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【エタってないんだからね!筆力向上修行中】屑星だって生きている~誰か教えて!ユニークスキル【editor】の使い方~  作者: Darjack


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閑話 続々斎藤さんだぞ 2

「‥‥三木を開放して貰えないか?」


 メタバースの占用空間に構築されたプライベート格闘練習場に片膝立てて座っている()()()()()()()()()()スカジャンの少年。


 アポロキャップに金色の髪の西洋人系アバターに向けて斎藤はそう語り掛けた。


「‥‥仲間想いなのはイイね、でも全然だめ。功夫(クンフー)が全く足りない」


 少年は笑いもせず真顔のまま上目遣いで斎藤を見ていた。


 舐めてはいるが油断はしていないその視線に一瞬イラっとしたものの。


「北辰門か?」


 問うてみた。


「どうかね?」


 小首を傾げるかわゆげな仕草。どうせ見た目と中身は違うのだろうけれど。


「‥‥一手ご教授願いたい」


 斎藤は受けに主体を置いた虚歩と猫足立の中間の構えで迎え撃つ。

 金髪坊やの目の奥が少し光った気がした


「ほぅ‥‥さっきの小僧よりはマシな功夫(クンフー)ね、でもマダマダだめ」


 アポロキャップの金髪坊やはゆっくりと立ち上がりダメージジーンズの尻を払った。


「北辰門をカタるニセモノ居ると聞いて来てみたケド、ホント面白いね。

 あなた、それ何?空手なのか、北辰拳なのか‥‥自分で思い付いたの?習った拳が消化不良でガタガタナッテルよ?

 それで北辰門名乗るは大変失礼、せいぜいモドキが良いトコロね」


 構えるでも無く間合いを保つでもなく。


 スタスタと歩いて近寄ってくる。


 斎藤は困った。


 これまでこんな無防備なそれでいて隙の無い相手は初めてだったからだ。


 無造作に前蹴りの射程に入ったと同時に斜め下から少年の顎先に向けて上段蹴りを放つ。VRなのだ、本気で当てに行く。よもや顔面反則負けはあるまい。


 予備動作で悟らせない為足の筋肉の瞬発力だけで跳ね上げるステルスキック。


 ふわ。


 くるり。強い掌に力に足首を払われたかの様に身体が浮き上がり後ろ縦方に回転したと思ったら。


 ゴグリ。


 首の奥からの破骨音。

 生々しく体内に響く。うつ伏せに倒れた斎藤の背中を膝で押さえた金髪坊やの小さな掌が首を捻っていた。


 なぜこうなった。全く分からない。


 頸骨の砕ける激痛と多分こちらも折れている足首から駆け上る痛烈な痛みに気が狂いそうになりながらも。


「‥‥もう‥‥一‥‥手‥‥お願い‥‥」


 捻くれた首からシュウシュウ息を漏らしながら絞り出した。


 初めて


 金髪坊やは何処かイヤらしい大人の表情を見せた。


 にたっ


「アナタ、面白いねぇ‥‥」


 笑った。




老師(せんせい)、この構えはこれでいいでしょうか」


「全部だめ、こう」


 老師(せんせい)と呼ばれた少年は斎藤の中庸の構えの腰を上から軽く足先で抑えた。


 抑えられるままに更に腰を落とし重心を下げる。


 きつい、きついが。自分の目線が届かない、壁一面の全身姿見鏡で見ていても分からない至らぬ所を指摘してもらえる。


 投げられる、落とされる、極められる、腕も、脚も、首も、背骨も、尾骨も、顔面も、何度も折られ、関節を砕かれ、眼球を抉られ、金的を潰されての激痛にも耐え何度も地に這いつくばり都度、都度、再度の手合わせを願った。


