74話 解放 Ver.R15 ※胸糞続きです苦手な方回避願います
「少し外に出てくる」
そう言い残し自分の床に妹分を横たわらせ。
床の隣に膝を抱えて座りながら押し花のすき込まれた便箋を手慰みに弄んでいた奈原街の娘の手にそっと懐紙を握らせると人差し指を唇に当てたままじっと目を見つめた。
墨書を目で追い、息をのみ大きい目をさらに丸くしたその娘は小さく頷き自分の隣の女に小さく耳打ちを始めた。
静かなる伝言遊戯の開幕を確認した後。不羅毘は外の暗がりへと身を滑らせた。
暗闇しか目には映らなかったが。その場で膝を付き上半身を投げ出し這いつくばると額を床に押し付けた。
「木ノ楊出流ご息女様に置かれましては、さんざ無礼を働きましたる端女郎の不徳致しましたるところをお目汚しの段、心よりお詫び申し上げます。
この不徳人の首一つを持ちまして何卒哀れなる囚われの衆庶に御慈悲賜りますよう伏してお願い申し上げます」
小さくも周囲だけにははっきりと聞こえるよう声で淡と告げる不羅毘
「面を上げなさい、アンタの首とか言ってる場合じゃないの、全員が助かる方法をすり合わせるわ、情報を頂戴」やはり小声で返る言葉に。
恐る恐る不羅毘が顔を上げるとどういうからくりか暗闇の中空にすうと風が揺らぎ、赤金眼白肌の面が空中に浮かんでいる様が見えた。
その木ノ楊出流御息女の顔をした白面が不羅毘の頬にすっと近づき、上半身が何かに抱きしめられたかと思えば闇と同化する漆黒の衣装を纏った美都莉愛・木ノ楊出流にひしと抱かれた不羅毘が居た。
「ごめんなさい、辛い目に合わせてしまったわね、でももう大丈夫、アタシが来たわ」
耳元で囁く美都莉愛・木ノ楊出流の言葉に
「おっ…」不羅毘の身体がピクリと跳ね。
「おっ、おおっおっ…おっ、おぉぉぉぉぉっおっ…」噎びながら双眸から止め処なく溢れ零れる。
◇◇
まさかの不羅毘含む全員生存ルートに喜ぶ間もなく、事情を知った女達は迅速に身支度を始めた。溜めておいた食料を食み水を飲む奈原街の女達は衣装を切り裂き便せんやボクの渡した懐紙を折って靴底にして、即席で足に巻き縛り付ける簡易な靴を作り始めた、多分皆森の中を遠くまで逃げられない様に靴を取り上げられていたのだと思う。
彩の母ちゃんは連れて来られたばかりで靴もその他諸々全部無事で、戒めを解いたら森の中での皆の先導を買って出てくれた。領軍がすぐそこまで来ているので合流を指示した後。
詩絵琉も彩も無事な事を伝え「子供の熱ぐらいでも領軍を頼ってください」とも言うと最初は訝しがられたけどボクがツルとシュリケンの主だと知って。
「はい、今後は縁に御縋りしそのようにさせて頂きます、娘をよろしくお願い致します」
って…神妙な顔で丁寧に頭を下げられた。…お母さん、何か勘違いしていないですよね?
縁って…もしかしてボクの鎧の木ノ楊出流家の紋章見ちゃいました?
…里の人が木ノ楊出流を頼りにできるようになるなら多少の誤解も良いか…。
ところが間が悪いことに出発の直前に具合悪そうに不羅毘の肩を借りていた冒険者の女性がその場で崩れ落ち倒れて苦しみだしてしまった。
酷い脂汗に青白い顔。この症状どこかで?
女達は心配そうに倒れた女性とお嬢様を交互に見ていた。皆苦渋の顔をしている。
「…すみません、木ノ楊出流お嬢様、私はこの娘と残ります」不羅毘が突然言い出した。
「これ以上脱出を遅らせると皆が助かりません、お早く」頭を下げる不羅毘。
「駄目よ、アンタ達二人だけじゃ脱出できないじゃない。…莉夢、歩真[彩母ちゃん]と一緒に皆を連れて表へ出て、領軍と合流しこの領民たちを委ねてあなただけ戻ってこれる?」美都莉愛の問いに一瞬不服顔を見せたけど最後の「戻ってこれる?」の部分で
「命に代えても」と承服の意を示した。そのまま逃げろって言われたら多分断っていたんだと思うけど、任務遂行後戻ってこいだったから断ることができなかった。
ここで断ったら「あんたの旦那(仮)は一時凌ぎの盾にもなりゃぁしない」って言ってることと同じだからね。うん、心中お察しします、ゴメン、頼りなくて。
それを見ていた領民の内、一番年かさだった女性が意を決した様に口を開いた。
「ダメだよ、お嬢様、あんた達じゃ経験不足だ、あたしゃ残って魔物の子だって取り上げるからね」
その場で水筒を傾けると手を洗いだした。
「へ?」
「…黙っていてすみません、ここにいる女たちは全員…胎に魔物の子を宿しています」
辛そうに答える不羅毘。
「ええっ!」
不羅毘は目に涙を溜め語り始めた。
この洞窟へ連れて来られた時、全員【王牙】の変異種、体表の黒い【闇王牙】に胎内に呪いをかけられたのだという。
その後、幾匹もの【小鬼】【大鬼】【大躯】などの相手を強要された。
不思議なことに噂に聞く様に多数の魔物を一度に相手させられるのではなく、いちいち別室に連れ出され大概は魔物と一対一で、変則な場合でも女多数対魔物一で、魔物の方が多かったことは殆ど無かったらしい。
