60話 諏訪久のいちばん長い日 莉夢の旅情
莉夢の男爵家入籍について、出翁礼卿の語るところによれば。
「流石に流民がいきなり男爵家入籍というのも無理があってな、まず莉夢には出翁礼家家臣の養子になって貰ったのだ、妹子と共にな。
それから二人ともに出翁礼家の猶子となり、今妹子は書類上は鄭湛将来の妻(仮)としての取り扱いが為されている。
書類上は出翁礼家からの嫁入り(予定)となっておってな、我が出翁礼家も主家との縁つなぎとして利点がある。
まぁ、莉夢も仁芙瑠も某が仮親ということよの。
その仁芙瑠の実姉として男爵家外戚の登録を貴族院へ提出し貴族名簿にも記載されている。
有力な庶民を繋ぎとめるための実子一人に対して一人、それも異性にしか使えない。実の兄弟であれば貴族家の一員として引き取りもできるがまぁ例外だわな、田舎の弱小貴族の苦肉の策よ。下級貴族はまぁ大概どこもやっている事だ、だからお主もあまり深く考えるな」
ええっそりゃ気にしますよ。書類上とはいえボクなんかがお嬢様の戸籍を汚すなんて恐れ多いコトだと思うのデス。それにしても…若様と仁芙瑠が婚約(仮)とな!
「だから、仁芙瑠は私の義理の娘でその姉の莉夢も私の義理の娘。貴族籍上は男爵家に連なる騎士爵家の義理の娘でもあるということにもなるわね」にこにこと話される奥様。
なにこの戸籍洗浄。
続けて、家令様はおっしゃった。
「諏訪久、卿が助けた流民の娘(仁芙瑠)の姉が二つ名を囁かれる西方の闘士“黒衣の未亡人”だと判った時は小躍りしたぞ。西方街道沿いの貴族たちが万金を以て家臣の列に加えようと躍起になっていた流浪の女戦士とまさか我が領で縁を繋ぐことが叶うとは、これは卿が男爵家にもたらした福音の一つだ」
それまで閉じていた目を見開いた莉夢が継いで語り始める。
「その武名のおかげで何処へ行っても領主様方から追われ一所におられずに流れる身の上とならざるお得なかったのだから私たち姉妹にとっては災厄以外の何物でもなかったのだがな。
他領の方々は私の武名を欲しがるばかりで妹を大切にしてくれる様な心根は一切感じられ無かった。
単なる流民の娘を慈悲をもって慈しみ、愛の情を傾けて下さったのは奥様とお嬢様だけであったよ、しかも私のことをお知りになられる以前の事であったのだから気を引くための見せかけの慈愛では到底あり得ない、妹には私が守らなくても生きて行けるだけの術をまで授けてくださった。
多少の自由は引き換えになったとは思うが、安定した食事や学校に行かせてやれる事の方が妹にとっては大切なことのはずだ。
妹を守り抜くことだけが生きる全てだった私はこの男爵家に身を置き、持てる力を男爵家の為に捧げることを誓ったのだ」
「だってー、仁芙瑠ちゃん一目見て磨けば光る珠だって判ったんだもンっ、お風呂入れて髪切り揃えて、美都莉愛の子供時代の服着せたらもうかわいくってかわいくって、絶対ウチで面倒みるつもりだったわよ、莉夢が居なくてもね」
もンって…奥様。
「でも…なんで仁芙瑠が若様のお嫁さんなんです?年齢的には莉夢のが釣り合わないですか?」
まぁ書類上だからどっちでもいいっちゃあいいんだろうけど。素朴な疑問。
ここぞとばかりに家令様が口を挟まれた。
「そうだね、その話をするためには貴族全体に係る秘事を話すことになるね。これを漏らせば我々だけでなく王国貴族全体から命を狙われることになるよ?王国統治の根幹を揺るがすことに繋がる内容だからね」
「いや、ふと疑問に思っただけなのでどうしても知りたいという訳では…」
と取り繕ったつもりだったけれどダメだった。
「そう言わないで、どの道ここから先の話を聞くには知らないでは済まされない話だ、もう卿の乗った船は岸を離れている。是が非でも聞いてもらうよ?卿が…王国貴族が一度は乗ったこの船を降りたいと言うのならば乗船代として…」
バァンッ!
儀礼刀が鞘のまま卓の上に叩きつけられた。
「首、置いてけ」
やだぁ、家令様、目がお座りになられて。
九厘ズボンと下着貸してくれぇ。
もうちょっとだけ続くんじゃ




