17話 乱戦
『森の奥に向かわせるための包囲の仕方だ、この先に探知不能な何かがあるのかもしれん、できればこの辺りで活路を開きたいが…』
イナヅマのぼやきは見えていないはずなのにお嬢様も同じ危機感を持っていた様子。
迂回する道筋を探すものの思惑とは裏はらにどんどんと森の奥へと誘導されていくようだった。
「獲物を追い込んで狩るのは何度もやったけど、自分が獲物になるなんて思わなかったわ」
どこか硬い表情で呟くお嬢様。ボクには狩りの追い込みなんて判らないからお嬢様と莉夢に従うのみだ。
何度かの【小鬼】の小襲撃に矢一本と投擲用の岩を三つ消費したが、仕留められたのはたった一匹。
完全にじり貧だ。
ふいに、さわりと冷たい空気が頬を撫でる、小広い場所に出た。
周囲に小高く切り立つ崖の下、滝が流れ落ちる絶壁。二方向は完全にふさがれた。後ろの茂みからはににじり寄る【小鬼】の群れ、逃げるとすれば左手方向のさわさわと滝つぼから流れ出る小川の下流へだが当然のごとく待ち伏せの気配。
盤上遊戯だったらこれで詰みだ。
もちろん、詰まれる気はさらさらない。そっと、イナヅマの入っている胸衣嚢に触れる。
『わかっている、サポートは任せてくれ。【小鬼】程度なら何とかなるだろう。ただし、ダメージ軽減も能力底上げも原資は君の魔力であり有限、頼りすぎるのは危険だ。反動もそれなりにはあるので覚悟しておいてくれ』
ここを切り抜けなきゃ先はない。反動だろうが何だろうが来るなら来い。
気配、茂みの向こうに複数の…【小鬼】が蠢いている…一斉に襲い掛かってくる気か?
腰から下げた剣鉈を抜き放ち、身構える。
お嬢様は弓を引き絞り、莉夢は足元に転がっている中から手ごろな石を拾いスリングに込める。
じっと待つ、その瞬間を。
『↑左上だ!』
しまった!絶壁の上から!
棒っ切れを振り上げながら飛び降りる【小鬼】。
giiiii!
投げた!剣鉈を、手から離れる瞬間に”ふわぁっ”とした圧力が腕に添えられた。
吸い込まれるように【小鬼】の胸へ突き立つ剣鉈、同時に失敗を悟った。
矢と石をもがその一匹に命中してしまっている。
がさっ―――――。
振り向くと同時に茂みから二匹の【小鬼】が飛び出した。
まるで打ち合わせしていたかのような時機じゃないか!
後ろの二人は矢も石も直ぐには補充できない、せめて手近な片方はボクが体を張って止めるっッ。
運をイナヅマに任せて突っ込もうとした、その時。
「しぃっ!」
お嬢様の『射線を空けろ』だ。
横っ飛びに転がり無理やり方向を変える、反動で起き上がりざま振り返り見た、それは。
圧力。窓を走る文字列。空なはずのお嬢様の弓に番う一本の光る矢羽。
「光よ…」
何処か静かに、祈りに似た声で解き放つそれは、燦然と輝く。
「導きたまえや…」
『【光矢】』
どんっ!
縺舌?縺!
(ぐはぁ!)
衝撃と共にその胸に光の矢を受けた【小鬼】の身体は後ろに吹き飛び、飛び出した茂みの中へと帰って行った。
もう一匹は横合いから振り出した莉夢の杖にその首を強かに打ち据えられ、地面に倒されると同時に体重を乗せた杖先にその喉笛を突き潰される。
すかさず崖から落ちてきた【小鬼】に駆け寄り死んでいることを確認すると、剣鉈、矢、手ごろな石を回収、二人の元へ戻る。
剣鉈を抜くとき踏んづけた【小鬼】のぐにゃりとした肉の柔らかさや抜ける際の”ぞぶり”とした感触は蛙なんかの比ではなかったのだが興奮しているためかあまり恐怖を感じなかった。
無理やり深呼吸して息を整える。お嬢様のスキル、おそらく恩恵スキルであろうそれは【光矢】であった。
魔力が続く限り打ち続けられる【光矢】これで勝機は一気に高まった。
はずだった。
心なしか莉夢の顔色が悪い。
「準備なさい」
新たな矢を番え、周囲への警戒を怠ぬままに、有無を言わさぬ口調でお嬢様は放つ。
「…はい」
杖を構えたまま片手で自らの胸元から取り出したものは首から下げる垂飾り、その先に付いた玻璃の平珠玉。
銀の細鎖に繋がれたそれを両手のふさがるお嬢様の首にそっと掛ける。
―――――がさり。
川下の少し離れた場所に…お嬢様の、弓の威力が落ちる程の辺りに周りを確かめるようにゆっくりと姿を現した。奇襲に追いやられて下流へ逃げだして居たらさっきの三匹とこいつらに挟まれていた訳だ。
一匹、二匹…合計六匹の【小鬼】。高低差がある崖の上の探知精度はどうかと思うが、最初にイナヅマが探知した【小鬼】共の数とは一致する、これで全部のはずだが。
お嬢様…矢を射掛けないのは、先頭のやや大ぶりな【小鬼】が掲げている盾と、何匹かがその身に纏っている…おそらく元は人間のものであったろう革製の防具の問題か。
じりじりと間を詰めてくる【小鬼】集団。
幾時も過ぎたかの様でいてまだ四半時(十五分)も経っていないかの様なもどかしい時間。
お嬢様の【光矢】の射程距離と命中精度は判らないが普通の矢と同じ位なんじゃないだろうか、そして多分、その本数も残り少ないのではないか?
