25話 加護ちゃんです
「恐れ多くも木ノ楊出流初代御当主”九郎守・木ノ楊出流様のご加護”を頂いたと考えております」
辺りは微妙な雰囲気に包まれた。
「…初代様の」
「加護…」
お嬢様はこめかみに人差し指を宛がい少し首を傾げながら目を閉じている。
眉間の縦皺がなかなかに素敵です。
家令様始め同席のお歴々も腕を組み天井を見上げるばかり。
莉夢は…全く動じていない、いや、ソッと唇に触れた指先で両の眉をなぞっている。
…たしかに胡散臭い。
余りにも荒唐無稽、でもそれだけに、ボクの周囲の超常現象諸々をイナヅマの存在を内緒にしたままで説明するにはこれしかないだろうという結論です。
しかもここは木ノ楊出流領、千年前のご領主が片時と言えど御降臨されたとのことなれば慶事。怪しさがいかにも大爆発していようが表立っての否定はしづらい、さらに千年前、イナヅマは実際にその人と会って話しているのだからここにいる子孫の方々誰よりも御本人を熟知している、ドヤッ!
「それは…俄かには信じがたい話ではあるのだが…ときに諏訪久…初代様は其方に名乗りを上げられたのか?」有手倉卿が真っ先に口を開いた。
ここからはイナヅマの示す台詞の通りに進める。
「いいえ、明確には…以前は稀に啓示を賜る程度でしたのでご尊名はお伺いしておりませんでした。【小鬼】戦の時にはそれまでになく明確なご神託を頂きました。おそらく、初代様御血筋であらせられるお嬢様の危機に際し我らに光明を思し召しくださったものと愚考いたします」
「それでは、本当に初代様かどうかわからんではないか」
少しがっかりした様子の有手倉卿に小声で(←イナヅマ、ト書き通り)
「その…私めがこのような話をしてよろしいか判らないのですが…」と添えた
「許す、申してみよ」
「建国の父、初代国王にして英雄騎一七二〇号騎士“毎夜・情事”様に流民か「あ゛あああああああーっ」らお取り立て…」
いきなり取り乱された有手倉卿の大声に会議は一時中断した。
「よいか!諏訪久、今後許可なくその話してはならんぞ?美都莉愛も莉夢もだ!」と釘を刺され家令様及び騎士爵位の方々を除いて一時退室を促された。
別室で三人、女中さんの入れてくれた緑茶を啜りながら待っている。
お嬢様は長椅子に体をうずめじっと天井を見つめながら。
莉夢はお嬢様の後横の定位置で直立不動。
ボクは窓際で風に当たり乍らボーッと外を眺めている。
『まぁ…木ノ楊出流家の秘密暴露だからねでもこれで信憑性が増した』
『いいの?』
『“九郎守”も二代目“州鄭流”も気にはしていなかったよ、それどころか“元流民が領主の町が出来たぞ”って噂を流して流民から農家や貴族家の三男以下のあぶれ者をかき集めた。昔はこの辺り何も無かったからね。
今では領民すらも忘れてしまっているだろうが。
屋敷の禁書庫に代々の領主の日記がある、それにはきちんと記されているよ。千年前から大きな火事で焼けたりしてないしね、歴代当主が賢明な者ばかりでよかったよ、自分たちの統治の正当性を示す文書でもあるのだから普通の頭があれば破棄しようなんて思わないはずなんだけどね。
今となっては領地の継承者とその周囲ぐらいしか知らない話だ、それを一庶民が知っていたんだから信じざるを得ないだろうよ』
『悪魔の所業とか言われて火あぶりにされないかな?』
『……おっと、誰か来たようだ…』
『おいぃ!』
扉が開き、家令様が僕等三人を呼び戻した。
再び訪れた会議室の上席で有手倉卿がこめかみを抑えながら呻いた。
