81話 月下の騎士
騎士には月下の光がよく似合う。
【黒大躯】戦で死にかけたボクを助けに来てくれた八八二三〇様、魔力を使い切ったと聞いていたけれど復帰されていたのですね。
でも正武先生と魔導騎様がなぜここに…。
『基地の通信設備をジャック…掌握し、八八二三〇へ直接連絡したそうだ、原初の一が』
は、羽生さん!
『一度、忘魔の基地付近へ呼び出して私を拾ってもらった、主には内密のままにな。
君たちを追い駆けていたのだが見事な火柱が良い目印になったぞ、頑張ったな諏訪久』
『イ、イナヅマぁ…』手の平の上に乗った黄金虫の身体にポタポタと雫がそぼ降る。
『泣き虫は相変わらずだなぁ諏訪久。ふ…む…しばらく離れた間に随分と魔法が増えたな…魔導装備も…原初の一の言う通り規定違反ではない、規定違反ではないが由々しき事態だ、全て終わったあとに伝えるべきことがあるから覚悟して置く様に』
『いなづま…サン?』
感動の再会もそこそこに。ボク達の傍らに正武先生と八八二三〇様は静かに降り立った。
「諏訪久、美都莉愛、我が娘を頼む」
ボク達はぐったりとした莉夢の身体を受け取る、特に目立った外傷は無い、気を失っているだけの様に見える、念のため【治癒】をかけておく。
八八二三〇様を纏った正武先生が踵を返し。
【闇王牙】へと相対する。
縺翫♀縺翫♀縲∵悽迚ゥ縺ッ蛻昴a縺ヲ隕九k縺槭ヱ繝ッ繝シ繝峨い繝シ繝槭?―――――。
(おおおお、本物は初めて見るぞパワードアーマーってやつだな?ガキ共の着てる衝撃を吸収するスーツとかマジお前らの文明ってどうなの?鉄砲も車も無いのに、歪すぎねえか?)
「ふむ、ご領主殿ご先祖の仇と言われおる【闇王牙】だな、我等騎士、魔物を狩る定故お相手つかまつろう」
背中に背負った忍者刀速風を目にも止まらぬ早業で抜き放つと、同時に投げる羽手裏剣は【闇王牙】の胸ど真ん中に命中した。
縺後▲?
(がっ!)
多分、美都莉愛の【光矢】よりもダメージが通っている。
「先生!ソイツめっちゃ硬いッス!」判ってるとは思うけど応援せずには居られない。
「承知!」
【八八二三〇】様の足元より爆烈的な砂塵が舞い上がり突進を始め。【闇王牙】にブチ当たるとそのまま炎柱の方まで押し出していった。
多分、ボク達から【王牙】を引き離してくれたんだと思う、ありがとうございます正武先生。
「小若様…」散ったはずの忍者部隊の方々が寄ってきて
「先程、得物を失われたかと、我等の姫をお守りするためご尽力賜りたく…」
刀の小刀を差出してくれた。
「ありがたし」
ありがたくお借りしよう、多分若様の妹の婿(仮)だから「小若様」なんだろうけど若様と同列に呼ばれるコト自体が何だか気恥ずかしい。
さて、ボク等はボク等で囲んでいる幾百もの【魔狼】を相手にする事になる。
はたして、生き延びることができるか。
◇◆
燃え盛る火炎の渦の傍らで、交差する白銀と闇。
何合打ち合ったろうか。
(拉致があかねぇ。何だぁ!その飛ぶ鎧は、空から刀構えて降ってくるなんてデタラメがあるカァァァ!)
【闇王牙】(斎藤)が吠える。しかも逃げても空中て自在に軌道が変わる。正直、異世界人側に自由に空を飛べる個体が有るのは想定外だった。
(移動用のロック鳥を遠くへ退避させて置いたのは正解だったな)
こんなに自在に宙を舞われると下手な空中用モンスターは皆ヤラれっちまう。
(でもよぉ…
ナカノヒト斎藤はニヤリと笑った。
◆◇
「ぐぅ…これだけ攻めているのに、これでは埒が明かん」
こんな魔物は初めてだった。
「武の心得のある魔物が存在すると言うのか!」
【王牙】、【単眼巨鬼】、竜種等、ありとあらゆる魔物と相対してきた正武であっても、魔物が半身で構え、攻めを尽く受け流されるのは初めての経験であった。なおかつ一撃が異常に重い、直に受けず流したとしても相応の痛手を受ける。
「主殿!我らとは相性の悪い相手だ、正面から当たるのは不味い!」
八八二三〇の言葉に正武はうなづくより他はなかった。
◇◆
(次だ、次のタイミングで…)
下段から逆袈裟に斬り上げるパワードアーマーの死角へ潜り込む様に放ったローキックは脚部の飛行を司ると見た部位に突き刺さる。
払うでなく、上から地に叩きつける、脛を折りに行くローだ。
弓女の必殺技ですら弾き返す頑強なスーパーオーガの肉体ありきのゴリ押しだが。
メキリと感触が伝わり、上昇しようとした鎧がバランスを崩し森の樹幹に突っ込んだ。
(思った通りだ、空を飛ぶ奴ァ軽量化の為に耐久性を犠牲にしてる。下手なモンスターよりは確かに硬いが、このスーパーオーガボディならダメージを与えられる!)
