53話 本丸まで攻め込まれたら負けかなと思っている
『魔法効果の3Dモデリング展開、私は教えていないぞ?君が自力でたどり着いたんだ、私は教えていない、そこははっきりさせておいて欲しい!』
さっきから何言ってるのイナヅマ。
『…まぁ仕方がない、今更だ…。
実は君に用立てて貰った部品の馴染み具合を見たいと思っていたんだ、私本体の武装を試してみよう。本体正面あたりに、【魔狼】の身体を放り投げられるか?君たちに射線が通らないようになるべく高い方がいい、なに九郎守の加護の一端だ』
イナヅマェ…。
『射線?』
『圓明流光閃で仕留める』
何か光の矢みたいなものか?
『って、魔導知能は攻撃できないんだよね?』
『攻撃の判断を君に委ねる』
「はひっ?」それ魔装した騎士様の仕事なんじゃあ?
『魔導器官を直結したろう、そろそろ馴染んだ頃合いだ、君の魔力紋は一七二〇号に登録完了となった。これで君も一七二〇号魔装騎士だな』
ボクが魔装騎士!!…何か恐ろしいものの片鱗を味わった気分になる。
…今は、気をとり直さないと!
三人の冒険者達は全員取り回しのし易い短めの剣を履いていた。目的が重要参考人兼容疑者の監視であれば十分な装備なんだけれど。相手が魔物と判って居たら、盾、槍、弓ぐらいは欲しかったところだろう。
いまさらそんなことを言っても仕方ないので、三人のうち一人、多分二級冒険者が二人の三級に指示出ししながら剣だけで上手く立ち回っている。
三方から囲み、死角に入った一人が浅く切りつけ即退却、切りつけた方に向いた【魔狼】の死角からまた別の冒険者が切りつける。以下繰り返しでじわじわと削っていく作戦だ。
今の条件で極力安全に魔物を狩る方法だと思う、でも時間がかかるんだよね。
ボクは叫ぶ「後は引き受けた!こっちへ追い込んで!」
お嬢様の御指名なのでね”野犬殺し”は封印されたけど今からゾッとする圓明流光閃をお見せしよう。ありがとう九郎守様の加護(詭弁)。
「い、いいのか?!」二級冒険者が叫び返す。そりゃまぁそうだろうでも三級の二人が力み過ぎで息が上がって来てるみたいだけど?
「大丈夫!」いざ!他力本願の力を見よ!バッチコーイ!
二級冒険者の指示で三級の二人は包囲を緩める、二級が追い立てる。無手のボクに気付いた【魔狼】は当然与しやすい徒手空拳のボクに跳び掛かってきた。
両肩に前足が二本かかる時機に合わせ、ボクは自分から後ろに転がり込む。
まだ効いている【鎮静】のおかげでとてもよく視える。
両脚を縮め足裏を【魔狼】の腹部に添える。このまま両手を肩先の床に付け腹筋背筋全開で全身伸び上がり両足を伸ばして突っ張れば、下から狼ちゃんのどてっぱらに双足蹴が突き刺さるって寸法。へっ!きたねぇ花火の撃ち上げだっ!
なるべく高く!
ヨシ!オマケに両足裏から瞬間的に【念動】を出血大奉仕。
思い付き、ぶっつけ本番でやったこれがまぁ大失敗。
【念動】発動の瞬間。
ぎゃん!
と鳴き声を残し。
高く上がり過ぎた【魔狼】の姿は玄関広間の天井を突き破ってその先へ行ってしまった。
あっちゃあ…
『…時短発動で【念動】を【衝撃】に変換…私は知らない、私は教えていない…』
【魔狼】が天井裏に消え、パラパラと天井の部材が床に落ちる頃。
どん!