「これは、木ノ楊出流家でも秘中の秘とされている事柄だ、皆墓場まで持っていくつもりで聞いてほしい。
我らが木ノ楊出流男爵家の初代“九郎守・木ノ楊出流”様は、初代国王“舞夜・常侍”様に見いだされ鎧番として魔王討伐の最後まで付き従い“鎧の守りご苦労”との由“くろうもり”の名と、男爵位、そして現在の木ノ楊出流領を賜った、ここまでは“領史”にも載っている事柄ではあるが、それ以前の身分はあえて示されてはいない。
しかし男爵家図書室の禁書庫に収められたる過去御当主様方の記した書物には記されているのだ、初代御当主九郎守様は舞夜・常侍様に拾われるまでは流民であったと…」
「だから…諏訪久に助言を下された方は本当に初代様か、そうでなければ、神仏悪霊の類ということになる」
キターーーッ、火あぶりか打ち首か!つるかめつるかめ。
「その…諏訪久の助言者とやらはどんな御姿をされているのか?」
家令様も半信半疑で聞いてきている。
「多くは御言葉のみが聞こえることが多いのですが”小さな黄金の甲虫”のお姿で見えられることが度々…また、私には黄金の輝きを放つ御人形、そう、まるでお屋敷に祀られた【惑星級戦略魔導現象一七ニ〇号】様の様にも見えることもございました」
…”小さな黄金の甲虫”の件で家令様の反応が思いのほか大きかったけど、練習の甲斐あってイナヅマ本体の呼称噛まずに言えたぞ!
「…その黄金の化身様のご神託はいつ頃から下されるようになったのか?」
どうも出翁礼卿だけは面白がって聞いている節がある…。
「はっ、明確には思い出せませんが、思い起こせば洗礼の儀の辺りからと存じます、若様御堪忍の折も暗に御介添えいただけたものかと、明確に御声がけいただいたのは…出翁礼卿御同道の由、一七ニ〇号様拝礼の折にございます」
はぁ、一気に言い切った。
「なるほど…それであの時腰を抜かしたか、話の筋道は合うな」
「御意にございます」
「そのような重大なことを何故これまで秘していた?」改まった口調で有手倉卿が問う。
一族の秘事を知る一般庶民ですものねぇ…口封じも含めて色々とお考えなのだろうとは思います。
「…先ほども何方か”信じがたい”と申されましたが、私もまず信じてはいただけないだろうと思いましたのが一つ」
皆様方ついさっきまで胡散臭そうな顔してましたよね?事件前に初代様の名前でも出していたら”語り”として不敬罪で首落ちてたと思うのですよ、物理的に。
「二つ目はご神託を下された方がご自身の存在を示すことを忌避されたからです」
嘘はついてません。
「今お主、神託のことを語っているが、如何に?」にやりと笑いながら問う有手倉卿。
「この場でお話せねば皆様にご納得は得られぬものと、神罰は私一人身のこと故」
(訳:秘事なのになぜ話したかって?話さなきゃあなた達納得しないのでしょう?怒られるのは私一人なんだからいいじゃん!(キレ気味))
「むぅ…」有手倉卿は押し黙った。ヤリスギたかしらん?
「そうか、済まなんだな諏訪久次に神託の主に合うたなら、この報いは袰瓦・有手倉が受けると伝えて欲しい」神妙な顔で語る有手倉卿。
「さて、皆他に聞いておくべきこと、話しておくべきことがあるかな?」特に声は上がらなかった。
続けて家令様が締める。
「それでは、今回の重役会議は仕舞いとしましょう。美都莉愛と従者二名は下がっていいよ」
お嬢様を先頭に三名が退室し、扉が閉まると、扉の向こうが”どっ”と盛り上がった音がした。
……何かミスった?
