35話 耀導徒の鼓動(ドカン ドカン)
今日ぉも元気に!ドカンと決めたよ!洋ラン背負って納品に!
「ご隠居ぉ!ご注文の品、ただいまお持ちしました!」
背負ってきた背負子をそっと庭先へ降ろす、汗をふきふき括り付けたランの鉢植えの括り紐を解いていると。呉服屋のご隠居さんが庭へ下りてきた。
「おおお、これは立派な胡蝶(蘭)じゃのう、予想以上じゃ!心づけを弾まねばなるまい、良い山野草を見つけたらまた頼むぞ諏訪久」
「毎度アザーッス!喜んで~」
受け取りに署名と”優”評価を貰い空の背負子を担いで帰路に就く。
いやはや、今日も四級冒険者集団”耀導徒第二”は大盛況です。
流石のお嬢様の粘りも全国冒険者組合の規定をひっくり返すには至らず。同音異字、または何らかの文字を追加し亜瑠美奈・105様の(105は奥様ご成婚以前の御家名)”耀導徒”と差別化が必須とのことで”第二”の文字を追加した。
奥さま曰く「一級まで行けたらその冒険者集団名美都莉愛にあげるワ」と言われるとお嬢様も「ぐぬぬぬ…」と大人しくなった。
名称騒動はともかく、実際の活動に当たってはお嬢さまの思惑通り順調に実績を積み上げている。
四級冒険者用の依頼といえば殆どが臨時の雑用や日雇い<ぴー>的なもの、失せ物探しにこども老人家禽家畜の世話的なものが殆どだったりするのだけれど。
これらは四級依頼で生計の足しにしようとか片手間で小遣い稼ぎしたいとかの生活冒険者が主にご用達とする依頼であって、昇級を目的とするボクらの場合少し目先が変わる。
生活冒険者から敬遠放置されている、所謂塩漬け依頼の方が昇級を目指す冒険者にとっては有利だ。達成率向上の観点から組合貢献にも繋がる。
冒険者組合も双方から手数料捕っているだけあって要求内容に対して極端に安価な依頼料であったり犯罪になりそうな依頼自体は受け付けていないのでその点は安心できる。
逆に言えば、組合を通さない仕事はそのどちらかである可能性が高い。大変だったなぁ莉夢。
四級塩漬け依頼の中だけで見た場合難易度自体は低いものの、運に左右される、専門知識が必要、拘束時間が長い。等の問題点がある依頼案件が多いことが見受けられる。
実はボク達耀導徒第二にとって一番美味しいのは蛙魔石の納品になるのだけれど、乱獲しすぎて蛙が減り過ぎてしまい狩り物競走当日に獲物がなくて負けてしまうなんて事態は避けなければならない。魔石水増しの裏ワザ(笑)が必ず使えるとは限らないのだから、当日捕獲分は確保しておくべきだし取得済みの魔石はできれば温存が望ましい。
蛙魔石納品は最後の手段だ、ボクタチは四級冒険者隊だ。
塩漬け案件の調査と組合職員のへの聞き込みの結果。
発掘した依頼の一つが呉服屋の御隠居さんの趣味の山野草収集のお手伝い。
元バリバリの呉服商人で自身も街道周辺の町々を巡り商売の傍ら、趣味の珍しい山野草を自力採取していたそうな。
今は本業は息子さん達に譲り、悠々自適な生活を始めたものの、足腰が弱まり始め遠出が難しくなると新しい山野草との出会いが減ってしまいとても残念に思っていた。
そこで冒険者組合に山野草の採取依頼を出したのだけれど、ご隠居の意図は冒険者になかなか伝わらなかった様で、薬草採取よろしく根ごと引き抜かれて持ち込まれたり、そこら辺りの花壇の草花を持ち込まれたりとまぁ…散々で殆どの結果が”不可”だったらしい。
