28話 修行の一 九厘戦
お屋敷の子供の中ではやっぱり九厘が一番強い。
莉夢?彼女は別格だし。小さな頃から実戦にまみれ、野犬や野生の獣、魔物に襲われる中そのすべてを切り抜け、撃退し、時には逆に喰…<自主規制>そんな彼女と普通の庶民の子供を比べてはいけない。
虎の児とイエネコの子で勝負になると思いますか?ボクは思いません。
そんな訳で当面のボクの目標はイエネコ…中央学校初学年で教室を牛耳っている(自称(笑))九厘だ。
向こうにしてみれば、体は小さいし力は弱い、多少頭は回るけどどちらかと言えばドンくさいボクが、お嬢様の従者となり、魔物討伐経験者であり、尊敬する正武先生に特別扱いを受けている。
いくらボクが《星》持ちであっても見た目でボクが勝っているところは一つもないのだから、そりゃ納得いかないでしょう。それもそのはずボクの強さは”イナヅマ込み”の強さなんだから。
でも、九厘ぐらい圧倒できる様にならなくては、次にもしあの【黒大躯】と同等の相手に出会ったとき生き残る未来が視えない。
謎の超絶魔法?施療院退院後、自分の窓…(命令起動枠とイナヅマは名付けたみたいだけど長いので何と呼ぶか思案中)の頁を捲って見たのだけれど紋様が光らず濃い灰色のままになっていて全く起動できない。
イナヅマ曰く『発動に必要な条件があるのかもしれない』とのこと、一か八かの時に使えるか使えないか判らないものに命をかける気はないのでやっぱり自分を鍛える以外に選択肢はない。
んで、一所懸命剣を練習している所なんだけど、まだ領軍の方々に混ざっての練習は早いとのことで、中学生達は別枠で稽古。
まず、お約束通りの攻めと受けを覚える形稽古から入り、今は応用編として短い時間自由に試合う自由試合も行っている。
その自由試合で何度やっても九厘に勝てない。
一度正武先生に訊いてみたけれどニコニコ笑いながら。
「そうさなぁ、自分がどうやったら勝てるか考えてみたらいいかもしれないなぁ」と返ってきた。
だから、それが分からないから聴いているんですケド…。
空いている時間、お屋敷の中庭で木剣を振り、形を何度も繰り返す、きちんと説明を受け論理的に考えれば、お約束の攻受の中に剣での攻防の意味がギッシリ詰まっている事が理解できる。
日々の持久走や素振りや鍛錬はその基本の技を現実に再現するために必要な最低限の筋力、柔軟性、俊敏性を得得する為にあるのだという事が分かる、分かると出来るは全く別物なので現実は全く追いつかないのだけれどこういうのを頭でっかちって言うんだろうなぁ。
色々考えながら、ひとりでゆっくりと繰り返す、攻守各々七つの形。
頭の中の九厘と戦う、剣を振る。
駄目だ、九厘の方が速く、重い。
剣で受ける、九厘のほうが堅牢で精密だ。
体力の続く限り剣を振り、限界が来ればその場で大の字に倒れ深く呼吸する。汗が流れ滴る。
「九厘に勝ちたいなぁ…」思わず口に出る。
「諏訪久、何故私を頼らない」
懐かしい声がする。
「イナヅマが…剣を?」黄金虫の身体で?
