113話 王軍
—————————木ノ楊出流領雨田村王軍駐屯地。
「魔導騎一〇一〇六号殿 待機状態から戦闘状態へ移行準備ーーー!」
王軍駐屯地は騒然としていた。
同駐屯施設の存在意義、お伽噺のはずだった魔王再臨伝説の成就が王軍所属の魔導騎達から伝えられたからだ。
ほとんどの魔導騎に備えられて居ると言う”魔王知覚“に反応があり、最前線で戦う木ノ楊出流領軍所属五六八〇号殿、隣領文和からの援軍七八〇六号殿からも同様に連絡があった。
魔王へと進化した個体と現在も交戦中であり七八〇六号は中破し戦闘不能、五六八〇号は両の腕を失い継戦能力がゼロに近い事からの緊急救援要請が発せられたと王軍駐屯地にて待機中であった三騎の魔導騎殿達がこぞって訴えた。
「よおっし!これで大手を振って地元領軍のくそったれ共に加勢出来るぜぇっ!」
既に待機中であった王軍兵三千のうち千が今や遅しとばかりに整然と御代の街へと進み始めた。
木ノ楊出流の駐屯王軍は魔王出現事に全国から馳せ参じると誓った王国所属魔導騎の集結迄、木ノ楊出流を支え持ち堪えさせる為に配備された軍なのである。
自軍防衛線の内側へ紛れ込んで来た火の粉は払うが、魔物の大海嘯はあくまで地元領軍が対応すべき事象。領都が陥落でもしない限り自由に動いて良い軍勢ではない。
しかし、日頃交流を重ね切削琢磨を重ね友情を重ねて来た連中が最前戦で死闘を繰り広げている最中。
奥歯を噛み締めながら手をこまねいて見ていなければならなかった事態がやっと進展した。
今や士気は最高潮であった、木ノ楊出流本領の北端、霞村に配置する県軍駐屯も同じく呼応して進軍を始めた頃合いだ。
「四六八一八号殿、戦闘移行完了! 何時でも発進可能です!」
馬の胴に鎧騎士の上半身が乗る馬人型魔導騎四六八一八の操縦席へ昇る梯子へ足をかけ倉利州騎士爵は深く息を吐いた。
「ちちうえーーっ!」
『ご子息、間に合いましたな』
管理知能四六八一八号の言葉に。
「忝ない」微笑みを返す。
四六八一八号の傍らに佇む父の前に息を切らせた初捉先輩が駆け寄った。
「父上‥‥火急の要件とは‥‥如何に?」
父から言い使った王軍兵士からの呼び出しに馳せ参じた初捉胸前に倉利州騎士爵は腰の剣を抜き鞘ごとにずいと差し出した。
!
「父上‥‥これは、我が家の家宝‥‥」
震える声の初捉に
「うむ、“主上様ご下賜の剣”じゃ」
先祖が魔物共との大戦の折立てた功によりまだ国主となる前の主上様よりその場で履いていた帯剣を遣わされたと言う曰くを持つ、国宝級と言っても過言ではない宝剣である。
「わしはな、思い違いをしておった、
木ノ楊出流への出向を心の何処かで自分の騎士道を侮られたと……左遷だと思ってしまっていた。
そんな雑多な思惑こそが騎士の道として最も恥ずべき外道であったわ。
お前にも心配をかけた。わしの弱き心が酒を増やし、酔うことにてわしの弱い心を誤魔化して居ったようじゃ。
これからわしは己の不明を恥じ生命を賭して主上様の命に応えねばならぬ、でなければ主上様にもわしをこの天下の闘いの場に抜擢して頂いた現国王様にも合わせる顔が無いわ」
熱く語る父の
これが遺言だと 滲みぼやける父の姿を両の目に焼き付けんと瞬き。
眼の奥から滾々と尽きぬ男汗を払い一語一句たりとも聞き逃すまいと耳を立てる。
「お前と‥‥奥とも二度と相まみえることかなわぬ、その意気で出陣する故」
握っていた“主上様ご下賜の剣”を息子の胸に押し付け、しっかと握らせた。
「これをとらせる。