◆◇
やられた!
「主殿、飛空装置破損!機動力半減、通常なら撤退をお勧めする所だが…」
「推して参る!」「合点承知!」
機動飛装系魔道騎は押し並べて装甲が薄い。
空を飛び現地へ駆けつける機動性を優先するための特化構造だが重武装重装甲の相手とは相性が悪い、特に今回のように攻撃を躱し当てる技術を持った相手と戦う場合は特にその欠点が大きく影響してしまう。
「ううむ…木ノ楊出流十七代目殿は此奴と相打ったとの事だが一体如何様にして屠ったものか…」
既に何合も斬り付け僅かに手応えもあったものの一向に綻びも見せぬ【闇王牙】に焦りを隠せない正武・出翁礼騎士爵。
相対する白銀と漆黒の闇色に、衰えながらも未だ消えぬ炎柱の熱風が吹き付ける。
◇◇
美都莉愛を中心に四方を背中合わせに守る。
治癒後、意識を取り戻した莉夢は忍者軍団が回収してくれた赤樫の長杖を受け取り一翼を守る。
「溜った!撃つよ!諏訪久!射線をっ」
リッ!美都莉愛の狙う射線が背中越しに分かる様になってきた。未来位置で複数の敵が一直線上に並ぶ所。
「光よ!導きたまえっ!」
左の腕の不可視の弓矢、女神の弩から一筋流れる流れ星、光線を纏い数匹の【魔狼】を貫通して行く光の矢。
本日通算五矢目か、足元がふらつきボクの背中にもたれかかる美都莉愛。
「…カ、イ、カ、ン…」上気した甘い声で呼吸も荒く漏らす。
ボクの美都莉愛が射撃中毒になってしまった!
魔導衣の着用は美都莉愛の予想外の才能を開花させた。
幼い頃から毎晩の様に限界まで射続けた【光矢】のおかげなのか美都莉愛の魔力回復速度、魔素を取込み魔力へと変換する能力は異常な迄に向上していたらしい。
魔導衣自体に備えられた魔素濃縮機能で通常よりも圧縮された魔素を取り込んだ後の魔力転換速度が恐ろしく速いのだとイナヅマは分析した。
断続的ではあるものの【光矢】の回数制限が無くなった事になる。
遠距離攻撃の手段を失ったボク達に取ってはとても有り難い誤算ではあり、魔力の守りを使わなくて済むことは喜ばしい事ではあるのだけれど。
何度も魔力枯渇直前から回復を繰り返しているうちに美都莉愛がオカシクなってしまったのはいかがなものか。
それと、何匹もの【魔狼】を倒しているうちに気がついたことがある、こいつら動きが画一的なんだ。
なんて言ったらいいのか、同じ場所に来たヤツは同じ様に体勢を低くし同じ様に一拍置いてから飛びかかってくる。
跳ぶ高さも狙ってくる場所もほとんど同じ、こんな事ってある?まるで全ての【魔狼】が誰かに事前に指定された動き方に従って動いているように感じる。
この特定の動き方を把握してしまえば迎え撃つのはそう難しくはない様に思える。でも、莉夢も忍者の方々も【人狼】戦からぶっ続けで一刻(二時間)以上は戦い続けている。
かれこれ五、六十匹は倒したはずなのにまだ周りを囲む【魔狼】の数は減ったようには見えない。
先に体力が尽きるかもしれない。そんな厭戦気分が漂い始めた頃。
バキリ。メキメキ。と、
森の奥、【魔狼】たちの背後から
木々が挫け倒れる音が響いた。
え゛!
森の奥の暗がり、炎柱の焔映え赤銅に輝く巨体が迫り来る!




