46話 永遠の尊多
「今の内容を纏めて支所長に報告します、永遠の尊多に対して事情聴取を要請してもらいましょう」
頼りになるなぁ斌傳姐さん。会議室はお任せしてボク達は現場へ向かいます。
ボク達の他に樽素虎以下十数名、そこそこの人数が確保できた。半日当として一人白銅貨五枚の報酬提示もよかったと思う、無賃でも参加してくれたと思うけど日銭で生活している冒険者にただ働きの強要は心苦しい。それに明らかに士気が違う。
長渡支領と名来流村(ボクの実家がある村ね)の間を繋ぐ街道の両側に広がる森を街道と並行して人員を展開し探索していく。
前回同じ街道で”孔雀草”を探索した時と同じ手法だ。不明者の捜索は勿論だけれど【小鬼】四匹と戦った痕跡を探すのも重要だ、そこが判れば少なくとも捜索の起点が確定する。
”孔雀草”捜索でははおそらく戦闘となったであろう場所は”七曲り”付近と判明したもののそこから森の奥に向かったとみられる痕跡は途中の沢に差し掛かった辺りでプツリと途絶えた。
沢沿いに進んだのでは?と考えられているが道の無い森の中を進むとき、捜索者が後を追いやすい様に途中の木々の枝に細工をしていく、というのが森の中で糧を得る者たちの暗黙の了解となっており、冒険者達も森歩きの基礎として初期のうちに叩きこまれているはずなのだがその細工をした跡も無く。
二次遭難の危険性が高く中途で探索は打ち切りとされてしまっていた。
あの時も不羅毘は見つかるまでの徹底捜索を主張したが、他冒険者集団の代表も自分の仲間を必要以上な危険に晒す訳にもいかず、結局は多数対一で打ち切りは決定してしまった。
帰路、何気に振り向いたとき、疲れ切った様子で一番後ろをふらふらと歩く不羅毘の皆をねめつける幽鬼の様な恨み顔は今でも脳裏に浮かぶ。つるかめつるかめお嬢様。
上慎の冒険者集団永遠の尊多からの報告内容でも戦闘は”七曲り”付近街道沿いで行われたとされているため、もし、万が一の場合でも街道からそう深くない場所だと推測された。
”孔雀草”探索のおかげで進行を妨げる藪や枝は概ね切払われており、比較的順調に進むことができた。
街道も中盤に差し掛かり”七曲り”と呼ばれる岩やら地形やらの関係で道筋がグネグネと変則に曲がりくねった地点…永遠の尊多が【小鬼】と遭遇したと報告した、かつ孔雀草の消失想定地点でもある場所で特に念入りに周囲を探索する。
こんなところで闘ったら普通下生えが乱れたり戦闘の痕跡が残るはずなんだけど、先週孔雀草の捜索時点で相当踏み荒らしてしまったのか、あの時とあまり大差ないようには見える。
もし孔雀草行方不明の原因も【小鬼】の襲撃だったとしたら、領軍の皆様に出動の要請がかかるのかもしれない。
「お嬢様!諏訪久!」
そのうち山側の左翼を担当していた莉夢からお呼びかかった、なにか発見か?
僕ら三人の中で一番斥候能力の高い莉夢は最前線で指揮官的な役割を果たしてもらっている、僕とお嬢様は街道を進みながら街道の左右に展開した冒険者達達から寄せられた情報の集約だ。
街道から山側に伸びた細い獣道を十間(約二百メートル)程も入ったところに、可愛く押し花を鋤き込んた便箋が落ちていた。
…何だこりゃ?。
前回も探索した冒険者の話によればこの獣道を進んだ先に件の沢があるそうで…前回の捜索の時にこんな便箋落ちてれば気が付かない訳がない。以降に誰かが入って落としたものだということになる。もちろんお花摘みの跡でもない。
後から位置を特定できるよう近場の木の枝に目印に桃色の飾平紐を括り付け、便箋はお嬢様が回収した。
ボク達が街道まで戻るとひと騒動起こっていた、やれやれ。
上慎とポチャ、他三名の冒険者が元”翠の牧場”の連中に囲まれている。
人垣の中央では樽素虎が喰い付かんばかりの勢いで上慎を追及していた。長渡方面から帰って来た永遠の尊多と接近遭遇してしまったらしい。
「アンタ不羅毘と皆を何処へやったんだい!一昨日依頼を受けて一緒に出掛けたのにアンタらしか帰ってきてないってのは調べが付いてンだ!」
「逃げた【小鬼】を追い駆けて僕の撤退命令も効かずに森の中を追っていったんだよ、散々待ったのに帰ってこなかった、今どこにいるかこちらが訊きたいくらいだ、とっとと除名処分にでもしてやりたいよ」
面倒くさそうに上慎は答えた。
「不羅毘は自分は無理をしたとしても三級の娘っ子引き連れて森の奥へ突っ込んで行くなんて絶対にやらない!アンタらが不羅毘達を始末して魔石を横取りしたんじゃないのか!なぜ魔石納品のときそのことを報告しなかったんだいっ!」
頭に血が上っている樽素虎、ヤバいよヤバいよ。上慎の〖詐術〗の思う壺だよ。
「現場に居なかったお前が、その場で見ていた僕より正しいとでも言うのか?そんな馬鹿な話があるか!