魔物もあまり乱暴に女達を扱うこともなく、やっていること自体は最低だけれど言葉が通じないなりに情愛を示されたり恋人の様に扱われることもあったという。
しかも明らかに同じ個体なのに片や荒々しく、ある時は優しく重々しく、まるで魔物の中身が入れ替わっているのではないかと思われることもあったという。
「呪いを埋め込まれて五日もするとお腹が張り、油汗が垂れ、貧血の症状が現れ、充填屋で魔力を使いすぎた時の様な症状が現れたわ、その後…」
己の身体を抱きしめるようにして不羅毘は苦しそうに言葉を吐き出した
「私は、魔物の子を産んだのよ…」ぽろぽろと目から雫が落ちる。ごめん、そんな話したくなかったよね。
生まれたのは小さな【小鬼】の幼生体の様な生き物だったらしい。殺さなきゃと思うものの自分の腹を通して産み落とした生き物を殺す勇気も沸かず絶望感に苛まれた。
【小鬼】の幼生体は食事を運んできた魔物が引き換えに連れていったそうで。魔物を生んだ母体には滋養のつく食事が提供され、丸一日の休養の後再び【闇王牙】に呪いを植え付けられる。
「ここにいる間に二匹から三匹の魔物を皆産まされたわ、仕込まれてから五日から十日後に生まれるのよ」
合計百匹近く!この勢いで魔物を増やされたら…数か月で木ノ楊出流は…。
この話を聞いていてボクは【魔狼】と戦った時のイナヅマの言葉を思い出していた。
『…!人間の身体は優秀な魔素変換器だ!体内に取り込んだ魔石には自然の数倍の速度で魔力が充填される…』
まさか、女性の胎内に魔石を仕込んで…。
しかもほぼ一回使い捨ての男と比べて、女性の出産の仕組みを上手く機能させられれば何回でも使える。
ちらりと美都莉愛の…お嬢様の顔を覗き見る。美都莉愛怒髪天!
死んだ!!!【闇王牙】絶対死んだ!!!しかも【闇王牙】木ノ楊出流の宿敵じゃん!絶対殺ス光線出てんじゃん!!
「お、女の子の身体を…何だと思ってんのよっ!」吐き捨てるお嬢様。
「…その…」奈原街のお姉ェさまがボクの鎧の袖口を摘まんで話しかけて来た。
「殿方は…そろそろ」
えっ?女性陣の視線がボクに集中。
お呼びでない?
「お医者さんゴッコじゃないんだよ!男はサッサと出てお行き」倒れた女の子の下半身に布を掛けながら下着を脱がしている。
おばちゃん!言い方!でも、ボクは思った(なんだかイケそうな気がする…)でも説明している時間は無さそうだし、どう説明したらいいものか…ままよ!これまでの魔法に関する知識と記憶を総動員して実行あるのみ。
「ちょっと!あんた!」おばちゃんの悲鳴が空耳する。
面頬を下ろし女性の真横に強引に割り込む。
顔が隠れたせいか他の女性陣の敵意は少し減ったのかな?、勿論疾しい気持があった訳じゃないんだけど。【捜索】調査点を女性の胎内に一極集中。魔力の濃い場所を3D座標掌握。精神統一!【鑑定】魔石の硬度は六、水晶とほぼ同等。
莉夢の長杖が横から首の下へ差し込まれた、顎をカチ上げるつもりかい?もう少し待ってくれ。長杖を左手で掴み体重を乗せて止める。
キリリと。美都莉愛の…お嬢様の弓を絞る音、夫になる(かもしれない)者に射掛けるのならそれも良い、ボクへの信頼はその程度だったって事だから。
右掌は添えるだけ。女性の下腹部に。
「すぅぽぉぉぉく!」美都莉愛の悲鳴に似た叫び。
キュン!
矢は放たれた。
【衝撃】×八割三分七厘 作用点一点集中:座標(胎内魔石) 起動。
ずん!
掌から生み出された衝撃が下腹部表面から胎内に浸透し孵りかけていた魔石だけに作用、ピシリと右掌に帰って来る感触、思惑通り女性の胎内は傷つけず魔石だけを打ち砕いた。
破壊された魔石は魔物と同じく時間が経てば魔素に戻ってしまう、空気中にあるものだから胎内で魔素になったとしても問題ないはずだ。
もし割れた魔石で怪我をする様なら【治癒】を使おうと思ったけど必要はないみたいだ。
魔石の魔力吸収が停止したせいなのか呼吸は落ち着き汗も引き始め次第に顔色もよくなっていった。
目覚めてくれと放たれた矢はボクの右肩を掠め後ろの地面に突き立っていた。
「胎の中の…魔物だけ…殺せるのか…?」震えながら問う不羅毘にボクは頷いた。
「お腹に仕込まれたのは魔石。その位置を特定して強度を計測して魔力を当てて砕いた。僕だけの技だから他にばらさないでよ?」
命がけだったんだし最後ぐらい嘘ついたっていいだろ?
「すまん!私の胎の子…いや魔物も今日あたり出てきそうなんだ、頼むっ」
不羅毘は涙声で土下座してきた。
今回の公開はここで一区切りです。
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また書き溜め頑張りますので今後もよろしくお願いします。




