26話 日々是精進(前編)
修行編の前に諏訪久くん達が日常どんな生活を送っているのかご紹介いたします。
長くなったので2回に分けてお送りさせていただきます。
※これまで1話5千~6千字でしたが3千~4千字が適切との情報を得ましたので構成上分けたくない場合を除いて長くなったお話は短く区切ってお届けさせていただきます。
振鈴の音で目を覚ます。まだ薄暗い中遠くの鶏の鳴き声を聴きながら。
朝も早よから部屋の乱れをせっせせっせと整える、男爵家の朝。
自分の部屋と寝台の掃除整頓が済んだら、手水場で顔手を洗い歯を磨き、お屋敷の中庭へ向かう。
大人も子供も爽やかな朝の空気を吸いながら、皆同じ様に体を動かしている。
「おはよう、莉夢、今日も元気だね」
「おはよう、諏訪久、君も元気か?」「もちろん」
定番となりつつある挨拶を交わし、先に体操を進めている同僚の横に並ぶと中途参加で同じ動きを始める。
家人各々が毎朝思い思いに体操をしていたこの場に、莉夢がお父さん直伝のこの健身体操を持ち込むと、見よう見まねで真似をしてみた人たちが”短時間で十分運動になる””終わった後気分が清々しい””身体の活力も上がる”と皆が追従するようになり、今では莉夢を中心に参加できる家人全員が一番から八番までの”弐式”と呼ばれる細く長く呼吸しながら流れる様に体を動かす体操に嵌っているのだという。
後ろの方では奥様と家令様の奥さん愛紫珠さんが並んで体操している。娘さんの日麗羅ちゃんは今日は起きられなかったらしい。
六番弐式の辺りでひっつめ髪のお嬢様が半分寝惚けながらやってきて「おひゃよう皆…」と言いながら参加する。
おいっす、おいら諏訪久。何やってるのかだって?御覧の通りご領主様のお屋敷へ住み込みで吏員見習いの修行デスヨ……ハイ、スイマセンデシタ。
吏員というよりも従者としての本格的な修行といったところだけれど将来の安定した生活のために今をがんばるノデス。
尋問というか聴聞の後、住み込みで勤務しナイカ?とのお誘いという名のご下命が下ったのでした、ボクも【小鬼】戦の時みたいに足手まといにはなりたくないと思っていたので戦闘訓練もあると聞き、渡りに船とばかりに二つ返事で了承したのです。
学校あるのに訓練する暇あるのかと思っていた時期がボクにもありましたが、なんのことはない、朝早く起きて、朝御飯前に領軍の皆様の訓練に合流して行っていた訳です。九厘達よく朝迎えにこれてたなあ…。
準備運動終了後、お嬢様を先頭に小学校後半生から中学生迄の男子、及び一部の女子が連なって領軍の演習場まで走る律動に合わせて木ノ楊出流流勝鬨を上げながら持久走。
(お嬢様) 凱!(他の皆呼応) 凱!
(お嬢様) 凱!(他の皆呼応) 凱!
(全員で) 凱!凱!凱!
以下繰り返し。
これは魔物討伐終了後とかに勝利の証として参加者皆で上げる掛け声で領毎に違う勝鬨を持っている。
ちなみに凱とは”勝鬨”とか”勝利”を意味する言葉、要はそのまんまなんだけど結構かっこいいとボクは思っている。領軍訓練の開始に気合い入れの為にキメる勝鬨なんか聞くとシビレちゃいますヨ。
中央学校脇の演習場では直接任務の無い領軍の皆様が朝飯前の訓練に勤しんでおられます。
まずは領軍の皆様に訓練用の模擬木剣を借り、基本の型から教えていただきまして。
初っ端出翁礼卿に視ていただいたとき莉夢と同じく正武先生て呼んだら九厘達初め若い領兵の皆さんからも物凄い圧力の目線が飛んできて怖かった。
この呼び方で呼んでいいのは極僅かの人達だけらしく屋敷の子供達の中には莉夢とボクの他にはいないのです。お嬢様も含め許可されていない皆さんの当たりが結構強くて…メッチャ修行になってマス。アザっス!
正武先生には【大躯】討伐の事は皆にも内緒にしておくように言われていて。
ボク自身には倒した記憶はないのでモチロン構わないのだけれど、子供が一人で【大躯】を倒したなどという話が広がると色々問題が起きるそうで…まぁ
「【大躯】討伐を倒して、俺が【大躯】より強いことを示してやる!」
とか言い出す痴れ者が居ないとも限らないのでそのようにさせて貰っています。
【小鬼】を三人で協力して倒したぐらいなら在ってもオカシクない話だからそれくらいにしておけと言う事で。
それでも皆からは十分魔物討伐経験者扱いされてこそばゆい、九厘の視線はザクザク刺さるけど。
ボクの入っている剣技組、お嬢様の弓技組の練習が一通り終わったらお腹ペコペコ。
領軍の皆様とご一緒にうれしいうれしい朝御飯の時間となります。
燃料節約のため共同調理場で地域の皆様の朝食と一緒に調理される領軍の朝御飯は皮サクサク中しっとりモチモチの揚げパンと肉粥。
粥の肉は保存用の腸詰めや塩漬け肉を作ったときに切り落とされた各種クズ肉や臓物をかき集めたみたいなシロモノなんだけどこれがまた美味い!
小さな鳥なんかは骨取ったら食べる所無くなっちゃうから毛羽を焼き、頭、内蔵、脚を取り骨ごとたたいてコリコリ軟骨入り挽肉団子みたいにされて入っている、たまに小骨に当たるけれど歯でガジガジ噛み砕き肉と一緒に飲み込んじゃう。
足りなければお代りを貰うことも出来るけど食べすぎると動けなくなるので要注意。
食べたら屋敷に帰って水浴びして汗を流したら登校準備。
お嬢様含め女性達はおめかしして見違える様な姿になって屋敷から出てくるんだけど何かの魔法を使ってるんだろうか。リムは執事服だし短髪だから判るんだけれど。
朝の茶番劇から門守の場瑠部さんが足を蹴られるとこまでが登校時の一通りの流れ。
九厘たちいつも授業中居眠りをしていて何であんなに眠いのかと思っていたけど、すいません、運動と満腹でメチャクチャ眠いです。
授業中ウトウトしてると後ろ頭にお嬢様のデコピンか炸裂する、それ普通オデコにするやつと違うんですか。
チラと莉夢を見やるとまっすぐ黒板を見つめたまま微動だにしない。流石筆頭従者殿。
お嬢様がそぉっと莉夢の目の前で手を振る、まっすぐ黒板を見つめたまま…。
あれ?
「…莉夢」小声でお嬢様が囁くと。
「如何しましたか?お嬢様」目を開けたま寝ていたとは思えない程の自然な反応に感心するばかり。ニヤニヤなお嬢様にキョトン顔の莉夢。
聞けば寝ている弟を背負いながらの夜間行軍も日常茶飯事で月明かりさえあれば街道を半分寝ながらでも歩けるし、なにかあればすぐ覚醒するそうで…人体の神秘。
学校を終えお屋敷に帰ると皆さんの雑用を手伝ったり、従者の勉強したり、屋敷内の子どもたちと剣の練習をしたりして夕ご飯まで過ごす。
撫散のお父さんな庭師の得楠さんの庭木鋏のカシメを調整してあげたり、智生のお父さんである料理人の典打さんの庖丁の柄を直したりして重宝がられている。
このときばかりは親父に殴られながらも覚えた甲斐があったと思いましたよ。
石ノ森章太郎先生ごめんなさい




