19話 タイマン
「今のうちだ!莉夢」
叫ぶと、膝をついている【黒大躯】に駆け寄り莉夢の杖で滅多打ちに叩く。
まだ躊躇している莉夢を叱咤する。
「早くッ!征けッ!」
弾かれた様に我をとり戻した莉夢は今度こそ完全に気を失ったお嬢様を背負う。
ボクに近づき。
「武運をッ!」
叫ぶと踵を返し小走りに走り征く。
「君らもッ!」
手は止めず声だけ返す。
【黒大躯】は片膝をつき片腕で杖の打撃を受けながらも爛々と燃える目でこちらをうかがっている。
ゾッと背筋に冷たいものが走る。
突き立ったはずの闇色の矢はいつしか姿を失い、あまつさえ側頭の傷が治りかけている。
黒い霧状態の魔素が吸い込まれるように流れ込みジクジクとふさがってゆく傷口。
一瞬の躊躇を見抜かれたのか、一気に立ち上がった【黒大躯】の頭突きを腹に食らい吹き飛ばされた。
ボクの身体は何度が跳ねながら地面を転がった。
「そのまま左へ転がれ!」耳元で叫ぶどこかで聞いた声にすかさず身を捩りその場から離れる。
ずんっ!!
さっきまでボクの身体が居た場所に獣の巨大な蹄が踏み下ろされ地面が沈み込む。
躊躇してたらあの間にあったのはボクの身体だ。
間合いを取り、立ち上がる。一緒に転がって来た莉夢の杖を拾い【黒大躯】へ向かい身構える、声の主に訴えてみた。
「喋れるんじゃないか!イナズマ!」
「今は我々しかいないからね、それより敵に集中したまえよ」
じりじりと間合いを詰めてくる【黒大躯】
頭の傷の修復を待っているのか今だ積極的には攻めてこない。
時間を稼ぎたいのはこちらも同じ、じりじりと下がっていく。
「森の中に逃げ込め、障害が多い方が図体のデカい奴と戦うには有利だ」
折角のイナヅマの助言だったけれど
「駄目だ、今ボクが逃げたら莉夢とお嬢様が追われる、【大躯】は女の子を捕まえて非道いことをするんだろう?二人の方に行かせるわけにはいかない」
「…很好、很好。君も男の子なのだね、いいだろう最期まで私も付き合おう」
どことなく満足気に聞こえたのは気のせいだったろうか。
二人とも姿が見えなくなったことだし、ヨシ!ここは一つ…。
「イナヅマ先生!お願いがあります!」
「なんだね?諏訪久」
「魔法攻撃をお願いします!」
「無理」
今、なんて言った?
「ナンデ?!イナヅマ?!ナンデ?!」
全身におぞ気が走った。冷汗が首筋を伝う。
「魔導知能は能動的な攻撃動作は全て制限されているのだよ」
「え」
「魔導騎はそれ自体が強大な力を持っている、それを管理する知能が自由に攻撃行動が可能と言う事態は、魔物たちが跳梁跋扈する千年前であっても良しとはされなかったのだ。
全ての魔導騎はそれを装備した騎士の意志によってのみ攻撃動作が可能となり、装備できる騎士を厳選することで人類全体の安全性を担保する、そういう仕様だ」
「ということは」
「戦いの始めからずっと精神安定、動体視力・身体能力向上の魔法補助を使い続けている、このままの状態ならあと半時(三十分)程で魔力は枯渇する」
「おいィィ!」
「それまでに何とか状況を打破してくれ、幸運を祈る」
魔導知能って使い勝手悪くないですか?
正直に言います。イナヅマの魔法を当てにしていました、スミマセンデシタ。
小半時(三十分弱)程時を稼いでから逃げても遅くはないでしょうか。
ガガッ!
【黒大躯】は蹄を大地に食い込ませると一気に間合いを詰めてきた。
必死の思いで横方向に転がり躱す。
ビチッっ!
左足に衝撃が走る!かすっただけなのにジンジンと痺れる爪先。
こんなんで小半時(三十分弱)も稼げるもんか!
