40話 死捨間
今度は回転が長い、三周目に入ってもまだ間の取り合い鬩ぎ合いは終わらない。一回戦目は莉夢から仕掛けたが…。
ボクには判る莉夢はこの状況を楽しんでいる。あれ、無表情に見えるけれど実は軽く微笑んでいるんだよネ。
ボクと試合っているときもあんな表情になるときがある”今貴方はどうしようと考えているの?次は何を見せてくれるの?”という、弟の頑張りを見守っているお姉さん的な感覚なのではないかと思われ‥。
周りを囲んでいる三級冒険者の何人かが欠伸を噛み殺し始めた。
この攻防がグルグル回っているだけに見えたとしたらキミタチ、少なくとも戦闘系冒険者としては大成しないよ。
先輩の剣先を揺らしての一見隙に見える誘いや、一足の間をずらして相手の先を誘う莉夢の歩法が見えてないんならね。飽きてる暇なんてないほどの情報量だよ。
「ぁふわあぁ…」
隣で大欠伸かましてるお嬢様はいいんです、可愛いから神が許します。
ああ…これか、莉夢が待っていたのは…。
刻はもう昼間際、照り付ける太陽。一回戦目の担ぎとは違う、腕で重い木剣をずっと支え続けてきた先輩の額に沸々と珠の汗が浮き始めた。
流石の先輩も同じ体勢のままここまでの時間膠着状態になるとは考えていなかったのかもしれない。只持っているだけではなく心理的駆け引きの応酬で相当の精神消耗もある。
先輩の口元が笑った。
苦笑交じりに強引に間を詰めた先輩が右側から剣を振り下ろした。
その軌道を捕えたはずの莉夢の杖が空振った。
先輩は振り下ろしかけた剣の中半を左手に持ち替え手首の捻りで剣の軌道を反転させた。刃の部分を握り(実剣の片手半剣も刃の途中から鍔にかけては刃引きされており木剣でもそこを握っての運用はズルじゃない)両手剣としても扱えるよう戦棍の如く長く武骨に造られた柄の頭で左側面から殴りに行ったのだ。Oh!キョーレツ
それでも莉夢には届かなかった。空振った杖に追従し身体そのものをくるりと回転させ振られた剣柄戦棍を下からかち上げた。
くるりくるくる宙を舞い
すとん
と、円陣の冒険者たちの足元に落ちる片手半剣。
半ば両手を掲げる倉利州先輩の首元に杖先を突き付けている莉夢。
「勝負あり!」
斌傳さんの判定の声に周囲からは一斉に歓声が上がった。
開始位置に戻り相互に礼を交わす莉夢と倉利州先輩。
先輩は莉夢に歩み寄ると手を差し出した。
「完敗だよ莉夢君。やはり思ったとおり強かった」
そりゃぁメタ張って対策してなお勝てなかったのだから先輩としては完敗なんだろうなぁ。
「いや…いえ、私も貴方の責任感に付け込んだ…ました、片手半剣の使いこなし見事だった…でした、また機会があったらお願いしたい」先輩の手を握り健闘を称えあう。どこか上気した様な満足気な表情の莉夢。
ちょぉっとぉ莉夢さん、ボクとの模擬戦でそんな顔見せたこと無いデスヨネぇ。
あぁ~何かモヤるな、くっそぅ早くお屋敷帰って素振りがしたい。
責任感に付け込んだっていうのは、飽く迄余興であるこの試合で後の仕事への影響を考えなければならない先輩は不利であっても先に仕掛けなければならないと判ったうえで時間を引っ張った事を指すらしい。
先輩から挑戦してきたんだし、対策までされていたんだからそれぐらいはやってもバチ当たらないんじゃないんですかネェ。
パンパンパンと拍手の音が響いた。
周囲の兵士たちが一斉に片膝をつき頭を下げる。
「伯父さま~!」すかさずお嬢様が駆け寄る。
重厚な革鎧に身を包んだ御二人。
羅比斗・倉利州騎士爵。今回遠征国軍の指揮官であり、倉利州先輩の御父上でもある。
文和領茶日琉・105男爵令息様。亜瑠美奈奥様の弟君にしてお嬢様の伯父上にあらせられる。
「おおぅ美都莉愛!来ていたのか!アル(亜瑠美奈)の真似をして冒険者登録したとは聞いたが、皆にあまり心労をかけるものではないぞ!」言葉とは裏腹に久しぶりの姪との再会に表情を綻ばせる105男爵令息。
男爵家子息と遠征国軍指揮官、本日の主催者二人連れ添い輜重隊の激励という名目の味見にやってきたらしい。大丈夫ですか?
伯父姪の再会劇の傍ら、国軍指揮官殿は周囲に”楽にするように”と合図すると、片膝をつく倉利州先輩と莉夢の方へするすると歩み寄った。この場では国軍指揮官と冒険者代表だもんね。
先輩に優しい視線を投げ頷くと、莉夢に声をかけた。
「羅比斗・倉利州と申す。いやはや、これは珍しいモノを見せてもらったぞ娘子、その技は西方の騎士に伝わるという戦闘術“死捨間”ではないのか?」
倉利州先輩の細い目が見開かれたのが判った。
「わかりません、亡き父がわが身に残してくれた技にございますれば、我師正武からも同じ事を言われました。そんな呼称を耳にした気もしますが幼き時分のこと故明確に覚えておりませぬ」
「そうか…お主の父親、さぞかし名だたる騎士だったのであろうな、素晴らしき研鑽の賜物であった」冥福を祈ったのか腰の剣の柄に片手を乗せ、暫しの黙とうを捧げる倉利州指揮官。
「申し訳ありません、物心つく時分から家族共に流れる身であった故、父の由縁等訊き覚えがございませぬ、ご容赦の程を」
深く頭を下げる莉夢に倉利州指揮官は微笑んだ。
「よいよい、久しぶりに目の覚める御業を見せて貰って眼福であった。木ノ楊出流の冒険者であったな?いつでも駐屯地に参って研鑽を積むがよい、名は何と申す?」
「はっ、ありがたきしあわせ。美都莉愛・木ノ楊出流が従者にして冒険者集団”耀導徒第二”に属します、莉夢と申します」
おおぅ!耀導徒第二国軍雨田村駐屯地出入り解禁でござりますか!アザッス!
「そうか、主持ちであったか、さもありなん、後に主にも挨拶しておこう」
残念そうな響きが少し声に混じってる?あ、引き抜きはご遠慮くださーい。
「初捉」続けて先輩へと視線を替え。
「精進したな。仕事を忘れなかったのもよかった」と伝えた。
「ハッ!」その言葉に下げた先輩の頭が上がらない。見れば微かに震える先輩の肩。
それは見ずに105男爵令息とお嬢様の方へ向かう指揮官殿。
お役を免じた莉夢が斌傳さんとも握手を交わし。ボクの元へ帰ってくる。
「お疲れ様」
差し出した水筒を受け取りゴクゴクと喉を鳴らして飲み下す莉夢。
その喉元に伝う水滴を見ながら心に誓う。いつか必ずあそこへ並び立つ、ボクも。
「…」
莉夢の視線がジッと指揮官殿を見つめていることに気が付いた。
「どうしたの?」
ボクの方を向き耳元に口を近づけた莉夢は…あっ、吐息が…あフん…。
「あの御仁…内臓を患っているかもしれない」そっと、囁いた。
あー、莉夢vs不羅毘戦を書いててフラストレーション溜まっちゃったんで初捉戦書いちゃいました。
最初はこんなに重要人物じゃ無かったんだけどなぁ…。




