13話 飾りじゃないのよ従者は
このカム何とかの言っていることが本当だとすれば、向こうの方が筋が通っているんじゃあ~りませんか?
それに、この場でここまでの口上垂れられるだけの才覚あるなら、嘘なんかついたら後でヤバいことになるぐらいの事判っているでしょう。
お嬢様、森の方監視してる素振りはいいから返答してください。
「委細わかったわ、その件に関してはお父様に確認します。
けれど男爵家として一度決定したことだから簡単には覆らないと思うけど?」
「ですので、その庶民には分不相応な夢は諦めてその座を辞退し譲れと、むろん只でとは申しません、代わりに尊多商会の手代として働いてもらい男爵家従者まで務めたその才覚如何によっては番頭の席までもまかせられるものかと」
転職条件、今初めて聞きましたけど?
番頭(支店長)の件はリップサービスとしても、ぞんだ商会木ノ楊出流支店の手代といったら吏員よりは落ちるけど村内ヒエラルキー的に考えて十分出世街道ではある。庶民との交渉条件として提示する分には十分アリなんだろう。
「諏訪久は麗芙鄭の仕事がらみでの採用だから無理ね」
ズバッ、容赦なし。お嬢様、素敵です。
家令様ご推薦の所で上慎の顔色が一瞬変わったのが判った。さすが家令様、影響力あります。
「承服しかねます」
今度は上慎のターンだ。
こいつはこいつで、家と親戚、準男爵の看板を背負ってきているんだ。簡単に引けばその分看板を軽く見られることになる。
そうか、形式通りに代理や使者を立てないで本人が直接お嬢様の所へ来たのはそれか、代理なら家令様の所へ通されて上手くあしらわれればそれ以上追求出来ない。
だけど、先にお嬢様から何か言質を引き出せれば……。
だからか!今日!定例狩猟の日に中央学校の生徒なら男爵様の森まで入れるしお嬢様に直接接触できる。
従者選定について打診があったにもかかわらず断りの連絡をって言ったって昨日の今日の話だぞ?
連絡行くとしても今日だろう。
その正式な連絡が届く前に来たんだ! 男爵家の落ち度を大きく喧伝するために! 自分たちの手札を最大限利用する為に。
マズい、マズいマズいマズいマズい!
こいつら全部計算づくだ!
莉夢筆頭従者はこういった駆け引きは上手くない、ここはボクが何とかしなくっちゃ! 考えろ、考えろ諏訪久。
『諏訪久従者。イナヅマポイントを消費して上慎の技能を覗きますか? はい/いいえ』
なんだ?イナヅマポイントって? 貸しのことかしら。
ならば、”はい” だ ”はい”の文字を意識して反転させる
『了、彼の所持スキルは〖詐術〗だ、気をつけろ。その他のステイタスは魔力以外今の君と大差はない、グッドラックb』
イナヅマ……火事消しているときに君の家が燃えている的な情報ありがとー。
〖詐術〗て言ったら《星》と言っても屑に近い方じゃないのか?思わせぶりな…ハッ!これも恩恵技能の……。
「男爵家が約束を反故にするなどということがあっては今後の信用にかかわる事かと思いますが?
家令様御用での採用という事でしたら好都合。
この庶民は家令様にお仕えすればよろしいかと、空いた枠にこの上慎めを是非に!」
薄く笑いながら。上目を遣いお嬢様へ視線を這わす。
……何か……腹立つなこいつの恩恵技能。
上慎の魂胆はなんとなく判る、こいつには木ノ楊出流男爵家にもお嬢様にも忠誠心なんてない。
貴族従者を自分の箔付けか何かとしてしか捉えていない。
ただ、それだけに欲望の為の手段として従者という立場に対する欲求は純粋で強烈だ。
むしろ、吏員になりたいからって授かった恩恵技能の可能性を餌にして腰掛でやってる従者なんてヤツの方がある意味お嬢様に対し十分無礼な輩なのかもしれない。
少し自分を諫めなきゃならないな、ボクも…。
「ご返事いただけませぬか? よろしい、ならば決闘です」
え? バカなの? この人。死ぬの?
