63話 積年の因縁の怨念があんねん
「そこでお母様と伯父様はアタシが諏訪久の事を好きになっちゃって諏訪久と結婚したくて能力を盛って報告してるんじゃないか?と思ったみたいなのよ、まさかそんな勘違いしてるとは思わないじゃない?
まぁ…”奈落”行きをお願いするんだから私も貴族としてそれくらいはガマンしなきゃね、元々許嫁も居なかったし、書類上だけの事だし…」いつも以上に饒舌に顔を赤らめて話すお嬢様。
…ハイ、ソウデスヨネー。お嬢様がボクのコトを…だなんてハハ…そんな不敬…一瞬たりとも思ったことなんてある訳が……チックっショぉー!!!(泣)。
いや、いいんだ、騎士爵位さえ、騎士爵位さえあるなれば。
コ・ノ・オ・モ・イ・ハ・タ・サ・デ・オ・ク・ベ・キ・カ。
流石に男爵家裏の間道から魔物の森を進むこと三日目ともなると油断と言うか慣れというか…。その間、何回か低級魔物の襲撃があったけどほとんど単体、せいぜい三体での襲撃なんて今更ボクたちに取って驚異と言える程の事もなく。
すいません、殆ど周りを護ってくれている、荷駄隊…隊員の中の人は正武先生の取り仕切る乱破隊の皆様…のおかけで、した。
正武先生、領軍警備部だけでなく木ノ楊出流を影から支える忍者軍団の束ねでもあり、お嬢様の影守さんもそちらの所属だったらしいっス。
こちらは関係貴族にしか開示されていないお話でボクもその末端に数えられるようになって初めて聞かされたでござる。ニンニン。
有体に言えば”奈落”で捜索活動するのは実質彼らだったりするのだけれど、やはり旗頭として何らかの形で重鎮が同道して居なければ命がけの任務に士気も上がらない訳で、領主様の姫とその婿候補とくれば、領主夫妻、後継ぎの次ぐらいには、と出翁礼卿は思っていたらしかったんだけれど。
どういった訳か影の軍団内でのお嬢様人気は天井知らずで、体調不良者を除いて全員が同道を申し出たんだそうな。流石に全員参加は無理でかなり選抜で絞ったらしいけれどその分士気も実力も極上。
ボク達の見えない所でも魔物を掃除してくれているみたいで、隊長さんがお嬢様に差し渡す魔石はもう二十個を超えている。
中には【小鬼】・【魔狼】の魔石を超える大きさのものもあるから【大躯】ぐらいは狩っているのかもしれない。
かと言ってお気楽ご気楽の婚約(仮)旅行気分になれるかと言えばそんな訳も無く。有手倉卿が切腹と引換にお館様に出征願おうとまで苦慮された任務の重大さはヒシヒシとのしかかる。
任務の第一目的は、不羅毘達を連れ去った魔物達の巣、人間の女を集めているからには必ずあるはずのソコを突き止める。
次にその魔物の集団の規模を掌握、理想は【闇王牙】の居場所を突き止める。
最後が生存者の救出、不羅毘達の誰かが生きていてくれればあの鬼畜を処す事ができる。正気を保って居てくれればの話になって仕舞うけれど。
出来れば全部成し遂げたいとは思うけれど正直ボク達に期待されているのは最初だけだ、電撃作戦の敢行で最短時間かつ最小限度の損耗で事態の解決を図らなければ領の存亡が問われるという重大局面なのだ、ここを間違えるわけには行かない。
「あー三日も歩きっ放しだと汗臭くなるわよねーどっかで水浴びしたーい!」
やめてよして聞かせないで鼻血でるから。
お嬢様はいいんです女神だから。臭くなんてなりません。
二晩も魔物の森で過ごすなんてゾッとする話かと思っていたけれど、要所要所に道を維持するためか領軍さんの中継基地が作られていて、夜はその砦の中でぐっすり眠れている。想像していたよりは快適な旅路ではある。
荷駄隊はこの中継地へ物資を運んでいる定期便でもあったりした訳だ、今回の面子が異様に精強なだけで。
駐屯の領兵さんも突然のご領主息女の慰問に感涙むせび泣いた後、我が領の一大事の報を受け目の輝きが変わり使命感に燃えていらっしゃった。どこの拠点へ行ってもそうなるためお嬢様に尋ねると。
「五百年くらい前…十七代目のご先祖様が【闇王牙】と相打ちになって亡くなっているのよ…当時、後継ぎがまだ幼なくてお家お取り潰しの直前まで行ったらしいわ、当時から国宝だった一七二〇様の帯剣なんかを王室へ返納したり色々気を使って堪忍してもらったとか。
領内一同大変な苦労があったみたいね。幼い十八代目様の為に領民家臣一同が一丸となって男爵家を盛り立てて、男爵家は遍く領民家臣を愛しみ政を為す風潮が強くなったのはここからじゃないのかしら?
男爵家も家臣も子供に必ずこのことを伝えるし領軍へ入るとこの辺りも教育するから家臣も領兵も【闇王牙】には並々ならぬ敵愾心を持っているのよ。
私だって、初めて聞いたときは幼心にも十八代目様が可哀そうで泣いちゃったもの」
あー、それで皆さん【闇王牙】って聞いただけで目の色変わるのですね?納得です。
領史読んだだけじゃ十七代目様は若くして亡くなられた事ぐらいしか判りませんもの。
先の砦を出立し半日程緩い上り坂を進んだところ…森歩きになれたボクの目から見たら不自然なほど密に生い茂った木立の前で荷駄隊が停止した。あー【捜索】で何となく予想はしていたけど、ここが今回の婚約旅行(笑)の第一目的地の入り口か?
【捜索】で掌握はしていたけど十人ほどの人が木立の間をすり抜けるようにわらわらと湧き出して来た。魔物に簡単に入られないように偽装している訳ですね。
荷駄隊の先頭を歩いていたお屋敷の使用人の人が何やら会話を交わしている。
出てきた人達も使用人の人達も皆肌が茶色だ。久しぶりの再会なのか皆さん笑顔を浮かべて話が弾んでいらっしゃる。
さて、あと一刻(二時間)も山道を進めば今回の調査で最前線基地となるべき木ノ楊出流領内で“山の民”の皆様が暮らしておられる“忘魔の里”と至ることとなる訳なのです。




