32話 迷子の迷子の
ど ど どこだかわからない
見知らぬ角に飛び込んだ。
お嬢と莉夢が迷子の子。
ふたりはーどーこーへ行くのかー。
進んだトコロ帰る?
うー、指名手配
したい。
だいたい昼間とはいえこんな繁華街を中学初年生がウロウロしていて良いのでしょうか?
いや、表の大通りを通り抜けたことはありますよ、魔力充填屋とかありますし、でもその奥の通りに入るのは…その、イロイロ問題がありまして。
「キャーかわいい!!ボクちゃん!どこから来たの?お使い?」
濃密な甘い香りを漂わせる目のやり場に困る衣装を纏った化粧濃い目のおねぇさま方に囲まれてしまっておりまする。
「いや。あの、その…」恥ずっ!顔熱っつ!
「ちょっとちょっとキミ達、揉め事かな?昼間から困るよ」
この声は!おねぇさま方の後ろから後光が差して見えるお方が
「きゃあぁぁ〜、倉利州様ぁ〜」黄色い歓声が上がる。
「倉利州先輩!」地獄で仏とはこのことです!
中央学校終年生の初捉・倉利州騎士爵令息は御代町に隣接する雨田村に在住されている。
在住と言っても、領民の方でなく御父上が国軍駐屯部隊、すなわち直接の所属はシマノクニの国王様の軍でここ木ノ楊出流領へ派遣、兵営されて居る部隊の所属ということ。いわゆる帯同家族ということで木ノ楊出流へ住まわれていらっしゃる方だ。
「ああ、諏訪久君じゃないか、今日はどうしたのかな?」
「はい、お嬢様と冒険者組合へ向かっていたのですがこちらの通りに入った辺りで見失ってしまいまして…」
恥ずかしや…くぅー、なんたる失態、従者失格であります、痛恨の一撃。
「木ノ楊出流嬢が?大通りからこちらに入るとむしろ遠回りだけどなぁ?僕もこれから向かう所だから案内してあげるよ、ついておいで」
「ありがとうございます、よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げた。
「君たちも、鄭湛様が不在だからと言って羽目を外しすぎないようにね?頼むよ」
ほぼ半裸のおねぇ様方へ告げ、ほほ笑む倉利州先輩。
「はぁ~ぃ」目をはぁと形にしたお姉さま方は素直に返事をした。
「ハァハァ、リバ クラリスサマ×スポゥクソーウケ…ハァハァ」と息を荒らげて意味不明な呪文を唱えていた人、抑えた鼻から血が垂れてたけど大丈夫かなぁ…。
大通りへ戻り、暫く先輩と肩を並べて歩く。
「先輩、この辺り顔なんですねぇ」本来貴族家のご令息に対して勝手に口を利くのは失礼にあたるのだけれど倉利州先輩は中央学校生には配慮無用と通達されているのでここは甘えてしまおう。
「ああ、鄭湛様達とよくこの辺りの見回りをしていたから多少はね、まぁ所詮領軍警備方の真似事だから効果はそこそこだと思うけど大分顔は覚えて貰えたようだね」爽やかに笑う倉利州先輩。何気に若様を名前で呼んでしまう辺り親密さが伺えるというもの。
そんな雑談を交わすうちに意外と簡単に冒険者組合へは到着した。なんだ、充填屋の一本先の通りじゃないか…。
木戸を押して予想以上に小ぎれいな建物の中に入ると、待合代わりなのか壁際に作りつけられた木の長腰掛。その一角に陣取るお嬢様と脇に立つ莉夢。
「あら、早かったじゃない諏訪久」ニマニマと悪魔の笑み。次に入って来た倉利州先輩を見た瞬間スッと立ち上がり天使の笑顔に切り替わる。…怖いよ、母ちゃん。
「倉利州様、ワタクシの従者がお世話になったようですね。感謝申し上げます」非公式の場で交わす略式の淑女の礼で謝意を示す。
倉利州先輩は同じく略式の返礼をしながらも
「いやいや、ここに来るついでだったのでね、礼には及びませんよ。でも木ノ楊出流嬢、ご自身の従者を撒くのは淑女の行いとして関心しませんね」
と苦言を呈した。
へ?ボク撒かれたの?
「申し訳ございません。しかるに、大通りにて芸子舞子に見惚れ現を抜かし主を見失う従者へ些かばかりの戒め故、心情如何許りかと汲み取りたまへや」
少し古い貴族の言葉を交えながら茶目に語るお嬢様。
「あー…それは、諏訪久君にも反省すべきところはあるね」
倉利州先輩は苦笑を浮かべた。その後二言三言貴族のやり取りを交わし終えると先輩は組合受付の方へ颯爽と去って行った。
か、かっこいい…。
先輩の背中を見ていると。
「いっででででツっ!」
いきなり耳をつかまれ引っ張られた。
「ちょっと!諏訪久!なんで倉利州様に案内なんかさせてるのよ!」
痛い!痛い!お嬢様!
「ぐ、偶然お会いしたんですよ!冒険者組合まで行かれるとの事だったので同道をお願いしたんです!」
お嬢様はジトっとした目でねめつけてくる。
「それより、非道いじゃないですか!ボクを撒くなんて…」と、主であろうが言うべきことは言わせてもらおう。
「何よ!だいたい諏訪久がすれ違う舞子の方ばっかりチラチラ、チラチラとぉ!」
「そ…そりゃァボクだって少しはよそ見くらい…」
小首をかしげながらボソリと莉夢が言った。
「ち、痴話喧嘩…?」
瞬間、お嬢様の顔が真っ赤になり。
「どっ、どど どどうど どどうど ど、どうしてそうなるのよっ!」
顔を赤らめたまま何やらぶつくさ小声で呟いているお嬢様、なんだろう?今の反応。
「と、兎に角、今日は長年の予定だった冒険者登録をするわ」何度か空咳を繰り返し声の調子を取り戻したお嬢様はそう宣言した。
「はいぃ?」当然、変な声出るよね?
「初耳ですが…?」この主、偶に…いや殆どの場合説明より行動が先行するきらいがある。
「そうね、初めて話すもの」シレっと語るお嬢様。
…何と言ったら…。
「私の長年温めた極秘計画どおり、中学に入ったら最初の農繁期間で授業が休みのうちに冒険者登録を済ませて”赤”を目指します。終年生までに”白”できたら”銀”に到達するのが最終的な目標よ」
な、なんだってー!




