75話 暗中模索
73.74話を飛ばした方へのあらすじ
見張りを倒し洞窟へ入った耀導徒第二は行方不明の女達を発見。諏訪久は女達に埋め込まれた魔物の元を破壊する事に成功した。
時間の兼ね合いと緊急性を鑑みて六人の胎内魔石を破壊した。
助けられた後魔物の子を産まねばならないと覚悟していた女性たちもボクが胎から魔物を消せると判ってからどこか動きが軽やかになった様にも見える。
ボクに矢を射かけてしまったお嬢様は何処か気まずそうに事の成り行きを見守っていた。
こんな時下手に声をかけると追い打ちを掛けそうな気がするので何かきっかけができるまで黙っておこう。
結構時間を食ってしまった、早目に撤退しなくては、と思い…ヤベ、【捜索】忘れてた、魔石破壊に気をとられす…って!
「お嬢様、通路奥から魔物が近づいてます!気が付くの遅れましたスイマセン!」勿論頭部防具の内緒のお話機能での伝達です。
「呼び方!了解したゎ。莉夢、予定通り皆を連れて外へ出て、アタシと諏訪久はこのまま奥へ向かって魔物を迎撃、食い止めつつ後退し脱出の時間を稼ぐ、領軍部隊の到着を待って脱出包囲殲滅、状況によって散開撤退よ」
「「了解美都莉愛」お嬢様!」
女性達の簡易靴は足音を消すのにも役立ってくれた、魔導角灯は灯りを消し暗闇の中二列縦隊で前の人の肩を掴み、ゆっくりと進んで貰うことは打ち合わせた通りだ。
先頭は莉夢、次いで帰り道での魔物との遭遇に備え莉夢の細外套の裾を持つ歩真[彩母ちゃん]と孔雀草、殿は不羅毘と元翠の牧場構成員。
一番最初に魔石を破壊した彼女も帰れる希望が出てきたことと魔物の子を産まなくても済むとなったから生きる気力が蘇ったのか、他の女性の魔石破壊中に水を飲み保存食をガッツリ平らげ気合を入れていた。流石に冒険者はタフだ、これなら何とかなりそうだ。
皆の脱出を最後までは見送らず、ボクと美都莉愛はタコ部屋から更に通路の奥へと向かう、なるべく奥で遭遇した方が皆の逃げる時間を稼げる、けれどボク達二人の脱出距離は長くなる…いや、余分なことは考えるな…もし二人共にここで討ち死にしたらボクは美都莉愛の夫として死ねる…。
いかん、思考が消極的だ。
長い通路の先の曲がり角から約二十間(30メートル弱)の位置で魔物を迎え撃つ。数は五、後からも何組か続いている。急いでいる風はないけれど脱走がバレたんだろうか?
美都莉愛は弓を引き絞り。ボクは何があっても対応できる様に周囲に気を配りながら黒刀を構える。
内緒の会話を使って魔物出現の時機を美都莉愛へ伝達。
「…五……四……三……二……一…」
零を数えるのと【大鬼】の胸元に矢羽根が突き立つのはほとんど同時だった。
「戦闘開始」
莉夢にも伝えるため声に出して呟く。
ボクの手渡した次矢を流れる様に番え引き絞る美都莉愛。絵になるなぁ…。
崩れ堕ちる様に倒れた【大鬼】はそのままに、残り四体はこちらから見えない位置で行動を躊躇している様子。こっちは皆が脱出する時間を稼げれば御の字なんだ、迷え迷え。
一体が奥へ引き返し、三体は様子見か?援軍要請と此方にさらなる進入意図があるかの確認かな?