「何を言っているのかね?諏訪久、私の本体は建国の英雄毎夜・情事の魔導騎だぞ」
「!主上様の剣を教えてくれるの?」
「うむ、可能ではあるがそれはやめておいたほうがいいな」
「えー何故?」
「毎夜は二メ…六尺(約二メートル)近い偉丈夫、我を騎装し大上段から振り下ろした剣は山を裂き大地を抉ったが。四尺(約百三十センチ)程度の君では真似をしてもたかが知れてる」
「…じゃダメじゃん」がっかりして力が抜けた。
「だが、五尺二寸そこそこ(約百七十センチ)の身の丈でその毎夜と五分に戦った男がいる、その話を聞きたくはないか?」
「え?そんな人いるの?」
「居る、木ノ楊出流初代 九郎守だ」
◇
翌日、自由形式の試合の時間になったときボクは九厘の前に立った。
「?その剣でいいのかヨ」九厘の問いに頷いた。
自由試合の場合剣は自由に選んでいい。ボクは形で使う両手剣でなく、【小鬼】戦で使った剣鉈に重心の近い、短目の木剣を選んだ。
昨日、イナヅマに聞いた、九郎守様の得意な得物は幅広の短剣、それで両手剣の主上様を翻弄し勝てないまでも五分に渡り合ったということだ。武器だけ真似して勝てるとは思わないが試してみなければ何も変わらない。
二列になった練習生が向かい合い、構える。
審判役の領兵さんの掛け声を機に試合が始った。
「ふんっ!」
九厘の斜め上からの打ち込み。
やっぱり他の連中より剣の振りが速い、皆この速い剣先にやられるんだ。
受けの形の一つで受ける。
ガッ!
剣と剣とがかみ合い音を立て、木の焦げるニオイが漂う。
!
何時もと違う感覚に少し戸惑う。
―――――なんだ?
何合か打ち合い、やがて手が痺れてくる。力が強い、まともに打ち合っても力負けしてしまう。こちらの剣の方が軽いからなおさらだ。
速い。強い。上手い。
これじゃぁ勝てるわけがない。
―――――そう思っていた時期が私にもありました。
「やめぃ!」審判役の領兵さんの終了の声。
かろうじてだけど時間一杯まで打ち合えたのは初めてだった。内容は完敗だったけれどいつもと何かが違ったのはたしかだ。
向かい合った練習生、一番端の者一人がそれぞれが向かいの組に入り相互に一人ずつ横にずれる。
顔ぶれの変わった新たな対向二列が完成する。こうして回転し相手を替えながら対戦を重ねていく。今度は智生との対戦となった。
!
昨日までほぼ互角のはずだった智生の剣が、遅い!?、九厘の剣の速さに目が慣れた?違う、何が違う?
自分の剣の振りが早くなった。
当たり前だ、この剣は智生の剣より短くて軽いんだ。その分深く踏み込まなきゃ届かないけど剣を振る速度だけなら確実に速い、速ければ一番自分の力の乗る間合いで相手の剣を受ける余裕ができる。
さっきの九厘戦の時感じた違和感はこれだ、剣の速度だけは九厘に追い付いていたんだ!
その日、九厘にこそ勝てなかったが他の皆に対しては優勢に戦えたと感じた、イナヅマ!いい仕事!
何日か続けていると俄かに強くなったボクの秘密に気が付いたのか何人かが得物を短剣に変えた。されど一日の長は我に有れり。負けるもんか。
短剣使用者が増えたことに気が付いた正武先生がニヤニヤ笑いながら
「おお、自分に合った武具を使うことを覚えたか、ならば短剣用の形を教えてやろう」
皆が眼を見張った、正武先生が口に出して褒める事はめったにない。
正武先生の指示で、基本の剣の形攻守七組の他に新たに攻守三組の短剣の形を教わった。
直接教えてくれたのは若い領兵さんだったけれど。短剣同士で対峙する形。短剣で長剣に対抗する形。
この反響はすごかった。短剣組は速度こそ互角に近くなったもののどうしても力で撃ち負けることが多かったし、剣の長さは射程の長さだ、その内側に入らなければ相手に剣は届かない、けれど受けを工夫することや懐への飛び込み方を工夫することで勝てないまでも負けない闘い方を知る事が出来たのが大きかった。
剣士志望の女の子は短剣から更に細剣に切り替える子もいた。細剣の形、主に突き技をも教わった。ただし突き技は怪我の恐れが大きいので練習試合では使用禁止とされてしまいその子は悔しそうだった。
色々と得物が増える事によって元々体格に恵まれていた長剣組の絶対的優位は崩れ去りまさに混戦状態となった、短剣組の一位はかろうじてボクだとは思うものの九厘に勝つ、という所まではいかないのがもどかしい。
回答は身近なところからやって来た。




