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5話 星の降る夜は

 ゲンコツ貰った後問答無用で納屋に放り込まれた。

 今夜一晩頭を冷やして反省しろとの事らしい。


 ハイハイ、ワカッテマシタヨ。


 折角おじさんが家まで送ってくれて、母ちゃんに「息子は若様の為に頑張ったんだから叱るな」って説明してくれたってのに。


 親父(いしあたま)にはそれが判らんのです(泣)。


 妹が毛布と晩飯を差し入れてくれたので、領主さまのお屋敷で頂いたお菓子を分けてやった。


 親父には絶対内緒と念を押したけど妹はそういうところは抜けめないのでまぁ大丈夫だろう。母ちゃんと二人で分けて楽しんでいるに違いない。


 親父もボクを殴らなきゃ分けて貰えたものを、フッ。


 更けて夜風が冷たくなってくる。

 窓を閉じると月星の明かりが消え納戸の中は真っ暗になった。


 庶民の家には領主さまのお屋敷みたいに窓に玻璃(がらす)も入っていなければ魔導照明だってせいぜい居間ぐらいにしか付いてない。


 夜は魔物の闊歩する世界なのだからボクたち人間は家の中で身を守り眠りにつくのが神仏の示した道なんだそうだ。

 初等学校の図書室に置いてあった本にはそう書いてあった。


 その魔導照明だって洗礼の儀の後、魔力がありそうだと判ってからはずっとボクが充填させられている。

 聞いた話では魔力持ちは町の充填屋に行けば小遣い稼ぎができるらしい、明日中央学校の帰りにでも寄ってみよう。


 暗闇の中で毛布に包まりながらいろいろな将来計画(やぼう)に考えを巡らせているうちにだんだんと眠くなってくる。


 そろそろ明日の学校に備えて本格的に寝ようと思った、その時だった。


 きた!


 風に流された薄布がまとわりつくような皮膚感覚。


 同時に窓の下。

 壁の辺りから生える横棒。

 次に縦方向に窓が伸び。


 もう判ってる。これの正体は宙に浮いているけれど神官様が洗礼の儀で使う聖なる《魔導小板》や《魔導書板》と同じ。

 何かの文字や紋様(もんよう)を映す窓なんだ。

 大体の判断がつけばオソルルにタラズだ、次は光る紋様が出るんだろう?


 光った。出た。


 おちついて昼間のことを思い出せ。


 窓を走る輝きに意識を集中して。手を翳し――詠唱――祈り――念じろ!


「消えろっ」


 思わず声が出た。

 翳した手を振り払った。


 はたして、窓を走る紋様はその色合いを反転させ、窓はただの四角へ戻り。


 開いた時と逆の順番をたどって、消えた。


「…ふはっ! (喜)」


 変な声出たけどヨシ!


 なんだか解かんないけど倒す(?)ことはできる!


 ふははは。


 寝よう。今日はもう疲れた。


 手探りで毛布を探し寝床を整えていると再び、いや四度目?

 窓が開いた。


 そして、気がついた。


「これ明るいよね?」


 窓の青い光はボンヤリとだけど辺りを照らし、納屋の中の器具道具類の影絵を浮かび上がらせている、月明かり程度にはモノが見えるじゃないか。


 魔導照明代わりにこのままにしておくのもありかも知れない。


 毛布に包まりウトウトしながら、グネグネと光る紋様走る窓を見ている。


 紋様はひとしきり走り終わると1番最後の四角が暫く明滅し窓ごと消えた。


 なんだよ、これじゃ明かりにならないじゃ無いか。

 おやすみなさいまた明日、本格的に寝に入る。


 と思えばまた窓が開く、薄目を開けて見ていると今度はさっきと様子が違う。


 窓が横に細長い、そして紋様が走らない。


『・・・・・・・・・・・・・・・・』


 …暫く点の羅列が続き

 ・

 ・

 ・

『111000111000000110010011111000111000001010010011111000111000000110110000111000111000001010010011111000111000000110101111』

『11000001010011 11000010010011 11000001110000 11000010010011 11000001101111』

『00110000010100110011000010010011001100000111000000110000100100110011000001101111』