そのうち冒険者間で成果に文句付けるだけの偏屈爺さんとの噂が立ち、誰も依頼を受けるものが居なくなり、塩漬けとなってしまっていた案件とのこと。
珍しい山野草を鉢植えにして庭に置き眺め愛でたい。それだけのことが冒険者組合にも冒険者達にも理解できなかったんだなぁ…。
たしかに庶民でそんな高尚な趣味の人も珍しいと言えば珍しいんだけれど。
お嬢様は塩漬け案件の中にこれを見つけるとまずご隠居さん宅を訪れ庭を見せてもらう所から始めた。ご隠居のお話を聞きどんな草花を好むのかを知り、男爵様の森でご隠居の意に叶う山野草を探し出す。
蚤の市や窯元の売り出しでご隠居さんの庭で見たものに近い器を見つけ出し、山野草を生きたまま、形よく整えて持ち込んだ所。ご隠居さん大感激。
吋和年先生にご教授頂いた花の飾り方、お屋敷の庭師得楠さんに教わった鉢植えの基本、などなどの知識技術の複合技なのだ。
これだけの知識と技術を日々生活に追われる四級冒険者に求めるのが間違っているといえば間違っている?むしろ相談先は冒険者ギルドではなくて森の中を歩く製材ギルドか草木を扱う庭師ギルドではないかとも思うのだけれど、そちらは小口は商わないんだそうで、いやはやなんとも。
その他、新しい薬草を研究したい薬師さんの珍しい薬草の採取依頼は書庫の植物図鑑を参考にやっぱり男爵様の森で採取しまくる。目的の植物の見分けに複写再現【鑑定】が暗躍しているのは内緒だ。
そんなこんなで四級向け依頼に一通り目を通しいくつか抽出した依頼で最高評価”優”を叩きだしている耀導徒第二。
まぁ、当たり前といえば当たり前で、他の真似のできない知識技術の取得先はあるわ冒険者達の入ってこれない男爵家の森で素材探すんだから…まさしくお嬢様の草刈り場なのだ!
お嬢様曰く「お兄様が冒険者になったとき麗芙鄭とか場瑠部と相談してた内容を覚えていて自分なりに工夫しただけ」とのことだけど、十歳で聞いたことをそこまで覚えてるというだけでも凄いし。僕なんかその時分一人で初学校の図書館で本読んでただけだし…はぁ。
兎に角収穫期休みの終わりごろには何となく三級が見えてきたんじゃないか?という所まで来ているのですよ。
背負子担いでお屋敷までもう少しという所で、お嬢様に莉夢、撫散と智生という珍しい組み合わせの一団と出会った。
「諏訪久、早めに合流出来てよかったわ、緊急依頼よ、至急冒険者組合へ集合」
うきうきと弾んだお嬢様の声、ご機嫌でなにより。
撫散に背負子を手渡し智生から剣帯を受け取る。
お嬢様が家令様に掛け合ってお屋敷の武器庫から選び出し冒険者活動用にと渡された本物の剣だ。
黒の片刃で練習用の短剣にバランスは近い。微妙に沿った刃の曲線が気に入っている剣というより刀と言った方がしっくりくる。
家令様にお見せしたところ目を細め「流石に比樽の息子だね、選眼も良い」とおっしゃられた。複写再現【鑑定】とイナヅマ先生の助言のおかげです。
貸し出し用の雑武器の一群に混じっていたこの剣、実は隠し魔導具になっていて魔力を通すと【鋭利】の魔法効果がかかる。低級ではあるけれど”魔剣”なのだそうで…なんで判ったのか説明できないので黙っていますが。九郎守様の加護?嘘というのは偶につくから効果的なんですよね。
路上でなんとか帯剣し余分な荷物を撫散と智生に預けると、ご隠居さん宅の帰り道に依頼完了票を提出してきたばかりの冒険者組合へと再度向かうことと相成りました、やれやれ。
行ってきまーす。