横取りだと?失礼な!証拠がどこにある、魔石に不羅毘の印でも付いていたのか?あらぬ疑いをかけるなら男爵様に訴え白黒つけても構わんのだぞ!
報告しなかった?特に聞かれなかったからな。お前は納品の時組合に今日誰が辞めただの命令違反したなどと冒険者集団内のことをいちいち報告するのか?僕の知る限りそんなことは誰もしていない様子だったがな。
第一不羅毘を見限り、見捨てた恩知らず達が何をか言わんや!」
「うっ!」樽素虎は言葉に詰まってしまった。
イライラする薄ら笑いを浮かべ上慎は開き直っている。
「待ちなさい樽素虎、証拠も無しで審判の申し出なんてしたら罪に問われるのはあなたの方よ」半目なお嬢様はゆっくりと喋る。
そうだ、落ち着け樽素虎、お嬢様を信じろ、信じる者は救われる。
「流石お嬢様、よくご存じでいらっしゃる」お前はそのキモい薄ら笑いを止めろ、××したくなる。
「上慎、あんた仕事の帰り?今日は何の依頼だったの?」感情のこもらない棒な台詞で問うお嬢様。
「これはこれは、お嬢様、ついに【小鬼】討伐者上慎の動向に矯味をお持ちになっていただけましたか!依頼の内容は業務上申し上げられませんが、去る護衛任務を完遂してまいりました。いやはや、飛ぶ鳥を落とす勢いというのはこのことを申すのかと身に染みる思いです」
明らかに間違った語用で悦に入ってる。
調子ぶっこきかんらかんらと高笑いの上慎。
「ふぅん、そう、ご苦労様。波に乗ってるみたいだから今度何か頼むかもね。アタシらはまだ長渡まで行かなきゃならないから、じゃあね」と作り笑顔で答えるお嬢様。
「過分なる賞賛を頂き恐悦至極、至福の境地です。いやしかし、まさかお嬢様、不羅毘達が本当に街道のどこかに埋まってるとでもお思いではないでしょうね?」そうだけど?なんなのお前、その余裕。
「あー、そんな雑な隠ぺいじゃ臭いですぐバレちゃうだろうしね、そうじゃないことを確認しておくだけよ」もー、そんな奴にお嬢様の笑顔は勿体ないでスヨープンプン。
「ふむ、判りましたお嬢様、ではご好運をお祈り申し上げます」
「ふふ…アンタもね…」不敵に笑うお嬢様に上慎ハートもドッギャーンされたみたいで少しにやけていやぁがった。天が許そうともボクは許さんぞ。
にやにや笑いを張り付けながら背を向け去ってゆく上慎とその下僕冒険者一行。
悠々と名来流村方面へ向かったその背中に、堪忍袋の緒が切れたのか腰を落とし帯剣の鯉口を…切ることはできなかった。
剣の柄を掴んだ右手を長杖の端が押さえていたからだ。
「樽素虎…今回の依頼主は耀導徒第二よね?アタシの顔を立てなさいな」
穏やかな表情、だのに地獄の底から這い昇り寄る冷気に絡め獲られるかの様な声色でお嬢様。
樽素虎は、お嬢様の顔と歩み去る背中を交互に見、追っても逃げられてしまう距離まで上慎が遠ざかると、腰の剣から手を離し、その場で膝をつき、ペタンと座り込んだ。
歯を食いしばった顔面の色は怒りを通り越し蒼白で、肩も、硬く握り締めた拳もブルブルと震えていた。
大丈夫 樽素虎。お嬢様の頭上にボクにしか見えない♯印が浮いているから、君の想いいつか必ず届く。必ず。
『諏訪久…占いの時間だ、今日の幸運を呼ぶ魔法は【鑑定】がお薦めだ』
『何言ってんの!イナヅマ!こんなとき占いなんて…ん?【鑑定】?』
…複写再現【鑑定】×五…。
!
『…ありがとう、イナヅマ…』『どういたしまして』
ボクは今【鑑定】した結果を“気が付いたこと”としてお嬢様に報告した。
すると「確かに雇われ冒険者の内から臭いが感じ取れた」と野生の虎娘からもお墨付きを頂けたのだ。ふふん。
「ふぅうん…、なら、裏を取りに行きましょう」地獄の業火をも凍らせる程にお嬢様の笑み。
ボクはどっかの阿呆の余命が極僅かであることを確信した。




