表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/119

7話 はじめてのおつかい

「何、やってル、か」


 シンと。


 その声が響いたとき、辺りの音が消えた。いや、撫散(ぶちる)の泣き声だけ続いていた。


 背が高い。


 第一印象はそれだった。

 ボクより頭一つ分背の高い九厘(くりん)

 それより更に頭一つ高い、それでいて細身な体形の執事服。


「お嬢さマ、呼んでる」


 凛と涼やかに、なお地の底から響く(ごと)声の持ち主は。


 この町では珍しい栗色の肌をもち薄金色の瞳と短髪に切り詰めた同じく白金色の髪を持つ男装の美丈婦。


「こっ、こいつが先に手を出したんだ!」九厘(くりん)はボクを指さし金眼の持ち主に食って掛かった。


 ……人を指差すなよ。

 いつものことだ、彼らの基準では他人のカバンを破れる程に引っ張るのは手を出したことにならない。


 なぜなら『結果として破れていないから』だ。


 むしろその結果を導き出すためにボクが取った行動により撫散(ぶちる)が泣いた。


 それは、“泣かせた”という結果をもって“悪”となす。


 そして、大人はより多数の子供の言い分を正となし。少数の証言は数が少ないという事実を以て嘘とみなす。


 だからこそこいつらは()()()んだよ。


 いつものことだ、いつもの。



「お嬢さマ、呼んでる」


 繰り返しですか……。金色の眼は、じっとこちらを見つめている。


 何か毒気を抜かれ逆らうのも疲れた。


 立ち上がり体の埃を払うとカバンを拾い金眼の持ち主の前へ進んだ。


 踵を返し廊下を進んでいく栗色肌金髪金眼の麗人、その後ろをついて歩く。


 九厘(くりん)達の喚き声など意に介さぬ様だ。


 そのうちあきらめたのか泣きの余韻でしゃくる撫散(ぶちる)を引っ張りながらボクの後ろを遠巻きに3人組がついてきた。


 中央学校と併設された|御代《ミダイ(みだい)》町の初学校。その間に町の中央神殿がある。その社の一室。領主様一族専用の部屋に入ると件の人物がいた。


 若様の妹君。恐れ多くもボクの同級生にして魔法の恩恵技能(ぎふと)を持つ“星”。

 木ノ楊出流(きのゃんでぃる)男爵令嬢 美都莉愛(びっとりあ)木ノ楊出流(きのゃんでぃる)お嬢様。


 若様は県立の魔導学校へ入学されたので、今はお嬢様が部屋の主だ。


「おじょうさまーごきげんようー」


 ドーン ド ド ドーン。

 ドーン ド ド ドーン。


 夕刻の時告ぐる大太鼓の音が響く中。


 わざわざ領主家の部屋に立ち寄りお嬢様にご挨拶してから下校する下級生に。


「さようなら、気を付けて帰るのよ」手を振って見送る。


 こんなに間近に見たことはなかったけど金髪金眼の君とはまた違う美しさで赤金色の髪を肩口まで伸ばしている、若様と同じ色だ。



「あら、いらっしゃい。あなたが諏訪久(すぽぅく)? 撫散(ぶちる)どうしたの?」


 主の元に来てぶり返したのか撫散(ぶちる)が再びむせび始めた。


「こいつが、撫散(ぶちる)を突き飛ばしたんだ。お嬢様がお呼びだって言ったのに、来ないから!」


 おーい九厘(くりん)……矛盾証言と記憶の改竄。もう彼の記憶は“お嬢様のお呼び出しを無視しようとした輩を自分たちが正そうとして卑怯な攻撃を受けた”に書き換わっている。

 というかそもそも都合がいい部分しか覚えていない。


 もし今日のボクと彼らの行動を遡って観察できる存在がいるのならば是非見返してほしい。

 彼らは一言だって“お嬢様”なんて言っていないはずだ。

 おそらく彼らの頭の中に“お嬢様の勅命”が大きく存在し言っていないのに伝えた気分になってしまっているのだろう。


 よくあることだ。


「お嬢様がお呼びだなんて彼らから一言も聞いていません、こちらの……方が来て初めて“お嬢様から”と聞きました」

 こちらの言い分は言わせてもらうよ、ちらりと金髪金眼の君を見る。


「嘘だっ!」


 案の定九厘(くりん)が叫ぶ。やっぱり水掛け論にしかならないよね。


 ♪ぴろりん。空耳の音と共にイナヅマの窓が開く


『我、記録済、音声再現の用意アリ<(`^´)=3』


 アリガトイナヅマ。でもダメだろ? なるべく自分の存在は秘匿したいナイショで頼むって昨夜言ってたよね。


「どっちでもいいわよ、どうせまたあんたたちが何か大切なこと伝え忘れたんでしょ? ったく莉夢(りむ)を追いかけさせてやっぱり正解だったわ」


 お嬢様はそのつぶらな赤金色の瞳を閉じ“ペシ”と自分のオデコを叩いた。


 前科持ちだったのか。


「お、お嬢〜〜」


 三人組は所在無げにおろおろしている。

 思ったより気さくな方らしい。


 お嬢様はこちらへ向き直して。


諏訪久(すぽぅく)。今日はアタシたちと帰ってもらうわ、麗芙鄭(れふてぃ)から『必ず連れて帰って欲しい』って頼まれてるもの」


 え? 昨日の今日で? 家令様一体何を……。

ス:音を記録再生できるなら、一文字づつ録音して、任意の順番に再生すれば、エミュレーターとか使わなくても意思疎通できたんじゃないの?


イ:……。


イナヅマは暫く固まっていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