でなければ多少外してでも距離があるうちに何本も続けて射れば奴らを追い払う事だってできるはず。
ここに至って出し惜しみしているはずもなく…【小鬼】集団の狙いもこれか?残矢確認。
弓の有効射程ぎりぎりで姿を現した時点でこちらが【光矢】を連射し始めたならば残矢多数として撤退。
しかし射てこない、残矢が少ないのか引き付ける作戦なのか探りを入れている段階。今はまだ。
怖いのは、あまり頭がよくないと言われている【小鬼】になぜこんな戦い方ができるのかということ。
やっぱりあの中に統率しているヤツが混ざっているのか。
どちらにしろこの戦いの鍵を握って居るのはお嬢様だ、早いうちに射始めて仕留め損なったり矢切れがバレれば多数で接近戦に持ち込まれる、鎧や剣を持った【小鬼】を今迄みたいにすんなり倒せるとは思えない。
かといって奴らの突進を許す範囲まで近づかれたとしたら最初の一匹、二匹倒せても矢が尽きる前に乱戦に持ち込まれやっぱり多数対小数になる。
「莉夢ッ!」
お嬢様の声と共に放たれた矢は緩く螺旋の軌跡を描いて【小鬼】集団に向かって飛ぶ。だが時機が早すぎじゃないのか?
十分に距離があったため【小鬼】側にとっては余裕で躱せる程度の…
縺?o縺ゅ≠縺ゅ
(うわあああああ)
であったはずの一射に追随するように莉夢が駆けだした。
ボクは反射的に莉夢を追う。お嬢様も駆けた。
おそらく、時機が早すぎて相手の意表をも衝いたであろう一射。躱され、無駄になるはずであった一矢の意味を莉夢の突進が変えた。
「ウるァぁぁぁアあアあアああああああ゛ァ゛あ゛あ゛あ゛ア゛!」
雄叫びと共に突進する莉夢と同時に迫る矢のどちらに対応するべきか迷ったのか集団が乱れた、何匹かの【小鬼】が逃げ出そうとしたのだ。
普通こんなものは先に来る矢の軌道を見極めた後、矢より確実に遅い莉夢に逐次対応するだけの話なのだが極度に緊張した場面での駆け引きに互いの士気の差が出たと言ったところか。
縺イ縺?<縺?>
(ひいぃぃい)
逃げ出した一匹の背中に一本の矢が突き立ち倒れる。これでお嬢様の普通の矢は尽きた。迫る相手より逃げる方が当てやすいとは話に聞くが、この距離で命中させるというのはやはり尋常な腕前じゃないのだと思う。
【小鬼】集団は逃げる奴と押しとどめる奴が入り乱れて騒いで居る、浮いてる奴を見極めて倒す、剣鉈を握りしめ奔る、ご安全に!
譁手陸縺輔s!隧ア碁&!遘√?蜷域ウ慕噪縺ォ繧ケ繝ェ繝ォ悟袖繧上∴繧九▲ヲ閨槭>縺溘°繧牙盾蜉?励◆繧薙□!谿コ輔l繧九↑繧薙※閨槭>縺ヲェ!
(斎藤さん!話が違う!私は合法的にスリルが味わえるって聞いたから参加したんだ!殺されるなんて聞いてない!)
縺オ悶¢繧九↑!繧ゅ≧逡ー荳也阜蟷イ貂臥ヲ∵ュ「豕輔↓驕募渚励※繧薙□繧医?∫焚荳也阜莠コ?九i豌怜?ュ辟。乗ョコ帙k」ヲ蝟懊sァ蛻コ励※溘?縺ッゥ縺薙?ゥ?▽?!
(ふざけるな!もう異世界干渉禁止法に違反してんだよ、異世界人だから気兼ね無く殺せるって喜んで刺してたのはどこのどいつだ!)
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(緊急脱出だ!こっちで殺されたら保証金は帰ってこないんだろう、まだ三万分も楽しんでない!)
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(アホウ!保証金はモンスターアバターを無事に返せなきゃどのみち帰ってこねぇんだよ!腹くくってガキ共を殺せっ)
奴らの混乱に乗じて孤立しているヤツから確実に倒す!
少し離れた場所で頭を抱えてうずくまっている奴の背中へ思い切り剣鉈を突き立てる。
縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゆココ谿コ縺励ぅ縺?>!
(あああああああああああああ人殺しィいい!)
意味は判らないが断末魔の悲鳴や”ぞぐり”と沈む剣の感触は相手が魔物だからと言って決して気持ちのいいものじゃぁない、でも殺らなきゃ殺られる、今この場所じゃぁ。
『前へ転がれ!』
イナヅマの指示に迷わずその場に手をついて前転。瞬間、股の間から逆さまに見えたそれは背中のあった辺りの空間を横に薙ぐ【小鬼】の振るう短剣。
縺ヲ繧√∞縺!螯吶↓蜍倥?縺?>螂エ縺檎エ帙l縺ヲ繧?′繧九→諤昴▲縺溘′!菴輔°縺ョ閭ス蜉帶戟縺。縺?縺ェ?縺薙▲縺。縺ョ蜍輔″繧貞?隱ュ縺ソ縺励d縺後▲縺ヲ!
(てめぇか!妙に勘のいい奴が紛れてやがると思ったが!何かの能力持ちだな?こっちの動きを先読みしやがって!)
何か主張してるけど言葉判んないってば!