何とかして反撃の手を考えないとジリ貧だ。
今の、ボクの、武器は、莉夢の杖と、伐採用の剣鉈と…まずい剣鉈どこかで落としてる…あとは…【editor】
【editor】は、相手の魔法を打ち消す。
だけじゃない…はず。
転がったところを捕まえに来た、腕をかいくぐって逃げる。
精神安定の魔法がかかってなければ足がすくんで動けなかった。
ダメだ、これ以上逃げ切れない!助けて【editor】!、アイツを倒す力を貸して!
ポンっ
って感じで目の前に”窓”が現れた。
空白の。
「はいっ?」
「バックステッポ!」
噛み気味なイナヅマの指示に反射的に従う、同時に見えない力にも押されている。
鼻先を【黒大躯】の爪がかすめていく。
「【念動】も君の魔力を消費している、ずっと使っている訳にもいかないぞ!」イナヅマの激。
ああああ、”窓”!前が見えない!邪魔だからどいて!手で振り払った。
スッと窓が半透明になり向こう側が透けて見えると同時に”ぺろり”と本の頁の様に”窓”が捲れた。
「へひっ!」変な声出た。
半透明の”窓”の次の頁に描かれた紋様はたった今イナヅマの使った【念動】の”窓”に描かれていたものに酷似していた。
「???んあぁ??魔導脈動に変異がある?何か魔法を起動しているのか?諏訪久!なんでもいい!奴に向けて放て!」
【黒大躯】に向けて… 意識と同時に 紋様の一部が変化する(目標座標指定)遠くで誰かが囁く。
放て!(実行)
【黒大躯】の鼻先がぐいと持ち上がった。
縺ッ縺?
(はぁ?)
【黒大躯】は鳩が豆をぶつけられた様な表情をして鼻づらを抑えていた。
「い…今のは【念動】か?私の魔法を【複製】したのか?」
迢ャ繧願ィ?縺ョ螟壹>繧ャ繧ュ縺九→諤昴▲縺溘′窶ヲ繧ゅ≧荳?莠コ髫?繧後※螻?d縺後k縺ェ?繧ソ繧、繝槭Φ縺九→諤昴▲縺ヲ蟆代@縺?未蠢?@縺溘′繧?▲縺ア繧翫う繝ウ繝√く縺倥c縺ュ縺?°!
(独り言の多いガキかと思ったが…もう一人隠れて居やがるな?タイマンかと思って少しぁ関心したがやっぱりインチキじゃねぇか!)
ギィィと歯噛みの音が響く、怒髪天を衝くとはこのことだろうか。
半獣半人の毛が逆立つ。
今までの様に勢いをつけた突進ではなく、左腕を前に出し、右肩を斜め後ろに引く、身体を斜に構え両腕を喉の高さにまで上げ軽く握る。両脚は肩幅に開き軽く前後に。両膝を軽く曲げその場で拍子を刻む様に重心を上下前後に揺らし始めた。
「…まずい、格闘系だ…」
イナヅマの呟きが聞こえた次の瞬間、瞬きの間に距離を詰めてきた【黒大躯】の左拳が目の前に迫っていた。
反射的に莉夢の杖を眼前に立てて防ぐ、拳が杖に当たると”みしり”という音と共にものすごい勢いで押し出された。
イナヅマの【念動】で拳の勢いを相殺するかのように後ろへ飛んだ両脚が着地した瞬間。
ベギぎっ゛
嫌な振動と音が体内に響き渡り、身体は宙を舞っていた。
荳頑ョオ遯√″縺九i縺ョ騾」邯壼セ後m蝗槭@雹エ繧翫?∫嶌謇九′譬シ髣伜ョカ縺ェ繧峨%繧薙↑髮代↑謚?蜉ケ縺九?縺?′邏?莠コ縺輔s縺ェ繧峨←縺?h?
(上段突きからの連続後ろ回し蹴り、相手が格闘家ならこんな雑な技効かねぇが素人さんならどうよ?)
【黒大躯】は後ろに伸ばした蹴り足を引き、巨体を器用に回転させる。両の足を肩幅に開き、胸前に拳を掲げると軽く頭を下げた。
謚シ蠢
(押忍!)
