47話 事情聴取
「これはこれは皆様お揃いで…【小鬼】殺しの英雄の出迎えですかな?」
通された会議室の壁際には何人もの傍聴人がぐるりと十重二十重に聴聞席を取り巻いていた、なかなかの盛況だ。
街道探索の翌日、冒険者組合支所長名で呼び出しを受けた”永遠の尊多”の代表上慎が冒険者集団構成員と共にやって来た。
心なしか上慎を除いて皆顔色が悪い、昨日の今日で逃げ出さなかっただけ大したものだ。
「なに、気にするな。”永遠の尊多”の動向が気になる連中がたんとおるということ、最近ご活躍目覚ましいのでな周囲から様々な声が上がって来ておる、皆の疑義に回答してやればいいだけの簡単な仕事よ」
禿頭の冒険者組合木ノ楊出流支所長はよく日に焼けたその頭を撫でまわしながら上慎達に着座を促した。
「今を時めく僕達の仕事ぶりを聞いて盗みたいというのは判るがね、簡単にはいかないと思うよ」
支所長の向いの椅子に尊大な態度で腰掛けた上慎は周囲の冒険者たちをぐるりと見まわした。
そりゃ太っとい尊多商会がなきゃ真似は無理だよなぁ、耀導徒第二だって似たようなことはしているしね。
ちな支所長活動休止してるけど一級冒険者でまだ現役だから、でも教えてあげないよ。じゃん。
「では、元”翠の牧場”代表不羅毘と三名の冒険者が”永遠の尊多”での活動中に行方が分からなくなった件に付き説明をお願いします、まず経過説明を致します、疑義がある場合訂正をお願いします」
斌傳さんは昨日ボク達が集めた情報を時系列順にまとめ上げた資料を読み上げ始めた。支所長の手元には同じ資料があるのだろう、そちらとの相違がないか逐一確認をとっている様子。感情、感想を交えず淡々と出来事だけを報告していく。
「やれやれ、皆さん、優秀な冒険者集団は辛いですなぁまるで愛好者に追跡される吟遊詩人が誕生した様だ」
これ見よがしに手の平を額に当て、肩を竦めて嘯く上慎。
小さく舌先が”ぺろり”と唇を舐めた、恩恵技能〖詐術〗全開だな。
概ね、昨日の街道”七曲り”地点で語ったとおり、商隊護衛依頼の帰り道同所で襲ってきた数十匹の(絶対盛ってるだろ?ここ)【小鬼】を四匹まで倒したところで魔物の群れは逃げ出した。
しかし功を焦ったのか不羅毘が三名の冒険者を道連れに森の奥へ深追いし全員帰ってこなかったという話だ。
戦闘した場所や魔物の情報は報告義務があると言われたので知らせたが冒険者集団の内輪もめまで報告しろとは言われなかったので報告しなかった。とチクリと冒険者組合側の対応不備まで皮肉っている。
獲物の所有権については冒険者集団内で全て上慎のものとする同意を得、その分は金で構成員に補填したとの事。不羅毘達の取り分についても本来なら指示無視の段階で除名したいところだが悔いて謝罪するなら他の構成員と同額の支払いを考えているという。
冒険者集団内で位階の低い構成員が居れば、その者に達成成果を集約し位階を揃えるぐらいのことは皆やっているのでそのこと自体は文句のつけようがない。
結局、不羅毘外三名の件に関してはそれ以上の追求は出来なかった。
事情聴取も終わりかけかと思ったそのとき。
お嬢様が手を上げ支所長に発言の許可を求めた。
上慎の同意をも得、お嬢様は質問を発した。
「上慎昨日はお疲れ様、七曲りで会ったとき護衛依頼の帰りって言っていたけどいつもの商隊護衛じゃなかったみたいね、尊多商会の番頭に確認したら長渡方面行の便は昨日はなかったって」
「ありがとうございます、木ノ楊出流お嬢様、昨日も申し上げましたが護衛任務でございます、内容につきましては守秘義務が―――」
「ちょっと、まってもらえるかな?」
支所長が会話に割り込んだ瞬間”えっ?!”という顔色になった上慎。ほらぁ、全部ポチャ任せだからそうなるんだよぉ?