「ふぅん……VRも悪くないね、現実だとすぐ死んでしまうのが面倒くさいけど、VR(ココ)では何度殺しても死なない」


 物騒な事を言っている。


 少年は己の身に沁み込んだ技の一つ一つを斎藤のアバターを実験体に試し威力を確認しているかのように多彩な殺人技を繰り出していった。


 上段を打ち込んで来い。前蹴りを放て。と斎藤に先を取らせ後の先で入る技が多く確かに斎藤の思った格闘の技が遥かに洗練された形で炸裂する。


 斎藤にはその場で理解できなかったものの、何度か絶招(ぜっしょう)らしきものをも喰らった。

 巧みに懐に入られ超至近距離から肘で肋骨を折られその骨で肺に穴を開けられ潰されたのには仰天した。

 こちらの突進にこの技を合わせられたら躱し様がない。


 北辰門STは何度もアバター死亡判定を受けた。


 本来なら死亡判定された後に一度ログアウトしてから再ログインすることにより損傷状態から全快のアバターに切り替えられる。

 VRバトル中なら勿論その時点で負け判定確定するのだが、少年の出現と同時に自由なログアウト復帰(リザレ)が阻害されていた。


 しかしボロボロの斎藤が立ち上がるのを待つのが面倒くさくなったのか、ログアウトしても斎藤は逃げないと理解したのか、途中からログアウト復帰(リザレ)が可能になっていた。


「亀は低いがよく耐えるね、動く時は独楽、くるくる回って腰高」


 多分金髪坊やは日本語を喋っていない、メタバースの自動翻訳で変換され斎藤の耳に入ってくる為に何を言ってるか実の所は解らない。


 が、拳諺(けんそ)を素直に飲み込み、受ける時は自分が亀になったように、動く時は独楽となった自分をイメージする。


 重心。


 斎藤が注目し自らの空手‥‥をベースとした何かにおいて重視して来たモノの本質が体系づけられ一つ一つの意味が明確化されていく肌感覚。


老師(せんせい)!」


 見れば傍らで三木が土下座している。どうやら傷は一度ログアウト復帰(リザレ)することにより修復したらしい。


(すまん、三木。忘れてた‥‥)

 斎藤の心の声は三木には聞こえていない。


「オレにも"北辰拳"教えてください!」


 ちろり、金髪坊やは三木に視線を向け、斎藤を見やる。


「‥‥なんで、ワタシ教練(けいこ)付けてるかね?」

 ぼそぼそと呟いたのは独り言か。


 何度も死の苦痛を体験しながらも斎藤の心は狂喜乱舞していた。

 これまで数年間、霧の中で藻掻き手探りで進んでいたものがいきなりに霧が晴れ案内のヒントをくれる案内役までがついてくれている状態だった。

 どんどんと先を取った。後の先を取られ技を返される。


(なるほど、こう攻められたらこう返すか)


