34話 来たかチョーさん待ってたホイ
※サブタイトルと本編にはあまり関連性はありません。
あーあ、一気にお嬢様のご機嫌目盛りが振り切れた感。
もちろん悪い方へ。これさえなければ、これさえなければ…いや、言うまい。
"ぎろり"と声をかけた女性冒険者をねめつける。
「…あまり時間はないけれど、何用かしら?」
冒険者組合という冒険者の領域へ踏み込んでいるのはこちらの方なのだ、よほどの不敬でもなければ寛容の精神で相対することが求められる場面。
「恐れ入ります、私、”翠の牧場”という冒険者集団の代表を務めます二級冒険者不羅毘と申します」
薄茶の髪を短く束ねた顔立ちも体形もスラッとした印象。薄皮の軽鎧に細剣を携えながら。
化粧っ気は少ないがお肌のお手入れは行き届いている感じ?どちらかと言えばお嬢様より莉夢に雰囲気は近い。
顔ですか?まぁ…美人と言えなくも…無くも無いかもしれないけれど、お付き合いしてくださいと言われたら断らな…いやいや、そうじゃぁない。お嬢様と莉夢のが千倍も万倍も美しいッ 嗚呼アぁ~。
コホン、二級ということは若様や倉利州先輩と同じ”白”相当の実力者ということになる。
冒険者証の材質は位階によって違う、ボク達四級は鉄製の黒い証のため俗称で”黒”とか”鉄鎮”とか呼ばれる。採取依頼などの安全なものしか粉せないため昇級の条件を満たせずに三級の赤銅証の”赤”に上がれない冒険者を”錆”などと蔑称したりもすると聞いたことがある。
同じく二級の白銅証を持てないベテランの”赤”を”緑青”と揶揄したり。あまり愉快ではない呼称が並ぶわけでありますが。
二級”白”ならば一端の冒険者と語っても恥ずかしくない位階であり、履歴書、釣書に書いていいのは二級冒険者からという暗黙の了解もあったりするのです。
気づいた人もいると思うけれどこの冒険者証の材質、実際使われている貨幣の材質と同調しています。
子供のお駄賃ぐらいしか出番のない賤貨(鉄貨)、赤銅貨、白銅貨、銀貨、金貨が普通に出回る貨幣で高額の取引は基本”手形”で行われるため記念硬貨等の他は流通していません。
まぁ冒険者の位階を一般の人にも判りやすくしているのだと思います。
さてそんな二級冒険者不羅毘さんのお話に戻ります。
「不躾ながらお願い申し上げます。ここは我ら冒険依頼を生業とする者共の生活の糧を得る言わば生域でございます由、貴き方々に置かれましては珍しき所業かとも存じますが民草の糧場としてお許しくださいますよう何卒宜しくお願い致します」
と口上を述べ、貴族に対する所作に則った礼をして見せた。
(要約 悪いけどここウチらの所場だから、お貴族様の気まぐれで面白半分に首突っ込んで荒らさないで貰えるかなぁ?あハン?)
知らねーぞ。莫迦なの?タヒぬの?目に見えない程の速さで瞬間お嬢様のこめかみに浮き上がり消えた♯の形、ボクじゃなきゃ見逃しちゃうネ。”ビキッ”て音、空耳したヨ。
さりげなく、でもこれ見よがしに長杖を握り直す無表情の莉夢。どうどう、ダメだって。
こんなくだらないことでお嬢様の経歴に傷をつけるわけにはいかないのだよ。君を尻尾斬りするのも駄目だ、こんな相手との実力差も計れない様なねんねぇ冒険者如きの命と引き換えに君を失うのはお嬢様にとって多大な損失だ。
自信はないけどお嬢様の”殺”命令に呼応する莉夢と莫迦女冒険者の間に割って入れるよう身構える。
”窓”に【障壁】を準備、…ここは【念動】か?いややはり自分に【障壁】を掛けて飛び込んだ方が自由度が高い。
「おやぁ?木ノ楊出流嬢、冒険者登録を済ませたのですね?兄上の背中を追い駆けますか?感心したものです」ハッハッハと軽く笑いながら。
組合の奥から現れた倉利州騎士爵令息様が場の空気を知ってか知らずか、緊張の間にスッと入りこんだ、位置取りから察するに多分確信犯だ、上手い。
「あら、倉利州様、こちらの女性冒険者の方から少し心得を伺っておりましたのよ、親切な同性の方がいらっしゃると初心者には心強いですわ、不羅毘さん、これからは冒険者仲間になりますから今後も気さくにご指導お願いします」
(諏訪久空耳→ おまんが何言おうが冒険者として勝手にやらしてもらいますわ、気に入らなんだらまた何時でも言ってこいや、奥歯ガタガタ言わしたるでボケカスが)
にっこりわらって不羅毘の手を取るお嬢様。そこは流石に貴族様切り替えが早い。
「あ、あ、あ、ははひ、よろしくおなぎしゃす」いきなりの倉利州騎士爵令息の介入に泡を食ったのか噛みながら返答する不羅毘。
「よかったなぁ不羅毘、いきなり木ノ楊出流嬢の知己を得るとは流石に二級は伊達じゃないな」ハッハッハと笑いながら不羅毘の首根っこを掴み軽く摘み上げる倉利州先輩。仔猫扱いですか、さもありなん。
「不羅毘とは少しO・HA・NA・SHIがありますので失礼します。ああ、そうそう、私も冒険者仲間となりますので”初捉”と名前でお呼びください」にこやかに速やかに莫迦女を組合の奥へ連れ去る倉利州先輩。
「承知いたしました。初捉様、ワタクシも”美都莉愛”とお呼びください」略式礼で見送るお嬢様。
「ではまたお会いしましょう美都莉愛嬢」組合の奥から声だけが響いた。
続いてバタンと扉の閉まる音、幾久しく健やかに、莫迦女。
「あの女、いつかブッ〇す」
嗚呼アぁ~ 何も聞こえない~。
でもこれで分かったことがある。同じ二級でもピンキリだということだ、これならば終年生までに二級のキリぐらいまではなんとかなるかもしれない。
アヤが付いてしまったが気を取り直した素振りのお嬢様は再び組合の受付へ向かう。
さっきと同じ受付嬢だが表情が硬い、多分引退した冒険者なのではないだろうか莉夢の”殺気”に中てられたか。
「ワタクシ達三人で冒険者集団を立ち上げます、名称は”耀導徒”」
固まった笑顔の受付嬢は「他の冒険者集団との重複を調べます、少々お時間を下さい」やっと絞り出した。
待ち時間で四級が受けられる冒険者依頼を閲覧しつつお嬢様は色々手帳に記入されている。その灰色の単細…いや脳細胞でまた良からぬことを企んでいるに相違あるまい。
やがて件の受付嬢より呼び出しがかかり告げられた言葉は。
「”耀導徒”の冒険者集団名称は一級冒険者亜瑠美奈・105様の名義で永久保存凍結されております、亜瑠美奈・105様ご本人の承諾がない限り同一名称の使用は認められません」
「えー!それワタクシのお母様だからぁー!娘が引き継いだッていいじゃない~」駄々を捏ねるお嬢様。
「亜瑠美奈・105様のご承諾を…」困り顔の受付嬢さん、ご苦労さまです。
「アタシ実の娘なんだから~そこ何とかならないのかな~」お嬢様、領民の手本たるべき貴女がそゆことしちゃアカンでしょう…。
「ですから!…」
「だからぁ~…」
ボク達の冒険者集団、前途は多難の様です。
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