなに長く続かないんだろう?蛸蟹が何かするための"つなぎ"なだけだ。
しかし、これでこのスーパーオーガボディならこっちの世界のバワードアーマーとも十分以上にヤレるってことが判った。
ちったぁ骨だがこいつら倒して今度はもっと町の近くに拠点作るか。女も攫い放題だし食料も集めやすい。
さて、離脱してた蛸蟹が帰ってきた、今度はどんな手品を見せてくれるのかな?
◆◇
手が震える。
「こんなときに…何もできないなんてっ」もつれ絡み合う魔導騎様方と【闇王牙】を遠巻きに見ながら自分の無力さに臍を噛む。
そんなボクににそっと体を添わせてくれる美都莉愛の、頬にまだこびりついた嘔吐物の跡が痛々しい。
【水口】
手から滴り出る水で美都莉愛の頬を拭う。
「貴方の技能って…【複製】?それも単発じゃなく…」ボクの目を見ながら頬に充てられたボクの手の甲に自分の掌を重ねる美都莉愛。愛おしい。
「…みたいにも使えるけど正直まだ底が判らないんだ、あの炎柱もそうだし…」
言いながら…ひらめいた!。
「美都莉愛、僕たちにはまだできることがある」
美都莉愛の両腕を掴み、瞳を覗き込んだ、これならイケる!…かもしれない。
そっと目を閉じて軽く頤を上げる美都莉愛。
なに?どしたの?
「美都莉愛!寝てる場合じゃない!」掴かんだ両腕を揺さぶる。
しぶしぶと言った空気で目を開ける美都莉…あれ?いきなり機嫌悪?
「あによう…」
「お願いがあるんだ、これならボクたちにもデキる!」
「いいケド…できることならなんだってするわよ」
「美都莉愛!ボクたち“合体”しよう!」
キョトンとした美都莉愛の顔が次第に真っ赤に染まり。
「い、い、い、い、いいきなりソコまで?!ココで?!…い、いいケド…こころの準備が!!」絶叫した。
…え゛、ボクまた何かやっやいました?
明日の更新は
時間までにあと一話書き溜め完成できれば更新。
できなければ見送り来週更新になります。
更新の場合はツイッターと活動報告で連絡します。