 骨折、関節破壊の痛みを代償に、これまで勘で使っていたものに明確な理を、技と技の動作間を滑らかに繋ぐ歩法を。

 一人の老師(ラオシー)と二人の学生(シュエシァン)の夢のそして殺戮の時間はまたたく間に過ぎて行った。




斎藤(ジャイトン)三木(サンモゥ)も少しマシになったね、まだまだ全然ダメだけどこれからもしっかり功夫を‥‥」


 ニコニコと二人の修練を眺めていた金髪坊やの目が泳いだ。


「‥‥ワタシ何やってるね?門下生じゃないヨ」


老師(ラオシー)!」


 覚えている片言の大陸の言葉で斎藤は金髪坊やの足元に蹲り額を床に擦りつけた。


「いや、師父(シーフー)!! これからも俺達に北辰拳を教えてください」


 斎藤に倣い半歩下がって三木もそれに並んだ。


「「お願いします!!」」


 二人の合唱に老師と呼ばれた少年アバターはため息をつきながら。


「‥‥あ〜〜‥‥ワタシこれでも忙しい身。次いつ来れるか解らない。

 せいぜい功夫を積んで置くことね‥‥」


 苦虫を噛み潰した様な表情を残し金髪坊や改め師父の身体(アバター)は霧霞が散る様にかき消えて行った。




 VR格闘メタバースのランキングに登録された「北辰門ST」「北辰門MK」の胴着が一新された。北辰門の文字が消え日章旗のハチマキもなくなった。


 スタンダードの拳法着。功夫スタイルではなく空手着によく似た日本拳法着風のデザインだ。

 プロフィールの取得格闘技名の欄が“無し”と変更されていることは一部のマニアぐらいにしか気づかれていなかったが。

 北辰門二人のVR対戦数は激減した、特に「ST」の方は「MK」のセコンドに現れるのが殆どで試合(しあ)うのは極稀といった頻度になった。


 但し勝率は二人ともに上がっていた。試合数が減り勝率が上がったのでランキング順位は変化がなかったが。

 イロモノ対戦ルールは余程に美味しい条件でなければ受けなくなったし。準リアル対戦ルールでもあまりの格下の挑戦は受けなかった。

 受けても地味な技による堅実な勝試合ばかりでショー的な華やかさの演出のない真剣試合(ガチンコ)に視聴者数は次第に減っていく。


 己の技の習熟度を測るために同格辺りと対戦する。

 後は練習場の維持費用が賄える程度に稼ぐ。


 それでよかったのだ。斎藤の目的は既に果たされたのだから。


 三木と二人で師父の見せてくれた技を何度も反復し己の身に染み込ませ練功して行く。

 ただひたすらに功夫を積み練ることに二人の格闘メタバースでの時間の殆どが費やされた。


「兄ぃ‥‥。師父はもう来ないんスかねぇ」


 つい漏らす三木の声に。


「分からん、でも来られた時に恥ずかしい姿は見せられん、ひたすらに功扶を積むのみだ」


 二人で基礎練習、対打、対接を繰り返して数週間。



 修練中の身体がふわりと舞回ったかと思えば。


 二人とも床に伏せられ後ろ腕に決められている。


你好吗(ひさしぶり)斎藤(ジャイトン)三木(サンモゥ)、少しだけマシになったね」


 言葉と同時に二人の手首は音を立てて折れた。




 ――――十と数か月


「謝謝、師父」


 斎藤と三木は跪き拱手の礼を金髪少年にささげた。


「ふん、お前達少しだけマシになった。

 一応北辰門と言える形にはなっているカモネ。

 師範にはまだまだ遠いケド、これからも怠らず功夫を積むネ」


 床に片膝を立てて座っている。出会った時の様に。


「師父、もうお会い出来ないのでしょうか」


 頭を起こした斎藤が名残惜しそうに洩らした。


「オレ、覚え悪いけどもっと師父に教わりたいです」


 珍しく三木も縋るように訴えた。


「‥‥斎藤(ジャイトン)三木(サンモゥ)。案内してくれたトーキョーメタバース巡り楽しかったネ。


 最後に開祖様に良い土産話ができたヨ。


 ワタシも次の旅に出なければならないネ。


 もうワタシに骨折られないで済む、良かったね」


 にこにこと上機嫌の笑みを浮かべて師父は去った。


 斎藤と三木の最後の問には応えずに。





 ──────大陸中央部某県某省。


子墨(ズームォ)よ、久しぶりだな」


「お久しぶりです、博文(ブォウェン)哥哥(にいさん)


 カジュアルなスーツで北辰門総本山である掌門(当主)の屋敷へと訪れた博文(ブォウェン)は弟弟子子墨(ズームォ)の出迎えを受けた。


師父(せんせい)直々の呼び出しと聞いて急いでやって来たぞ、まだ意識はお有りなのか?他の兄弟子達には連絡は取ったのか?」


 屋敷の長い廊下を沿に先導されながら進む博文(ブォウェン)は矢継ぎ早に子墨(ズームォ)へと質問を飛ばした。


 既に鬼籍へと半歩踏み込んだ北辰門掌門の最も近くに拠点を持つとは言え、高弟である博文(ブォウェン)が呼び出されるとなればただ事では無い。


哥哥(にいさん)老師(せんせい)の容態は相変わらずですよ、本当なら一年も前に亡くなっていてもおかしくない。

 最後に世界を旅したいとお戯れに設置したVR装置でバーチャルの世界へ旅立たれてからはかなり持ち直しましたからねぇ、余程お気に召したのでしょう。

 食事も摂られる様になり今だに意志の疎通が可能な位です。


 流石に医者からVR装置の使用は差止められましたが‥‥」


 それは、師父にはあまり時間が残されていない事を示していた。


「何やら、最後の最後で遺言書に書き加えたい事が出来たとか。哥哥にいさんと私、高弟二人が立会い証人となれと言う事らしいです」


「はっ?老師が?遺言に?‥‥何事にも執着されなかった老師が‥‥それぁ一大事かもしれんな」


 広い広い屋敷の長い長い廊下を進んで行く二つの影。





 ────────北辰門掌門の遺言書が高弟達に公開された。


 その遺言書に記載された門派系図。


 正式に北辰門の門派分派と掌門より認められた流派道場と高弟たちの名の連なり末尾に聞き慣れぬ門派の名が墨書されていた。




 新東京 我流北辰門 斎藤

 新東京 我流北辰門 三木



読んでくれてありがとうございます。


やっぱり熟成の時間取れないのは厳しいです。


この閑話以降は不定期更新になると思います、エタらせたくはないので頑張ります。応援よろしくお願いします。


それでは皆様、よい週末を。

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