24話 領内審判?
ご領主様のお屋敷の奥まった一室でお嬢様を始めボク達三人は審判員の方々をお待ちしていた。
十人は座れるんじゃないかというでっかい卓がど真ん中に置かれた会議室。
その末席のこれまたでっかい肘掛椅子に全身脱力で埋まっているお嬢様。
その横に立つボクと斜め後ろに陣取る莉夢。
「諏訪久、アンタ大丈夫なんでしょうね、アタシら二人はあくまで証人だから手助けはできないのよ」
なんだかんだ言っても色々心配してくれているお嬢様。
「首を洗ってきたので大丈夫です」
「それ、ダメな方だから!」
キレもいい、絶好調ですね。
『来るぞ、気を引き締めて』
『了解』イナヅマの言葉の窓に返信。
なんと、会話の窓に返信出来るようになりました。アノ夢の中での対話感覚を思い出し自分の胸の辺りを意識しながらやるのがコツです。やったね!
はたして、ギイィと重厚な音を立てて扉が開き、家令様に続いて御歴々が…お一人だけ入って来た。
「あっ!おじさん!この前はありがとうございました!」ペコリと頭を下げた。
腰抜かしたボクを助けてくれたおじさんじゃないか!
「よう、坊主、息災か?」
片手を軽く挙げ、ニコニコ笑いながら上座の一席に座るおじさん。
え?どゆこと?
おじさんと僕達の中間に立った家令様は
「あぁ、まだ紹介はしていなかったな、我が男爵領の重役、正武・出翁礼騎士爵だ、見知り置くように」サラリとおっしゃった。
ええええ!
騎士爵正武・出翁礼卿って!木ノ楊出流領内白部支領の領主様で木ノ楊出流領軍警備隊長で木ノ楊出流騎士団、通称”木楊団”副団長兼務の無茶苦茶重鎮なのでは。
普通におじさんとか呼んでたボクって…。
固まってるボクを見たのかおじさ…出翁礼卿はおっしゃった。
「どうした、そんなにかしこまらなくていいぞ、もともとお主とは”臭い仲”ではないか」
うわははと笑う出翁礼卿、忘れかけていたお漏らしの記憶が蘇ってきた。
「ひ、非道いですぅ出翁礼卿」
「すまんすまん、いやしかし、感心したぞ諏訪久、婦女子を逃がす為【大躯】相手に殿を買って出るなんぞ並みの中学生の肝ではないぞ!」
スミマセン、人目を無くしてイナヅマの魔法で何とかしてもらおうと思っていました。
「詫びと言う訳では無いが、今後は「正武先生」と呼ぶが良い。領軍の演習に参加したときには直接稽古を付けてやろう」
はたまた高笑いの出翁礼卿。これはヤバいフラグ立ってる予感。
「ちょっとお!出翁礼卿!莉夢は仕方ないとして何で私より先に”先生”呼びの許可がでる訳?」
お嬢様、卓上に上半身を投げ出し顔だけ上げて出翁礼卿を見上げている。
「そうさなぁ、ビッティ、それがわからんからまだ早いということだ」
にやにや笑いの出翁礼卿にブーブーとブーたれるお嬢様。
これ、なんかそれっぽい事言ってはぐらかすアレですよね、ヤバい、冷や汗が止まらない。
「出翁礼卿、お気に入られるのは構いませんが聴聞に手心はご遠慮願いますよ」
釘を刺す家令様、手心お願いしたいです。
「そういうな家令殿。領内に将来有望な若人が育っているのだ、心もはやろうと言うものではないか」
悪びれず背もたれに体を預け足を組む出翁礼卿。
「ごほん、もう一方重役が見えられる、いましばらく待つように」空咳を交えて誤魔化す家令様。
正武・出翁礼騎士爵に並ぶ重役と言えばもうお一方しかいない。もちろんお館様は単身赴任中なので別のお方だ。
『そろそろお出ましだ、騙されるなよ。彼の御仁、鷹揚に見えるが目は確かだぞ』
イナヅマの台詞と共に重い扉が動き。
「おおぅ!遅くなった!亜瑠美奈と話が弾んでしまってな。諸君、許されよ!」
白き虎髭食い反らし、熊か【王牙】かと見紛う白髪の巨漢。
がははと高笑いでご入室遊ばされたこのお方こそ、木ノ楊出流領内長渡支領の領主様で木ノ楊出流騎士団、通称”木楊団”の団長。
袰瓦・有手倉騎士爵。
事実上木ノ楊出流領の第二席にして家令様麗芙鄭・有手倉様のお父上であらせられる超絶スーパーな御方なのである。
木ノ楊出流領内に置いて、この方の上位に御座すはお館様のみということになる。
すなわち、家令様も含め現時点での木ノ楊出流領最上位三方そろい踏みということなのだ。
そしてお二方共に騎士爵ということは魔道騎士でもあり木ノ楊出流最高戦力の内の二強、黄金虫イナヅマも合わせれば今この一室に領内の最大戦力の全てが集結したと言っても過言ではないだろう。
気付いているのはボクだけだけど。
重圧に更に冷や汗マシマシです。
「叔父様、ご機嫌麗しゅう」
いつの間にかお嬢様が立ち上がり淑女の礼を披露する。
出翁礼卿にもグダグダの態度であったお嬢様をして、そうまでさせる何かがあるのだろう、孫娘に相対する好々爺の様に笑顔が蕩けている、鬼の微笑みではあるが。
「相変わらず美都莉愛は可愛いのう」
「何をおっしゃいます日麗羅ちゃんだってメチャクチャかわゆいでわないですか」
「うーん、日麗羅ちゃんは孫枠じゃからのう。その次にかわゆいのはやっぱり美都莉愛じゃのう」
「まー、お上手ですこと叔父様」
世間話繰り広がって居るのですが、お嬢様、援護していただいて居るのですよね?