「おっと、命を賭けた決闘は今は罪となります故、ならば”勝負”を申し込みましょう。
もちろん、恐れ多くも貴いお方のご息女に対してではございませぬ、高い所から下りてきた見てくれだけはよいデクノボー殿も論外。
庶民。やはりお前だ、お前の席次を賭けて勝負せよ、庶民。
それともやはり庶民どもには決闘に賭ける貴き血の誇りなど理解できぬか? ん?庶民」
イラッ。何気にお嬢様をお館様の添え物扱いにして侮辱しヤガッテ。しかも筆頭従者殿まで…、いかんコヤツの〖詐術〗に…。
「出来らあっ!」
ヒッカカッタヨー。オジョウサマー。
「いまなんとおっしゃいました?」
上慎は蛇に似た口元を笑みの形に変え促した。
莉夢筆頭従者殿はお嬢様の肩に手を添え首を横に振る。
「いいのよ莉夢。”ワタクシの従者達が蒼き血の誇りを理解できぬ訳があるものか”と言ったのよ」
「これだけの衆人の中で宣言なされましたね? これは、どうあっても決闘としての勝負を受けていただかねばなりませぬな」
森中に散っていた生徒たちも次第に収穫を終え集まり始めていた。何事かと遠巻きに見守っている。
「えっ!!勝負を!?」
オジョウサマー、シクシク。
「古来決闘の作法では申し込まれた方がその内容を選ぶ権利を持つ。
さあ、空気を読んで映える内容を選択せよ、庶民!」
「えっ!!ボクが!?」
なんということでしょう…まったく思いつかない。
『狩り物競走で勝負をつけたら如何?』イナヅマが何やら提案してきた。
ここで声を出せば目立ってしまう、目線でいくつかイナヅマと意思を交わし。
「狩り物競争はどうでしょう?」
あたかも自分が思いついたかのように提案する。
「狩り物競争?」皆が一斉に合唱する。
そうだよなぁボクだって今知った。
「……聞いたことがある」
「知っていルですか? お嬢様」
意外なところから補足説明。
「シマノクニ王国の成立前、初代王妃様の故郷である、冠覇仁王呂帝国では、貴族同士でもめ事が起こったときには、同日同場所で狩りを行いその獲物の優劣で勝敗を決していたと言うわ。
たしか王都の図書館で読んだ本にそう書いてあったはず。流石アタシの従者、結構勉強しているのね」
ニッコニコご満悦のお嬢様。今日も素敵です。
「お嬢様のご説明のとおりです、次回の定例狩猟の時にボクと上慎殿が狩りの成果を比べ合い、優れた方を勝ちとするというのは如何です?」
皆さんご注目です、うーっ、緊張するなぁ…。
「ただし……。
ボクが負けた場合ですがボクは自ら己の身分を勝手に決めることは許されない立場です。
進退伺を提出し後任として上慎殿を推薦するところまでとさせていただきたい。
これが第一の条件です」
第一の…、というところで明らかに不機嫌そうな表情を醸したが構うものか。
「合わせて。
この条件ではこちらの利がありません、本来受ける謂れの無い勝負を挑まれ受けて立ち、勝ったとしてもこちらに得るものは何もありません」
「そこで上慎殿にもう一つ条件を飲んでもらいたい、この勝負に負けたら従者入りを諦める他に可能な限り一つお嬢様の望みを叶えるというのは如何でしょう」
じっとボクの話を聞いていたお嬢様の口の端が僅かに上がった。
及第点頂けましたでしょうか?
上慎は思案顔だが…。
「本来、こちらとすれば受ける謂れの無い勝負、ここはやはり家令様に相談し……「受ける!受けるぞ!」」
家令様と相談されたら絶対に通らないからね、コレ。
上慎はポチャを呼び鞄の中から二枚の書状を取出させた、やっぱりここ迄は計画どおりか。
勝負の種目とそれぞれに署名をすれば契約が完了する所まで仕上っており、詳細は第三者立会の元詰めることになっている。
立会人としては無関係かつ身分の高い者として上級生の騎士爵ご令息にお願いした。
相互に内容が同じ事を確認しそれぞれが一枚持つ。
「お嬢様、将来の筆頭従者がご挨拶申し上げます。ご機嫌よろしゅう」
慇懃な態度で頭を下げる上慎に。
地獄の底から轟くかのごとき大音量が辺りに響き渡る。。
「従者ぁ筆頭ぁアタシが決める! 狩り勝負なぞ、木っ端従者の垂れた世迷い言なれど僕の言は主の責よ! 物売り屋ぁ! 総力上げてかかってくるがよいわ!」
お嬢様が啖呵を切った。
これは相当腹筋鍛えてないと出ない音量なのでは……。
折角、従者vs従者希望者の闘いに持ち込んだのに、自ら火中へ首を突っ込んでく姿勢。
嫌いじゃ無い。嫌いじゃ無いです、お嬢様。うるうる。
『えーぞえーぞ、やんややんや~ヾ(≧▽≦)ノ』…イナヅマェ…。
お屋敷から何人か使用人の人出てきたし、定例狩猟の参加者は大騒ぎになるし。
あ、家令様、血相変えて走ってきた。
どーなっちゃうんだ?これ。
今話で世界観チュートリアル終了です。ここ迄お付きあいくださった皆様真にありがとうございます。
次回からアクション編…、をお送りできたらいいなと切に願います(おいぃ)。
ご自愛くださいませ。




