23話 自宅療養 + 閑話 Zaidan no Kwaidan
今回本編が少し短かったので おまけの閑話付きです
今後本編で出る予定はありません…多分。
しとしと ぴちゃん
しと ぴちゃん
今日も冷たい雨が降る。
昨日の施療院での診察で筋肉痛以外は問題なしということで退院は許可された。
八日前には死にかけていたとは思えない回復状態らしい、毎日【治癒】の魔法をかけていただいた奥様のお陰だと思う。
思った通り母ちゃんには泣かれてしまい、お屋敷での吏員見習いは今からでも取り消して貰えないのかと言ってきたがもう少し頑張りたいと言って説得した。
領内審判を受けることになったなんて話したら母ちゃん目を回してしまうのでその件は内緒だ。
男爵家御用による傷病療養なので学校も公欠扱いだそうだ、さすが封建制。
三日間、療養を理由に件の納屋へ籠りイナヅマと対審判用の作戦を練っている。
とはいってもいつかこの時が来ることはイナヅマの想定の範囲内だったとのことで。
用意された想定問答を繰り返し流れを覚える。
もちろん当日はイナヅマも同行するので暗記する必要もないのだが世の中何があるか分からないので極力一人でも対応できる様準備は進めておく。
ボクと魔導器官を直結したイナヅマはかなりの距離を移動することが可能になったそうでここかと思えばまたまたあちらと偵察に余念がない。
どこにも管なんか見えないのに離れていても繋がっているなんて不思議だ。
原理を聞いたけれど星幽体と魔導器官の疑似亜空領域連結が云々とか例によってボクの理解力をはるかに超えたのでそれ以上聞いていない。
羽生さんと呼んだほうが良いのかと聞いてみたけれどどちらでも構わないとのこと。
羽生さんの人格複写であるところの原初の一に偽装人格をかぶせた状態がイナヅマなのだそうだが何のことやら全く理解できない。何で偽装する必要があるのか…?
とりあえず今の状態はイナヅマということらしいのでイナヅマと呼ぶことにした。
そんな昼下り、珍しくイナヅマが言葉で語りかけてきた。
「諏訪久、折り入って頼みたい事があるのだが」
はいはい、イナヅマポイントタップリ稼ぎますよ。
「狩り物競争の下賜品、私に譲って貰うことは可能だろうか?」
「え?特に構わないけど…訳を聞いても?」
「私本体の修理に使いたい”魔物の親不知”と呼ばれている魔物資材が必要なのだ、多分金貨一枚程度あれば入手できるはずなのだが。
魔導騎は大気中の魔素を吸収し自己修復することが可能ではあるが、不調の部品を交換した方が当然早く復調できる。以前から屋敷周辺で調達する機会を探ってはいたのだが今は急ぐべきだと考えている」
ちっぽけな黄金虫の身体で必死に頭を下げているイナヅマ。
イナヅマにはいつも助けて貰ってばかりだし、ここは一つ。
「急ぐんだよね?」
「ああ、そうだな何かが起きる前に完調に戻したい、できるだけ早い方が有難い」
立ち上がり、納屋を出て親父の仕事場に向かう。
いつもどおりに背中を丸めて、何かをコツコツと叩いて治している。
「…親父」
コツ…。
音が止まった。
「頼みがあるんだけど」
返事はない、が続けて伝える。
「”魔物の親不知”って部品あるかな、友達が困ってて、どうしても必要なんだ、助けてあげたいんだけど…」
皆まで聞かず、立ち上がった親父は迷い無く何時もの部品入れの棚へ向かい…その隣の観音開きの鉄扉の前に立ち、懐から取り出した鍵を差し込んだ。
…今までその扉開いたところ見たことないんですけど。
鉄の扉の中の引き出しの一つから片手に乗る程の桐の箱を取り出し、仕事部屋の入口に立っていたボクにそっと手渡した。久しぶりに、正面から親父の顔を見た気がする。
「…あの、今度の勝負で勝てばご褒美を頂けるんだ。必ず返すから」
軽く頷いた親父は、いつもの場所へ座り。
再び、コツコツと修理を始めた。
「…ありがとう」
納屋へ戻る途中、後ろから聞こえる修理の音はいつもより高く、軽やかに聞こえた。
「…すまぬ、大きな借りが出来てしまったようだ」
へこへこと小さな体を折り曲げて頭を下げる黄金虫のイナズマ。
「大丈夫、【小鬼】だって【黒大躯】だってイナヅマが居なかったら、ボク達三人とも間違いなく非道い目に合ってたんだよ、実質イナヅマが貰った様なものだからね、ご褒美」
「”ほっとけぃき”も”そぉだぁふろぉと”も涙が出るくらい美味しかったよ…そうそう、狩り物競争でも協力してくれるんでしょう?だったら絶対負けないし、もし負けても吏員見習い辞めて親父の後を継ぐだけなんだから、将来ボクのものになるはずだった部品な訳だし…」面白おかしく伝えたつもりだったのだけど。
「…諏訪久、君の勝利に向けて私の全身全霊をを尽くす事を誓おう!」
黄金虫の後ろにメラメラと燃え盛る炎の幻覚を見た気がした。