「おうっ!」思わず変な声出たのはお嬢様が後ろから飛びついてきたからだ。
部屋の向こうに聞こえない程度の声が耳元で囁く。さわさわ。
「諏訪久!凄いじゃない!あの大叔父様に真っ向から物申せる人なんてそうそう居ないわよ!しかも最後!麗芙鄭が”重役会議”で締めたのよ、だから今回のは”審判”じゃなくて”聴聞”!話を聞いただけだから今後何か罰を与えられる訳じゃないのよ!流石アタシの従者」
いや、お嬢様、そんな興奮しないで、背中に色々当たるもの等ががありまして。緊張していらしたのですか?少し汗の香りが刺激的な…いや、ご褒美恐縮です。
「二人とも、食堂で祝杯よ!」
お嬢様、メッチャはしゃいでる。
ボクと莉夢、従者二人は先を行く主を追い駆けた。
◇
三名が退室し、扉が閉まると、まず袰瓦が絶え切れず噴き出してしまった。
つられて正武、麗芙鄭も相好を崩した。
「いやはや、なかなかに性根の座った子供よの、正武の気に入る訳よ、頼もしや頼もしや。
命賭けて美都莉愛を守ったのだ、その心根は疑いの余地はないが子供が【大躯】を屠ったなどという与太話、胡散臭さは否めんからなぁ。
我らが審判し潔白の証を立てた故忠節疑うべからずと喧伝してやるつもりだったが、こうも上手く躱しおるとはなぁ、いやはや寧ろ愉快痛快!」袰瓦はがははと笑い声をあげた。
「如何にも、我ら三名を前にしてよく…あそこまで語る肝や如何に。
まさかに”初代様のご加護”とは恐れ入り申した、しかも子供の浅知恵でなく細部まで練り込まれている…一七ニ〇様拝礼の折の奇行まで仕込まれていたものだともすれば相当の知恵者が糸を引いていることになるが、なんともはや…如何なされた?」
神妙な顔つきをしている麗芙鄭に正武が問うた。
「出翁礼卿、この屋敷に伝わる不思議があるのですよ。
過去数百年に渡り三度、当主またはその奥方が夜間の火災を未然に防いだことがあるのです、その三度とも当事者は”黄金色の甲虫”又は”黄金虫”に起こされた、導かれたと証言しておりまして、黄金虫は屋敷の守り神故見かけても退治無用、気ままにせよ…と、内密という訳でもありませんが奥向きの話故、屋敷の者以外は知らぬものかと…」
何か困ったように語る麗芙鄭。
「なるほど、諏訪久を疑うならば屋敷の者すべても怪しく見えてしまうと、男爵家の秘事まで知っていることと言い…不思議に不思議が重なるとなればあながち嘘とも決めつけられませんな…数百年に渡って仕込まれた話というのも逆に無理がある。
報告済みかとは思いますが諏訪久に貼り付けた部下達からも日々”独り言が多い””あらぬ方を向いて一人笑い語る”等、ただ聞けば些か物狂いかとも思える行動があると。
我らには視えぬ御方とのやりとりがあるならばその仕草も説明がつく、影守に気付いていての芝居だとすれば余程の手練れか他領の間諜かを疑う所ですが、次の演習時にでも計りはしてみますが正直…」
「あの歳でワシに物怖じせず言うべきことを言う胆力は頼もしいが、そこまでの手練れという感じも受けないものなぁ…あれで秘めたる実力でもあった日にゃワシ自信無くすなぁ」と【王牙】顔の好々爺が可愛げな声を上げた。
「如何にせん、本日の聴聞にて聴き得た内容は県を通じ国の魔導院へ報告せねばせねばなりませぬ」
これまでも諏訪久の技能とその取扱いについては逐次王都の魔導院へ報告し伺いを立ててきた、強力な魔法を所持する《金星》の所在を秘匿するなど王国に翻意ありとみなされても仕方のない事だからだ。
今回は状況証拠から【大躯】単独討伐を為したと推測される事象に対する報告を行うこととなる。状況によってはそれだけの破壊力を持った《金星》のお召し上げ…可能性は高かった。
「まぁ《金星》たるや《禍星》なるや判りませぬが、諏訪久につきましては暫く某がお預かりし鍛えてみる事と致しましょう」
正武・出翁礼騎士爵の言葉に、有手倉親子は頷いた。
何とか切り抜けました(笑)
次回から修行パートに入ります。
よろしくお願いします。