 ・

 ・

 ・

 今度は同じ記号の繰り返しが続いた、そして。

 ・

 ・

 ・

『30123 30223 30160 30223 30157』

『12371 12435 12400 12435 12399』

『3053 3093 3070 3093 306f』

『%E3%81%93%E3%82%93%E3%81%B0%E3%82%93%E3%81%AF』

『%u3053%u3093%u3070%u3093%u306F』

『82b182f182ce82f182cd0a0a』

『a4b3a4f3a4d0a4f3a4cf0a0a』

『e38193e38293e381b0e38293e381af0a0a』

 ・

 ・

 ・

 だんだんと紋様が複雑になり

 ・

 ・

 ・

『ミ頒セミアム?ム巾ケ ミイミオム?オム?』

『ホ墅アホサホキマρ?ホュマ∃ア』

『ル?ウリァリ。 リァル?ョル韓ア』

『爨カ爭≒、ュ 爨ク爨も、ァ爭財、ッ爨セ』

『犧ェ犧ァ犧ア犧ェ犧扉クオ』

『リケリオリア リィリョロ鈷ア』

『癰溂楔癰吼梹癲低棧癰溂椰癰溂汳癰眼楮』

『?壱?﨑們┷?』

『譎壻ク雁・ス』

『縺薙s縺ー繧薙?』

 ・

 ・

 ・

 どこかで見た記号が混ざり始めついには

 ・

 ・

 ・

『Good evening』

『Buenas tardes』

『Boa noite』

『Guten Abend』

『Habari za jioni』

『Добрый вечер』

『Καλησπέρα』

『مساء الخير』

『शुभ संध्या』

『สวัสดี』

『عصر بخیر』

『សាយណ្ហសួស្ដី』

『안녕하세요』

『晚上好』


 ん? 何か見たことある文字が? と思った次に。


『こん・んは』

「こんっんは?」


 あ?


 あ、あああああああああああああああああああああああああああ!? こんばんは?


『お・これならよめる・なるほ・も・こ・・のこん・・とさえすめ・・いしのそつうはかのう・な』


 眠気吹っ飛ビマシタ。


 な、何が起こってる? 窓の中で誰が喋っている?


『こわからないて はなし したい』


 ピコピコ点滅を繰り返す文字が示す。


「話したい……?」


『へんはお そちらのはなし わかる えみゅ こちらのはなし とうよめるか しはらく はなし つつけて』


「へんはお? こちらの話は判るの? えみゅ? キミの話がどう読めるか? しばらく話を続ければいいの?」


 どういえばいいんだろう、妙な気分ではあるけれど怖いって感じじゃない。


 なんとなく相手の必死さというか、何かを伝えたいという情熱みたいなものが伝わってきて。


 暫く青窓の文字と会話を続けた。


 ◇


 ◇


『いやー助かった。何とか会話できるくらいには育ったかなぁ』


「その”えみゅれぇたぁ”? が育つとスムーズに会話できる様になるってことなの?」


『そうなんだ、会話できるようになって君にお願いしたいことがあったんだよ、すぽぅく』


「……名前……教えたっけ?」


 ヤバい、信用しかけたけど相手は得体のしれない窓だった。少し警戒を強める。


『ごめん、怖がらせちゃったね、実は昼間、男爵の屋敷で聞いていたんだ』


「え? 家令様のお部屋にいたの?」


『ああ、正確には扉の外かな? 一方的に名前を知っているというのも失礼な話だったね。私の名は【イナヅマ】と言うんだ こんごとも よろしく……』


「……うん?……よろしく【イナヅマ】?」


 どこかで聞いたことがある?もちろん空に光る稲妻じゃなくて。


『こちらからお願いばかりというのもフェアじゃないね。次は君の願いを聞こうじゃないか、何か私に出来る事はないか? その前に私の姿を見て貰った方がいいかな。正直に言って今の私に出来る事はそう多くはない』


 納屋の壁際辺りからガサゴソと音がしたかと思えば。”ペカリ”と黄色い小さな魔導照明が輝き。


 ブゥゥゥ


 小さな羽音と共に近づいてきた黄色い光は諏訪久(すぽぅく)の毛布の上に”ポトリ”と落ちた。


『ちょっとばかり身体が小さくてね』


 【イナヅマ】と名乗ったそれは、手の中に握りこめるほどの小さな黄昏色(おうごん)に輝くコガネムシだった。

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