早速、件の箱を開いてみる。
―――――え゛
桐箱の中には紫色の袱紗に包まれた件の部品があった。
蓋の裏側には【王牙】親不知と墨書され、取得場所に年月日、どこぞの冒険者組合のものと思しき朱印まで押印されていた。
『…すまん、金貨一枚では足りなかったかもしれん…』なぜ窓で語る、イナヅマ。
袱紗を開き、更に包まれた柔らかい和紙を開けば親指爪大の黒い四角。四辺周囲には金属製と思しき百足の足がびっしり生えている。
「あれ?」思わず声が出た。
四角黒百足の表面に浮かぶ模様がアノ世界で見た給仕用【業礼無】の胸に描かれていた模様によく似ていることに気付いた。
ブン、と羽音を立てて黄金虫イナヅマが四角黒百足に覆い被さると模様は見えなくなった。
「有難う、諏訪久、早速本体に組み込み修復を始めたい、暫く空けるぞ」
脚で器用に”魔物の親不知”を捕まえた黄金虫イナヅマは羽音とともに浮き上がり外に飛び出した。
「あ、まだ雨降ってるよ〜イナヅマ…」
いっちゃったか。何か酷く慌てていたように見えるのは気の所為だろうか…。
◆■◆■◆
閑話 Zaidan no Kwaidan
とおいとおい何処かのちょっとだけ近いところの話。
「ひっ!」
経理部の新人、田上玲子は思わず声を上げた。
「?どうしたね玲子ちゃん」
職場の先輩である水地壱岐郎が玲子の変調に気付き声をかける。
「水地さん…こ、これ見てください」
玲子は自分が確認していた空間ディスプレイを操作し、該当部分を強調表示させ水地に示した。
「?経費引当明細?えーと…ええっ!! これ、マネージャーに確認した方がいいな、引き当て先の裏取り頼んでもいい?」
「了解です、水地さん」
―――――二時間後。
「…なんだね?わざわざリアルで雁首揃えて…」
経理部長、西脇鎧輝はそのロマンスグレーの髪に櫛を通しながら多機能椅子を回転させ、ズラリと並んだ 経理課長以下マネージャー、リーダーその他の面々の顔を見渡した。
「社内ネットワークではなくリアルでお話させていただいた方がよいと判断する案件がございまして」課長は薄くなった頭を深々と下げ必死に冷や汗をハンケチで拭っている。
「スミマセン、その、ウチの部署のモノが…」マネージャーの話に
「多少のミステイクは現場で調整してもらいたいものだが、まさか100万信用単位からの損失というわけではないのだろう?仮にあったとしても世界総資産の一割を超えると言われる我らが財団には毛ほどの損害でもないが」
無論そうであればとっくに各責任者の元に設定されたアラートで通知され最小限の損害で対応がなされている。
「いえ、金額で言うと48.3信用単位です…問題は使用者の方で、とにかく報告をご覧ください」
はん?リーダークラスの決済権限以下ではないか。
なぜいちいち私が?
経費引当データだと?
内容精査して私的利用なら給与から天引きだろうに…どこのポンツク職員だ?
HABU?
SOYOGI!!
ハブソヨギ……さまっ!?
千年前、隣接世界に召喚拉致されたといわれている?
空間超越理論の?
すなわち、当梵財団設立原資の所有権者の?
言うなれば、この財団の全てはハブソヨギ様の所有物と言っても過言ではない。
「どこだ!」どこにいらっしゃるのか!ご本人なのか?子孫か?それとも電子詐欺か!
「ネオトキオ、ニューシンジュク、新都心ビル街の喫茶店でホットケーキとコーラとソーダフロートを注文、この時の入店者記録では成人男性一名、男子児童一名となっています」経理課長が網膜表示の情報を読み上げる。
「御姿は!喫茶店の記録映像を入手しろ!身元確認だ!必要なら非合法手段をとっても構わん」
もしハブソヨギ様ご本人もしくは正当な後継者の方がいらっしゃれば、財団資産の全てを動かす権限を発動できるならば、この世界を、地球を財団の意志の元動かすことも無理な話では無くなる。
「映像はもう入手済みです。田上君、部長のコンソールに転送を」水地が支持をだす。
映像には、無人のテーブルに給仕アンドロイドがホットケーキとコーラとソーダフロートを置いて、まるで見えない人物が二人、その場にいるかのように挨拶をし下がっていく様が記録されていた。もちろん経費引当はこの時になされている。
「電子上はこのとき給仕アンドロイドは成人男性、男子児童各一名を認識しています」
「……電脳影…か?」
財団経理部長西脇は、社内ネットワークにアクセスし自らの秘書を呼び出した。
「…大至急最高経営責任者にアポイントメントを頼む、アア、社内ネットじゃだめだ、リアルで頼む、今衛星軌道?すぐに向かう、君たち、一次情報所持者は全員同道するぞ!軌道エレベーターの予約をええっと…イチ、ニイ、サン、シィ…」
玲子ちゃんの午後はまだ終わらない。




