71話 ゆうべはおたのしみでしたね
羽生▶ゆうべはおたのしみでしたね↵
朝起きたら美都莉愛も彩も居らず。
魔導小板に羽生さんから文字通信が届いていた。
文字通信アプリを暫くいじっているとなんとなく使い方が分かって来る。
諏訪▶いいえ、何もありませんでした!↵
羽生▶イロイロあったけどナニはなかった?↵
諏訪▶…#↵
羽生▶ごめんゴメン!昨日徹夜で昼寝して作ったアップデートパッチをスマホに送ったのでDLインスコよろ、他の皆さんのスマホも更新掛けるように伝えて、アデュー↵
▶▶▶ アップデートファイルダウンロード完了
▶▶▶ インストールしますか?(はい/いいえ)
メッセージの下で反転点滅する黄金虫の絵記号が何気に気に触る。
否やはないので”はい”を押して魔導小板の更新を開始。
赤色の横棒が進捗に従い次第に短くなって行くという演出の真上で絵の黄金虫が踊り狂っている。
イラッ。
暇なのですか?羽生さん。
「すぼおぉぉく!」
ドスドスと足音を立てながら廊下を渡って来た美都莉愛はパンと襖を開け叫んだ。
「完全装備で表へ集合!大至急!」
「りょっ!了解!お嬢様!」
思わず飛び上がり敬礼。寝てる間に何があった。
支度には四十…いや四半時(約15分)もかかってないと思う。でも朝日も登ってきたばっかだし、ボク寝坊じゃないよね。
女将さんが渡してくれたデカおにぎりを齧りながら忍者部隊の留守居役と打ち合わせ中らしき美都莉愛の横に並び立つ、具におかずを詰め込んでくれている、伽羅蕗はご飯によく合う。
「おはよう諏訪久。我が夫の愛妾の母君が昨夜のうちに森へ降りて未だ帰って来ていない。この時勢だ万が一がある、捜索本隊は割けんが幸い我々耀導徒第二は別動部隊だ、今から森へ降りて捜索する」
言い方!でも彩の母ちゃんが!?でも夜中にあの崖下るなんて自殺行為じゃ…。
「詩絵琉は…彩の弟はどうなったんですか…」
彩の母ちゃんもだけど弟熱出してるって…だからか…汲めども尽きぬ母の愛。
「祖父母と彩が付き添っている、我々の持参した薬を分け与えたので今は落ち着いている様だ」
母ちゃん、降りる前にボク達に相談してくれれば…と思ったけれど昨夜の女将さんの言葉を思い出した。
男爵の身内に里のモノが居れば。
子供が熱を出しているので薬を分けて欲しい。位は甘えられたんじゃなかろうか?
「彩の実家は…」言いかけた美都莉愛を制した。
「まず、彩は愛人じゃない、妹みたいなもんです。それと、時間を無駄にしたくない、彩も詩絵琉も無事で安全ならそれでいい、サッサと行きましょう」
美都莉愛は暫くの間じっとボクの顔を見
「そう言うと思ったわよ」
にっ。と笑った。
あれ?何か既視感。
「行くわよ!朝御飯戻さないで!」
「うわあああああああぁあぁぁあぁぁぁぁぁ......... 」
美都莉愛に抱えられ崖の縁から後ろ向きに飛び降りる。死ぬときは一緒だぁぁ!
