41話 追いつ追われつ
はたして、程なく耀導徒第二所属三名は共に三級への昇格が承認された。
いまや木ノ楊出流領内冒険者最大派閥の盟主である雨田隊の推薦も護衛依頼完遂の実績も冒険者組合内査定も良好で極めて有望な冒険者集団として取り扱っていただいている。これも全てみなさんのおかげです。
組合からの昇格認定の通知を受け冒険者証の切替を行うために木戸をくぐり抜けた。
「これはこれは木ノ楊出流男爵令嬢、ご機嫌麗しゅう」
「なんでアンタがこんなとこいるの?上慎」機嫌を損なったときの声ですねお嬢様。
そう、ボク達の目の前には薄皮の…特注品なのか森の中で引っかかりそうな余分な造形がごてごてと付いた白皮が目を引く矢の的…じゃない軽鎧に身を包んだ上慎が通路の邪魔になりそうなところに突っ立っていた。
「未来の我が主が己の実力を示すため敢て庶世へ身を投じたと聞きつけまして、私奴も世を学ぶ上では一興かとも思い立ち馳せ参じた次第。冒険者の様な下賤な職業に敢て携わる等目の付け所がそこいらの有象無象とは違ごうございます」感心しているのか馬鹿にしているのか分からない口調で上慎は宣った。
”下賤な職業”て言った瞬間にそこかしこから飛んできた殺気に気付かない辺り莫迦なのか大物なのか悩むところだ。やっぱり莫迦なんだろうな。
「先日、冒険者登録を済ませました、昇格目指し共に歩みましょうぞ!」と目をキラキラさせて初級の冒険者証を懐からチラ見せしてきた。
「ふぅん、手は足りてるから要らない、じゃ頑張って」と通り過ぎながら無感情に語るお嬢様。
「ああっ!木ノ楊出流嬢」ボクも莉夢も視線を合わさずさっさと脇を通り抜ける。
そのまま受付へ向かうも人だかりができていてとても窓口にまでたどり着けない。傍らの長腰掛で苦虫を嚙み潰す様な表情をしてグダっている友好冒険者集団の一人に聞いてみた。
「あぁ、どこぞの勘違いした金持ちのボンボンが金出すから昇級させろってゴネてるんだとさ」
ああ、どっかで聞いたことある”ポチャ”なキンキン声が聞こえてきた。
「魔石を納めれば昇格できると聞いたぞ!なぜ受け付けられない!」
「ですから!これはどちらかで購入された加工済みの魔石ですので納入実績には計上できません!」
先日から引き続きの怪物要求者対応お疲れ様です、斌傳姐さん。
ボクも自分たちで魔石を納品するようになって初めて知ったのだけれど、魔物から取得した魔石はそのまま魔導具に組み込むわけではなくきちんと加工処理され魔物に還元しない魔石として使用されている。 加工前の魔石をあえて区別するときは生魔石なんて呼んだりするけれど、一般的な呼称は加工前も加工後も魔石ではある。
生魔石の納入=魔物討伐も加味した実績なんだから加工済みの魔石を納品して冒険者実績に数えろというのが無茶な話。第一加工済み魔石の納品先は魔道具屋だっつーの。
お嬢様の玻璃珠もこの魔石加工技術の応用品らしいのだけれど小指の爪大で売値銀貨一枚もする魔石が手の平大の玻璃珠だといくらするものか…さりげなく聞いたところ金貨十枚以上…つまり銀貨で百枚は下らないらしく、ボク達の冒険者集団活動の収益もこの玻璃珠資金の一部を賄う苦肉の策なのではないかと思ったり思わなかったり。
んで、生魔石と加工済み魔石の違いを知らなかったポチャ君は購入した魔石で納品実績を稼いで昇格しようとして断られていると、ば~~~~~っかじゃねぇの?
昇格には組合の査定が必要で、査定には窓口のお姉様方の意見も加味されるのヨ?ポチャ君キミ今組合査定減一直線だって気づいていない?ボクも友好冒険者集団の皆さんから漏洩されるまで知らなかったけどさ。
初級でも講習で教わるでしょうよ”殺すな、盗るな、嘘つくな”って。
そのうち、表の方がざわざわしてきたと思ったら。
「不当な要求を繰り返す痴れ者が居ると聞いてきたがこちらか!」
ありがとうございます。木ノ楊出流領軍警備部の皆様、一個分隊丸ごとの登場です。
「おお!良い所へ来た!領軍!この女を捕えろ!先程から理不尽な戯言を繰り返すばかりで話にならん」領軍の皆様にタメ口ってどこの世間知らずだよ中学生。
「ご苦労様です」スッと立ち上がりつかつかと歩み寄るとビシッと領軍の敬礼をキメるお嬢様、一拍遅れてその後ろに並んでビシぃッ!と追従する従者二人、これぐらい察知して動けなきゃお嬢様の従者なんざ務まんねぇゼ!
「お、お嬢様!失礼致しました!」同様に返礼する分隊の皆様。
普通敬礼は部下が先に始め上官が敬礼、上官が先に止めその後部下が敬礼止め。という順番なんだけどお嬢様は上官じゃないから、単なる訓練参加者だから皆さまそんな慌てなくても。空気を呼んでか変則だけど先に敬礼を止めるお嬢様、続く分隊の皆様。
「お仕事はあちらです」無慈悲にポチャを指差す鉄槌なお嬢様。あらやだこわぁい。
「美っ!木ノ楊出流男爵令嬢…様!」
ポチャの分際でお嬢様を名前で呼ぼうとしたよな?テメェぶっコ〇されてェのか。※殺人は犯罪です
貴い方を名前で呼んでいいのは明らかな目上か許可された親しい間柄だけなんだよっ!…ふぅ…いかん…落ち着け、ボク。
「違うっ!ますっ。僕…私は普通に魔石の買取を申し込んだだけなのに、このおん…受付が拒否したので…ついっ声を荒げたかもしれないがっ」何やらしどろもどろになり始めたポチャ君。
目で一所懸命何かを探している様だけどもしかして先ほど警備部の皆様とすれ違いに慌てて出て行った矢的の上慎君のことかな?
分隊長が周りを見渡し「不当な要求を繰り返す痴れ者が居ると聞き及びここへ来た、その者がどこにいるか判るか諸君ッ!」叫んだ。
斌傳さんを指差すポチャ。
ポチャを指差すその場全員。お嬢様も莉夢もボクも、斌傳さんは指差し交差で。
「まてっ!放せっ!私は上慎坊っちゃんの秘書だぞっ!坊っちゃん!どちらにっ!坊っ…」
領軍さんに連れられて行っちゃった。
なんやかんやで受付窓口が再開されボク達は再び銀貨三枚を犠牲に三級の赤銅冒険者証の入手に成功した2D6。今度斌傳さんに差し入れでも送らなきゃ。
感慨深げに赤銅証を眺めていたお嬢様は暫く考えた風に「この後少し買い物して、蛙の沼へ行くわ」ボクら二人にほほ笑んだ。
はいはい、いつもの突発事案ですね、宜候。