「あー、ゴホン」
空咳で世間話に水を差す家令様、少し顔が赤くなっているのは如何に?
「出席者全員揃ったので美都莉愛従者諏訪久の審問を…」
コンコン。
その時、会議室の扉を敲く音が響いた。
ギイと扉が開くと。女中さんと大人のお嬢様!でなくて奥さまがお見えになった。室内用なのか上品な洋装をお召しになられていらっしゃる。
「お、奥…!」家令様が何かを言う前に
「おお!亜瑠美奈、何ぞ所要か?遠慮するな、ズイッと奥へ参れ、ココは其方が治める屋敷ぞ」有手倉卿が許可してしまった。
奥さまは室内に入ると優雅に一礼し
「久方ぶりに皆様の屋敷でのお集まりとお聞きし、何も供せずともなれば夫への顔向けも成りませぬ。茶と菓子を用意致しました故、ゆるりとお楽しみながらご内談をおすすめくださいませ」
ご挨拶と同時に何人かの女中さんが室内に入りそれぞれ要人の前に紅茶の茶杯。茶鉢にお菓子とたちまちお茶会の様相を呈してきた。
ボク達三人の方へも小さい女中さん達が給仕をしてくれている。一人茶色い肌の娘がいたけれど残念ながら莉夢とは似ていなかった。
この娘を見間違えたのだろうか?
もやもやしていると給仕を終えた女中さん達が退室し最後に奥様が部屋を辞する場面となった。うっかり視線を向けてしまい奥様と目が合ってしまった瞬間軽くウインクを投げられた。
「人妻殺し…」
ぼそりとお嬢様が呟く。
ち、違いますって…目線だけで抗議の意を示す。
家令様はやれやれと疲れた様子で椅子に腰かけ。
「ここまでグダると審問という空気じゃないね、もうざっくばらんに行こうか…莉夢も諏訪久も腰掛けてお茶を頂きなさい」
言ってから紅茶の香りを確かめ、一口含んだ。
莉夢は最初着座を拒んだけれど、出翁礼卿に「主に恥をかかせない立ち居振る舞いも臣下の務め」と諭されると素直に従った。
上層部の方々の茶話会を兼ねた、蛙狩りから始まる【小鬼】戦経過報告会及びお嬢様による諏訪久の不可思議事案暴露大会が始まった。
お嬢様…貴女は本当にボクの味方なのですよね?
一通り話が落ち着いたころ。
「さて、どうするよ麗芙鄭、その小僧の件だが、お主は小僧の採用責任者、正武は弟子と認め、ワシは亜瑠美奈に配慮を乞われ懐柔されておる」
ご自身でおっしゃるのですね有手倉卿。
「…その物言いは何か腹案をお待ちですね?有手倉卿」
「もう内輪の茶話会みたいなもんなんだから昔みたいにお父さんと呼んでおくれ」
この方、面白すぎませんか?
「…そういう公私を分けない所が貴方の欠点だと思いますよ、腹案があるならご披露ください、ここで貴方に逆らうのは私ぐらいのものですので」
「もぅイケズぅ、ワシにこの小僧の訊問まかせてもらっていい?」
ドキリ。キターーーっ!
すっと血の気が引く。
家令様は目を閉じたまま茶杯を口元に傾け、出翁礼卿は”どうぞ”と手のひらを差し出した。
お嬢様以下には反論権は無し。
「さて、小僧。一通り話は聞かせてもらったが【大躯】を生身単身で屠るのはワシでも簡単にはいかん」
苦労すればイケるんですね?単身生身でも……アレを。
「いくらお主に”倒した時の記憶がない”としてもだ、ハイソウデスカ。と鵜呑みにする訳にもいかん」
「出翁礼卿は現場に着いたとき辺り一面の焼け野原の端に、虫の息のお主を見つけ”もう無理だ”と判断したという。
ワシら騎士はな、魔物と戦い失われた何人もの領兵の死を見届けてきた、負った傷を見ればその人間の生死はある程度判るつもりだ。そんな騎士が”助からない”と判断したにもかかわらず、まるで究極の治癒魔法でも使われたかのようにみるみるうちに持ち直したという。
直後、出翁礼卿の魔導騎殿が搭乗騎士を強制排除、魔素切れで待機状態に陥ったなどというのも前代未聞のことでなぁ」
イナヅマ=サン、聞いてイマセンガ?
『緊急事態だったのでね、魔導騎が来たのでちょっと魔力を”借りた”』
ちょっとやないですやん!魔導騎様止まってますやん!
「だからな、小僧。なんとか話の筋道が通る様お主の所見を聞かせて貰えぬか、なぁ諏訪久よ」
【小鬼】くらいなら即死させられそうな目線で口元だけ牙、いや歯をむき出した笑み。
流石のお嬢様もドン引き。奥様、懐柔失敗しております。いろんなものが漏れ出そうです。スイマセンデシタ。
恐怖で真っ白に飛びかけた意識がスゥーッと落ち着いていく。これって【小鬼】と戦った時にも…。
イナヅマの窓が開く。
『【鎮静】を使った、まったく魔物並みの御仁だな。さあ、アレを披露する時が来た、想定外事案には即興で合わせていくぞ、いざというときは私の台詞を読め』
『了解!』
「…私の…所見で宜しいということでしたら」と、前置きしておく。
イナヅマこと羽生さんと二人で捻り出したのはこれだ。
「恐れ多くも木ノ楊出流初代御当主”九郎守・木ノ楊出流様のご加護”を頂いたと考えております」