玄関広間の使用人用出入口の扉が吹き飛び、お屋敷の面々が雪崩込んで来た。
最初に九厘父ちゃん、門守の場瑠部さんは左肩に付けた赤色のゴッツイ肩当で扉を突き破り床に転がった。
鍋蓋にお玉じゃなくて丸盾に明星棍の智生の父ちゃん料理人の典打さんが床の場瑠部さんに蹴躓づき、両手に細剣と左手短剣二本持ちの撫散父ちゃん庭師の得楠さんを巻き込んで盛大にコケていた。
装備見ればそれぞれの戦闘方法が透けて見えて身震いする、この人達半端ないって もぉー。
三人の後ろからドヤドヤと家令様と男性使用人たちが槍だの拭箒だの思い思いの得物を手に手に玄関広間へなだれ込む。
「どこだっ!…【魔狼】…は?」家令様が呟く。援軍招集アザッした!
「キぃ嫌ぁぁぁぁああ!」
玄関広間の外から聞こえる絹をを引き裂くような悲鳴。
ボクも莉夢も弾かれるように開いた扉に向かって駆けた。
「謝意!」
「ごめんなさーい!」
「ごめんね、ごめんねー」
跳ぶ莉夢、続くボク、殿はお嬢様。
「「「お、おれたちを踏み台にしたぁ!?」」」
すんません、場瑠部さん得楠さん典打さん、後で謝ります。お館様の居住区に入られたら終わりなんです!
走り辛そうだったお嬢様は履いていた女袴を端折り上げた。
おっお嬢!!(鼻血ブー!!)
「お母さまも不在のはず!今、男爵家の者はアタシ一人っきゃ居ないんだから!家人を守るのは家主の務
めっ!」女袴下のカボチャパンツとそこから伸びる白い生御御足が眩しい…。劣情!去れ!
声の方では腰を抜かした女中さんが尻もちを突きながらもボク達を見ると中庭の方を指差している、怪我はしていなさそうだ、頷きそのまま中庭へ突っ走る。
また悲鳴、本館へ入られた!この方向、多分中庭の廊下か。ヤバい!本丸までもう少し。
廊下でしゃがんで震えていた人の安否だけ確認しさらに追う。
角を曲がると後は一直線、先を走る【魔狼】。くそっ!間に合わない!
そのとき、廊下の最奥。最後の扉の前。三っつの女中服の人影、動き出せば、それは紛れも無く。
最初に駆けだしたのは智生の母ちゃん、輪紗さん。
その巨体を覆い隠せるほどの大盾を前面に掲げ、どすどすと地響きが伝わってきそうな猛ダッシュ。
あまりの迫力に【魔狼】は急停止するもピカピカに磨かれた床に滑って急には止まれはしない。
「どぉすこぉぉい!」
ドォカぁン!と大盾に跳ね飛ばされた【魔狼】の落下点に
輪紗亜さんの背後からカカッっと進み出た智生の母ちゃん富蘭さんの扱く槍の穂先が突き立つ。
「どっせぇぇぇい!」
槍先に【魔狼】を刺した富蘭さんはお嬢様程しかない小柄な体のどこにそんな力があるのかと思う勢いで振りかぶり狼の身体を放り投げる。
廊下の天井すれすれの高さで弧を描いて飛んで行く【魔狼】の先に
スススッと歩み出る。
白木の鞘を携えた九厘の母ちゃん奈兎さん。
音もなく、奈兎さんの横を通り過ぎた【魔狼】の獣体。刹那、殺気ばかりが辺りを走り抜け。
廊下に着地した獣の身体は二歩を進み、三歩目で ”ポトリ” その首を落とした。
Tin…静かに鯉口を締める。兎をなめるなよ(GoGo)
「また、くだらぬものを斬ってしまった…」ベベン…三味線を掻き鳴らす音が空耳した。
おいおいおい、聞いてないよー。お母さん方見る目変わっちゃうよー。
「八番二式のおかげで少しは動けたねぇ、また鍛え直さにゃ」
「奥様が施療院にお出かけの間はワタシらがお屋敷護らにゃあね」
カラカラと笑う三人の声に。はぁはぁと駆け続けてきたお嬢様が蒼い顔で溢した。
「あー、魔物…憑き…一人、施療院…行って…るって…言ってなかった?」
今回は四話お届けと告知しましたが思いのほか書き溜めが進んだので明日、明後日にあと二話公開します。