チラッ、チラッと弓弭(弓の弦を掛ける所)の先を曲がり角からのぞかせている。
暗闇の中こちらが視えているのかの確認か。
その迂闊な確認行動が今そこに居るのは背の低い【弓小鬼】だと教えてくれる。
肉弾戦だけのパンピー【小鬼】と違って凝った武器を使うヤツは比較的頭が良いらしいけど、まぁ少しお莫迦な人間位かな。
美都莉愛に【弓小鬼】の可能性が高いことを伝達。
「り」(了解)
と、素っ気ない返事。很好、いいねぇ、ゾクゾク来るヨ。いとしいシト。
曲がり角の岩ギリギリに身を寄せてこっちを狙って弓を絞る【弓小鬼】。
細外套が闇迷彩化しているのに。一瞬、盲撃ちか?と、思ったけど、そうか、美都莉愛の弓そのものを狙っているのか。ボクもあまり頭の事言えないな。次から得物の不可視化も考えなくっちゃ。
起動窓に【障壁】を準備。やらせはせん、やらせはせんぞ。
美都莉愛と【弓小鬼】ほぼ同時に発射。
【弓小鬼】の矢はボク達の手前で不可視の盾に弾かれ。
美都莉愛の矢は【弓小鬼】の頭に…。
窓が開いた!紋様が走る!
【弓小鬼】の顔面に向かったはずの矢は横から風に煽られたかのように軌道をそらし洞窟の壁に叩きつけられ転がった。
「【呪小鬼】が居る!」莉夢にも聴かせる様ナイショの通話で
ヤバい。魔法を使う魔物だ、ヤツらは総じて頭が良いはず。
でも魔法技能【突風】、ゲットだぜ!
後、これで疑問が一つ解けた。
膝を射られて引退組の皆様、相手【弓小鬼】だわ、矢の軌道低いもん、当たるのは腿か膝だよこれ。
まずいなぁ…単一魔法複数再現とか二種類の魔法を並列再現とかの練習は密かに重ねていたけど、複写再現しながら削除は完全に盲点だった、単独ならともかく美都莉愛も居るところでの冒険は躊躇してしまう。
向こうも千日手に気付いたのか矢を番え狙いを付けたままで射てこない【呪小鬼】が出てこないのは狙い撃ちを恐れてか?正解だ、【呪小鬼】健在のままではこちらも思い切った行動に出られない。無為に時間が過ぎて行く、皆の撤退完了はまだか。
落ち着け、いいんだ、ボクらの任務は時間稼ぎ、自分に言い聞かせる。
ああっ…くそっ敵に援軍だ、さっきの一体が五体くらい連れて来たみたいだ。
魔物の潜む曲がり角から何かがすっと飛び出した。
思わず射てしまった美都莉愛の矢が突き刺さる。
「盾だ!」
【小鬼】の援軍は盾持ち戦士系だったか、盾に矢が突き刺さりはしたが突き抜けてまではいない。
身体が小さいから人間用の普通の盾が全身盾の様に覆い、急所に狙いがつけられない、こちらが躊躇している間に同様の盾がもう一枚増える。
二枚並んだ盾に身体を隠しながら【小鬼】共はジワリと間を詰めてくる。
牽制に射られる矢も弾くのが精いっぱい、チロリと面頬の内部表示に目をやると多分ボクの魔力残量を示している線の長さが最大値の三分の一ぐらい、流石に使い過ぎてる。
新たな窓が開く、駄目だ直ぐには頭が切り変わらない。削除が間に合わなかった。
ガクン、と美都莉愛が膝を着いた。
「急に気分が…気持ち悪い、集中できない」美都莉愛の喘ぐ声。
なっ!
【鑑定】を美都莉愛に、状態表示:のろわれている、身体能力減、精神力減。【呪詛】か!
くそう、魔物の癖に《二つ星》かよ!いや、【呪小鬼】が複数居るのか?
くっ【解呪】は持ってないのに。
突然に恐ろしさが沸き上がり全身を怖気が走る。立て続けに”窓”が開いて対応が後手後手にっ。
面頬の視界に赤の点滅で文字が表示されている。
抵抗失敗、状態:恐怖
精神系弱体化かよっ!地味にキツイ。
続々と増えていく【小鬼】、盾持ち【大躯】まで後方に現れ始めた。
怖気てる場合かっ!妻を守れっ!気合だあっ 気合だあっ 気合だあっ 無理やり【鎮静】で上書きする。
「少しづつ下がりましょう」
美都莉愛を支えながら削除に集中。しわじわと後退を始める。