「すぽぉぉぉぉぉおぉぉくッ!」
どこか遠くにイナヅマの声が聞こえる。
眼前の空は青く、雲は白い。
胸と腹の間に漬物石がのめり込んでいる。
胸の奥から熱いどろどろがこみ上げ、喉元を過ぎ、口から、鼻から止め処なくあふれ出す。鉄の味。
背中が、後ろ頭を、これでもかとしこたまぶちのめされる。
べぎボぎと音、響く。
眼前に散る木の葉。丸太で背中をどつかれた感。
腹の奥底からじんわりこみ上げる熱い反吐ロ。
つらい、苦しい、息ができない。
―――――カラン。
二つに砕け折れた。
莉夢の杖が地に落ちる。音。
「【治癒】!【治癒】!!【治癒】!!!うおおおおおおお間に合ええェぇ!!!」
どこか遠くにイナヅマの声が聞こえる。
…ごめん、莉夢。お父さんの杖。壊しちゃった…。
…
……
………
死の直前に、人が走馬燈を見る理由は。
一説によると今までの経験や記憶の中から迫りくる“死”を回避する方法を探しているのだという。
…母ちゃんと妹の笑い顔。
…潤んだ金色の瞳。
…お嬢様の唇から零れ落ちる血反吐。
…家令様の指から湧き出る水流。
…親父の背中。
…若様の手に燃え盛る火球。
…お嬢様の弓に番う光矢、禍矢。
…惑星級戦略魔導現象専用魔導知能№一七ニ〇。
もし、その中に。
経験したはずのない記憶があったとしたら――――。
…きかんじゅうのくちからはきでるまっかなちへど。
…ひこうきがおとすよいたいいたいてつのかたまり。
…しゃくねつとしをばらまくみさいるのむれ。
…くろいまもののかたちをしたあっとうてきなぼうりょく。
…たぶんぼくはしぬ。
…しぬまえに、あいつはころす。
だから。
ちからをよこせ…【editor】
◇
「【治癒】!【治癒】!!【治癒】!!!帰ってこぉぉい!すぽぉぉぉぉぉおぉぉくッ!!!」
――――ころん。
傍らに落ちる、一本の矢。漆黒の禍矢。
「すぽぉ…」
――――ころん。
もう一本。光の矢。
「すぽおく…?キミか?」
【黒大躯】は文字通り腹を抱えて高笑いしていた。
縺。繧?≦?槭■繧?≦?槭■繧?≦?槭□縺」縺ヲ繧!縺昴?繧ャ繧ュ縺ッ繧ゅ≧蜉ゥ縺九i縺ュ縺!縺輔▲縺輔→豸医∴繧九°豁」菴薙r迴セ縺励※菫コ縺ォ谿コ縺輔l繧阪♂!
(何言ってるか判んねぇけど必死だな!そのガキはもう助からねぇ!諦めてさっさと消えるか正体を現して俺に殺されろぉ!)
とすっ。
軽い音と共に右手にチクリと痛みが走る。
縺ェ繧薙□縺?
(なんだぁ?)
挙げた手のひらを貫通する一本の矢。まるで串の様に短い短矢。
縺ェ縺」?
(なっ?)
どすっ!
今度は少し重い音と共に左肩を走る激痛。同時に熱に焼かれる肉体の苦痛。
縺ゅ△縺?>縺?う繝!
(あぢぃいいイッ!)
見れば肩口に突き刺さる短矢から吹き上がる火炎。矢の周囲の身体は炎に焼かれ溶け崩れ始めている。
縺ゅ△縺?<縺!!縺ェ繧薙□縺薙l縺ッ!菴輔′襍キ縺薙▲縺ヲ縺?k!
(あぢぃぃぃ!!なんだこれは!何が起こっている!)
肩を抑え、地面を転げまわる【黒大躯】
気づけば。
空中に浮いている短矢。
一本の短矢が二本に分かれ。二本が四本、四本が八本と増えていく。
やがて、空中に浮く数千、万となった短矢。
ゆっくりと回転する万の鏃先の焦点が自己だと気づいたとき。
ぽっ。
全ての矢に一斉に火が点る。
それはまるで紅蓮の花びらを持つ大輪の焔華のようであった。
見開かれた瞳から光が失われつつある少年の口元から”ごぶり”と血塊があふれるや。
その口元から吐息が漏れた。
”紅蓮華”