これまて善く勤めてくれた、酒に負けた至らぬ父を許してくれ」
初捉の身体をがしりと掻き抱く父の
その身体はこんなに小さく薄かったのかと
いや、幼少時父に抱きしめて貰ったあの時より、自分の身体が大きくなったのだ。
握らされた主上様ご下賜の宝剣がズシリ重い。
事実上の家督相承であった。
後ろ髪引かれる思いを断ち切り、一歩一歩に今生の思いを込め四六八一八の操縦席へと歩み進む。
「父上っ!」
搭乗口を閉じる瞬間の息子の声掛けに
「ご武運をっ!」
頷き返す。
発進する四六八一八号もチラと騎士爵子息を振り返る。
もしかなうならば、あの次代の騎士を我が身に騎装させ、数多戦場を掛けたいと管理知能は思った。
しかし、今は目の前の怨敵魔王を蹴散らすのみ。
「逝きますよ、騎士爵殿」
閉じた目をカッと見開く
「心のままに、……騎士道とは、死ぬことと見つけたり」
◇◆
がりり‥‥ガリ ボリ、ボリリ。
冒険者組合の奥、いつもは最奥に守られている金庫室は壁ごと破壊されていた。
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(たりねぇえええええええ もっと食わせろぉおおおおおおお)
天から地をも引き裂かんかと猛る翼を広げた持つ【闇王牙】はその浅黒い体を身悶え、小さく畳まれていた漆黒の翼を大きく広げその表面から大気中の魔素を多量に掻き集め吸収し損壊した魔物体を補修しながら更なる変形変身を促進して行く。
そしてその急激な身体の変化を支える為に更なる魔素の吸収を必要とした。
千年前に比べれば希薄となった現代大気中の魔素ではいくら掻き集めても全く足りない。
それよりはいくらかマシな生き物の心臓‥‥に連なる魔導器官を喰らってもまだ薄すぎる。
その魔物はたまたまなのか目の前に居た人間の女の魔導器官を喰らうよりも、近隣に色濃く感じる魔素の塊の方が早くに飢えを癒せると、その魔素の塊に向け歩を進めた。
その近場とは、冒険者組合の金庫室内部に蓄積された魔物達の魔石、斎藤達異世界の住人の呼ぶところの魔核をボリガリと食らい続けた。
◆◇
ガクガクブルブル
上慎の胸を咬み裂き臓器を喰らい血を啜ったその魔物は不羅毘の怨敵の亡骸をその場に打ち捨てた。
暫くその場に佇んだ魔物は血みどろの口元胸元を拭う事もなく、この世のもの物とは思えない魔獣の咆哮を上げる。
不羅毘はその場を動く事が出来なかった。
あの夜。自分の女としての尊厳を踏みにじった黒き魔獣の身体は今見ただけでもその時から二周り三周りも巨大化していたと言うのに。
咆哮と共に更に倍にも膨れあがり角も爪も翼も‥‥みるみるうちに伸び、尖り。
次第に先鋭化されて行く。
体内の生気、魂すら引き抜かれそうな程の圧力。
ギロリ。
その、赤黒く鈍く光る目が己を睨め付けたとき。
不羅毘は死をも忘れた。
その黒き魔獣‥‥魔人。いや、その禍々しくも人を超え獣を超えたその姿から溢れる威厳と存在感は。
【魔王】
その存在に名を付け、呼ぶとしたら。
それ以外の選択肢は無かった。
蠅でも舞ったかの様に不羅毘を一瞥したその存在は。
何かに気付き冒険者組合の奥へと向かい。
不羅毘の視界からその絶対的存在が消えた後に。
ベシャリ。
その場で付いた不羅毘の膝の下に水溜りが広がる。
不羅毘は己の股下が生温かいものにずぶ濡れている事に気が付いた。
いつも読んでくれてありがとうございます。
次回、はまだ書いてないので予告できない!? 再来週公開できるのか!?。
それでは皆様、よい週末を。