もちろん、自由落下でなくて懸垂下降だ、崖の端から垂らした索に落下速度調整用の金具を取り付け速度を調整しながら降りていく。ボクは美都莉愛に抱っこ紐で連結されているだけだけど。貴族ってこんな訓練も積んでるのねぃ…。
たった二日の間にこの器具設備を用意した忍者部隊、領軍の調達力と本気度の凄まじさをも伺える。
れもれきるなら崖を下らへてくらひゃい。もう崖下るの嫌とか色々言いまひぇんから。
崖を下り切る間に都合四個所での懸垂下降を繰り返し、諏訪久大地に立つ。
ありがとう平らな地面、とても愛おしい。女将さん伽羅蕗は死守しましたよ。時間も優に一時(約一時間)程は稼いだ。
「彩の母ちゃんの捜索方針はいか様に?」美都莉愛との連結を外しながら今後の流れを擦り合わせる。
里で子供の解熱によく使うケイノキの群生が此処から酉(西)の方角にあるそうだ。
ほぼ間違いなくそこに向かったと推定できる。一度そこまで足を運び現地確認、痕跡が発見できれば更に追跡。無ければそこで再度方針検討。
酉(西)方向の信憑性的については、子方(北)は森中一泊組忍者部隊が捜索中なためそちらに行けば補足されるはずだけれどそれが無かった。
卯(東)へ行ったならば明け方には里へ帰って来ているはずだけれど帰って来て居なかった。
午(南)へは忘魔の山の中へ進む事になるので物理的にあり得ない。
消去法によっての酉(西)側探索一択なのだ。
そして酉(西)側ならばやはりケイノキ群生地に向かった公算が大きいとの判断だ、多分間違っていないだろう。
出立前に手短に魔導小板の更新についても説明し、忍者隊長さんへも音声通話で内容を指示して貰った。
更新内容は表示言語を古代表記から現代表記への変換だった。
千年も経てば言語体系もかなり変わる。
羽生さんやイナヅマとゆるく意識が繋がっていて何となく意味が察せられるボクや古代文学の教養がある貴族や神官の方々と違って莉夢や忍者軍団の方々は魔導小板操作に相当難儀していたそうで…。
一晩でこれだけの作業できちゃう羽生さんってやっぱりハンパないのかもしれない。
「呼ばれて飛び出て羽生ちゃんです!」
「なっ!」
頭部防具の耳元で突然羽生さんの声が聞こえてきた。
「落下アトラクションは楽しめたかい?話は聞かせてもらった。ヘッドギアのフェイスガードを下ろしたまえ。二人に気づかれず会話できる」
頭部防具を操作して頭部に内蔵された面頬を下ろす。
顔面が立体的曲面の板に覆われた。
思いの外視界も呼吸も阻害されない、寧ろ良い感じに調光してくれているし、空中に浮かんでいるように見える半透明の矢印が示しているのは美都莉愛や莉夢の位置と距離か?
周囲に表示されている数字や記号の意味は追って学習するとして。
視界の隅で点滅している黄金虫に視線を向けると絵記号の色調が一段鮮やかになる。
「很好(いいね)やっぱり君は勘もいいね、ユーザーインターフェースは感覚操作に設計されている筈なんだけどね、いちいち教えないと操作できない人も居るからね」
黄金虫の絵記号が親指を立てた拳の絵に変わった。
「彼女らの機能衣にも簡易型だが同様のフェイス機能は付いている、あとで教えてあげるといい、探索効率も上がるはずだ。その前に君のベッドギアの捜索での使い方を簡単に説明しよう手助けになる事請け合いだ」
羽生さんの指示に従い魔導兜の補助機能を使いながら魔法【捜索】を起動してみる。
「うわぁああ…」
凄い、前方十町(約1キロメートル)程度まで【捜索】が届いている。しかも動物?みたいな小さなモノまで。これは大きさ指定で検知をさせない設定もできた。
「そのギアはセンサー類が充実しているからね捜索索敵には最適だよ」
確かに、これなら彩の母ちゃんを探すのに有効だ。
「では、僕は作業に戻るよ、君のギアのセンサーはモニタリングしておくがイザというとき間に合わない可能性もある、慎重にな諏訪久」
羽生さん、たまにイラ付くけど基本的にはいい人だイナヅマという別の人格(?)を被せた人の気持ちも解らなくもない。
出発前に美都莉愛と莉夢に機能衣内蔵の簡易頭部防具の説明をする。
こちらの見た目は顔面を覆う面頬が主体だ、検知器類は省略されているけど魔導小板を接続した上での近距離相互通信と周囲の状況表示の機能は一緒だ一番有り難いのは外部には音を漏らさず三人だけで会話できる事。会話を聞き取られて先手を取られる様な可能性は少しでも少ない方がいい。
さて、準備万端。目標、忘魔の山の酉(西)方、ケイノキ群生地。
出発。




