111話 降臨
魔物が最も好むといわれているのは。
人の心臓辺りにあり魔法の発現を司ると言われている“魔導器官”。
そこに宿る魔法の源であるところの”体内魔素”。
いわゆる通常”魔力“と呼ばれている力。
一説によれば、濃密なる魔素の塊である魔物達は、それを食らい続けるうち現世に受肉するのだという。
(ぐおおおあおあおいおぃう! 魔核が足りねえぇぇ! ヨコセェェェエエ工!)
かなりの損傷を追ったスーパーオーガ改のアバターボディは修復再生の為体内に蓄積された魔素が欠乏し極端な飢餓状態に陥っていた。
極限までアバターボディとシンクロしていた斎藤の精神はボディの欲求に引っ張られた。
暴れ狂う人間の美味そうな魔導器官(心臓)に牙を立て。
喉を鳴らし甘露を喰む。
「くぎゃああああああああ! 救けてぇぇェエ! なぜ僕があああああああああああ! 理不じ‥‥」
ぶしゃあああああああ!
飢餓状態のオーガボディの目の前に居た憐れな獲物は直ぐに物言わぬ軀と化していた。運の悪いことだ。
恐怖の表情のまま目を剥いて事切れて居る白髪と化し悲鳴を上げていたのが白皮鎧の小僧だと気付いたかどうか。
スーパーオーガボディ改とシンクロし人の血の味と心臓を噛み潰す感触をしっかりと味わってしまった斎藤は。
流石に胸の奥から込み上げる嘔吐感に瞬間神経接続系を遮断した。
その隙を突かれた。
────ブロジェクトMA−0 魔王計画最終形態発動条件達成。
これより素体No.DRKOG008567進化プログラム起動する。
聞き慣れないナビの棒声に斎藤は自分の操作系接続が奪われている事に気がついた。
「おい、ナビ! 如何なってんだ!おい!
応えろナビ!」
沈黙が応えた。
◆◇
「‥‥五六八〇殿、この空間振動は‥‥」
前部装甲の大半が脱落し中破した七八〇六号が横たわったままに、両腕を失いながらも傍らに寄り添い七八〇六の魔石に魔力を送り続けている五六八〇号へ声を掛けた。
ぶるり
その赤銅色の装甲が慄えた。
「‥‥ですのー七八〇六どのー。ついに‥‥」
応急手当を受けた茶日琉・105はニ騎の会話に問う。
「如何された?ご両名」
「茶日琉殿約定の時が来た、姉君に伝えるべし」
「は?」
「れふてぃどのーおやかたさまにれんらくするのー」
「え?」
「「魔王再臨、約定に従い狼煙を上げよ」なのー」
◇◇
「父ちゃん!朝飯だょおおっ」
諏訪久の妹が比樽の元へ母から預かった朝飯の握り飯を持ってやってきた。
「おお」
修理中の弩を床に置握り飯をき受け取ろうと手を伸ばしかけた比樽は己の手が油で汚れている事に気付き娘に向かってガパッと大きく口を開いた。
何時も寡黙な父の何処か戯けた姿に笑いを嚙み殺しながら娘は握り飯を二つに割り片方をぽっかり開いた口腔へ放り込む。
むしゃむしゃと噛み砕き相当に腹が減っていた事に気付いたのか、もう片方も頬張ろうと口を開けたとき。
どやどやと人数の足音が聞こえて来た。
村神殿内に比樽が借りている故障した武器武具を直す為に部屋に、村の大人衆が姿を表した。
何処か気まずそうな表情の村の大人衆達は。
「あー‥‥比樽、お前以前からずっと神殿の武器武具を整備してくれてたんだってな‥‥お陰でなんとか魔物共を追い払う事が出来たよ‥‥その、今まで済まなかったな」
比樽は整備中の弩を下ろし名来流村の若衆代表。嘗ての子供戦で共に暴れた同級生の顔を見上げた。
「‥‥俺達お前が村を捨てて王都へ逃げたと思ってたんだ、後からご領主様の密命で魔導騎様を直すための修行に行ってたって聞いたんたが‥‥ずっと邪険にしちまってた手前、謝りづらくてな」
顔を真っ赤に染め頭を掻く大人衆。
「……そんなことより、魔物はどうなった?」
これまでのわだかまりなど何も無かったかのように問い返す比樽に大人衆はどこか戸惑いながらも。
「あ……ああ、峠の方から御代町へ向かって飛ぶ魔物に矢を射かけ数匹は落としたが、そのうち村神殿から次第に距離を取って飛ぶようになって矢は届かなくなった。
おかげで神殿の守りは大分楽になったけどな、御代町の方で何度か煙が上がっていた様子だが‥‥大丈夫だったんだろうか‥‥」
「‥‥お館様のご采配はワシらよう知っとる。あのお方を信じていれば間違いは無い」
自信を持って言い切る比樽の言葉に、往年の子供大将の面影を見い出し、大人衆達は頷いた。
────どン‥‥どドドドン‥
遠くから時告ぐるる大太鼓の音が響いて来た。何時になく腹の奥底へ響き染み入る太鼓の響き。
こんな緊急時にまで時報など鳴らさなくとも良さそうなものだが何故。
その認識は間違っていた。
緊急の時には大太鼓には時告る他に別の役割がある。
比樽を先頭に大人共は神殿の建屋を居出、太鼓の音に耳を傾ける。
‥‥あれは。
どン どン どっど どン
どン どン どっど どン
どン どン どっど どン どン どン どン
神妙なる面持ちで太鼓の響きに耳を傾けていた男たちの顔色が変わった。
どン どン どっど どン(五打)
どン どン どっど どン(五打)
どン どン どっど どン どン どン どン(八打)
「五ー五ー八だ!」
男たちは色めき立った。
鼓打で領内村々に伝う意味。全ての領民が知っていて、かつ誰もが耳にしたことの無い旋律。
五ー五ー八拍子。
それは即ち。
最早千年前の伝説として有り得ないものとされて来た。
太古の魔王の再臨。
それを告げる鼓打の旋律であった。
いつも読んでくれてありがとうございます。
次回 『112話 狼煙を上げろ』(仮)は再来週公開の予定です。
それでは皆様、よい週末を!