「昨日の護衛任務?冒険者組合を通さない直接依頼かな?直接受注した場合でも冒険者としての活動であれば組合へ報告と手数料の納入義務があるんだが?」
そうなのだ、直接依頼で冒険者としての肩書を使って活動した場合組合へ報告し、金銭の授受が発生した場合は手数料と税金を納入をする必要がある。
でなければ、有名になった冒険者等は冒険者組合を通さずに活動できてしまい冒険者組合の収入が無くなってしまうではないか。
なので冒険者が直接依頼を受けた場合でも形式として冒険者組合を通した体は取らなければならない、でなければ何時でも拠点を替えられる冒険者の直接受注は脱税とほぼ同義だ。
「いや、昨日の護衛は無償であったので手数料の納付は無いし、活動実績に計上しなくても良いので報告はしないでいいと思ったのだ」
すこし、しどろもどろになりながら回答する上慎。
「無償であっても後で発注者と内容について申告は必要なんだが規約は読んで居ないのか?脱税対策のため裏は取る様、領主様から指示されているのでね」
禿頭の支所長の圧力に先ほどまでの勢いはどこへ行ったものやら。だめだよーそういうのはーもっと上手くやらないと、手数料は組合の生命線なんだから、取り扱い注意よ。
「でぇ、その無償の護衛依頼なんだけれどぉー…どこまで護衛したのかしらぁ?」
支所長の苦言終了を待ってすかさず会話の主導をひったくるお嬢様。
「…お嬢様、それは今回の聴取の内容に関係する話なのですか?」
お、いいねぇそうだよぉお嬢様との会話は慎重にね、でないと定例狩猟の時みたいな目に合うよぉ。
「勿論よ、どこまで護衛したのか教えてくれる?」
にこにこ天使の微笑みで上慎に語り掛けるお嬢様。ひゃぁ、たまには遠目から望むお嬢様も一段と素敵。
「…長渡の尊多商会の…支店まで…」
消え入るような小声で答える上慎。はい!ダウト。
「尊多商会長渡支店って言った?」
大声で復唱するお嬢様。冒険者組合記録員の方!きっちり記録おなシャス!
「あれぇ?あれあれあれれ?」いえいえここからお嬢様のじかん…。
「昨日ね、上慎 アンタと別れた後長渡へ行くって言ったでしょう?」
少し斜め下から爛と両目を見開いたお嬢様がねめつける、こわい、怖いです吋和年先生。
「…支店へ行かれたのですか?」ヘイヘイ!どうした上慎、こっちまで声が届かないぞ!
「ええ、支店へも行ったわ」
「も?」
「そうねぇ…知らざぁ言って聞かせやしょう。昨日、私たちが街道を通る前に、同じ街道を抜けた白い皮鎧を着た一名含む冒険者風全五名一行は霞村の関を抜けた後、昼間から長渡の酒場へ入り仕事の完了を一刻(約二時間)程祝ってから帰路へ着いた、その帰り道で街道捜索中の私たちに出くわしたのよ」
イナヅマの進言によって永遠の尊多の全員に【鑑定】を施したボクは構成員のうち数名が”飲酒”状態であることを掌握し、その旨をお嬢様に告げ、永遠の尊多の長渡での足跡を裏取する様進言した。
先程から顔色の悪い上慎は苦し紛れに「…関番も…酒場もご領主様のご息女に言われれば…」
ああ、それを言ってしまうのね?
「そうね、自分たちの雇用者の子息に対する商会店員の”優”査定と同じくらい信用できないかもしれないわよね」
そう返されるよね?
「じゃあ、あなた達が名来流村を抜けたときに一緒に居た護衛対象の女の子達三人は何処へ消えたのかしら?」
ざわっ!!
一気に周囲がざわつき始めた。
「なっ!」絶句する上慎。口は回っても頭は回んないのか?ド田舎名来流村の田畑の間を美人なお姉さま三人も連れて冒険者が通れば嫌でも目撃されるわ。無人の野じゃねぇんだぞ。
「そっ!それは…別の冒険者なのでは?我々は…すみません、男の甲斐性と見得をはってつい…護衛依頼を受けたと言ってしまいましたが、実際は我々だけで長渡の酒場へ行ってまいりました、構成員に成人者もおりますれば…申し訳ない支所長実は護衛依頼はなかったので申告していなかったのです」
おお、迫真の台詞。でもまたダウト。
冒険者組合基本三カ条覚えてないんだろ?殺すな、盗るな――――。
「嘘つかないでくださいぃっ!!!!」




