106話 VS
「マスター、舐めプは危険です。至急の制圧を進言します」
「おいおい…補佐AIちゃんよ、お前いつからそんな饒舌になった?
向かってくる奴らは完膚なきまで叩きのめさなきゃ制圧も何もネェだろうが?
第一お前に任せた羽根つき魔物達はどうしたよ、街中で二・三か所火が出てるが順調に消火されちまってんじゃねぇか?
脚の遅い奴らを囮にして軍隊の主力を足止めしてる間に機動力の高い選抜組で攪乱、本命スーパーオーガボディで敵の本陣制圧しちまおうって作戦だったよな?
全然攪乱できてねぇじゃねえか」
「……想定外の伏兵に苦戦しており……」
「結果出してからモノを言え。オレに指図すんな、オレの要求に添うナビゲートをしろ」
「……承知しました」
斎藤は陸戦型パワードアーマー、魔動騎七八〇六号に目線をむけた。
魔動騎七八〇六号操者 茶日琉・105男爵子息も【闇王牙】を見やる。
「麗芙鄭殿、元は貴領の戦いなれど地上で相対しようと挑まれた故、魔物戦ではなく騎士の名誉をかけた死合いとして受け賜りたし」
茶日琉はいつも物静かに笑っている、どちらかと言えば麗芙鄭に近い文官タイプの方とみていた。
しかしその内に秘めたる闘志
「なるほど、耀導徒。亜瑠美奈・105の弟君は伊達ではない。承知しました騎士の習い故事後につきましては万事お任せ願いたい」
「かたじけなし」
茶日琉・105は今、己の心から故郷と妻子を切り捨てた。
「許せ」只一言詫びる。
「茶日琉殿、関節保護装置解除。駆動装置出力最高値設定、帰りの分の魔力は残しません。完璧に補助致します。ご存分に」
「いつもすまないね、七八〇六殿」
「いえ、いつも私の躯体を気遣っていただいて恐縮です。ですが、私も生涯一度ぐらいは」
ヴぉんっ!魔素返還器が唸る。
「全開でやってみたいと思っておりました」
【七八〇六】と【闇王牙】はどちらからとは無しに会い向き合い。
「某、シマノクニ王国が臣文和領は105男爵家嫡男茶日琉・105と申す者也。
貴殿の情けによる地上戦の選択感謝いたす、さればこちらも全力を持ってお相手せねば礼を失するというもの。
いざ尋常に死合をばお頼もうす」
外部音声で茶日琉の声が周囲に響き渡る。
スッと【七八〇六】号は頭を下げ立礼をした。
これで、この勝負が終わるまでは何人たりとも【闇王牙】に手を出すことは許されなくなった。
作戦としてでも不意打ちなど仕掛ければ武人の誇りを汚した者として105家から追われ、うち果たした後には茶日琉も腹を切る。そういう宣言だ。
信じられないことに
羽を背に畳んだ【闇王牙】が遅ればせながら同様に答礼を返した。
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(……オレは我流北辰門の斎藤! なんだかよくわからねぇが挑まれたら戦うのがオレの流儀だ、受けて立つぜ。……なんだかお前らの言ってることが判るようになっちまったなぁ)
相互に一歩前へ出る。
左腕を少し前に両手を軽く握り左足を前に少し重心を落としながら猫足立ちに近い構えの【闇王牙】。
前傾し歩幅を広く取り背中を丸め身体を引き締め小さく構える拳闘の近接戦体勢な【七八〇六】号。
互いに相名乗りを終え。
今、
異世界異種族異種格闘戦が
「はじめなのー!」
始まった。
◇◇
「ごめんなさい、戦っている最中に……どうしても声が聴きたくて」
「いいさ、教えてくれてありがとう、こっちを片づけたら大至急飛んでいくよ。そっちも戦ってる最中だろ、……その……美都莉愛」
「…諏訪久…」
「「死なないで」」
想いだけを告げ通話は途切れた。
今はそれぞれの闘いへ集中する。
思考を美都莉愛からの呼び出しが鳴る前に無理矢理戻す。
……これか!
美都莉愛の言っていた事こそが疑問への回答だった。
今、ボク達が……領軍主力部隊が戦っているこの魔物の本隊に見える集団が……いや実際に本隊なんだろうけれど。
魔物軍団そのものが領軍主力と魔動騎様達を引き付けて置く為の囮で一部機動力の高い精鋭達だけでこちらの監視を潜り抜け……。
兵站の要である本領を陥落させる。
「諏訪久……ちと急がねばならん様だ」
お館様も同じ考えに達したみたいだ。
「はい、お館様と一七ニ〇号様をここに貼り付けて置くこと自体が【大悪魔】の目的だと思います」
「うむ、それで間合いを取り時間稼ぎか。攻めあぐねて時間を浪費した分本領が危うくなり、尻尾を巻いて遁走すれば森に展開した本軍が蹂躪される。
可及的速やかに【大悪魔】を殲滅するのが最適解だな」
「はい、だからここは……」
ここは、危険を顧みてはいけないところだ。
立ち塞がってくれている一七ニ〇の背後からずぶり。
起き上がる、泥の中から。
【耐魔殻】
天に向かって掌を翳し起動した魔法に雨あられと雷光が降り注ぐ。
よかった、仕掛けてくれなけれぱ起動損になるところだった。
ほぼ同時に突撃した黄金の魔道騎一七ニ〇号の猛撃に【大悪魔】は後退った。
追撃の余裕なんか無いはずだ。
こっちだって余裕がないんだ、領都の皆を護るためには切れる手札は切らせて貰うよ。
ボクらの優位点。二対一、いや一+α対一で戦わせて貰う。
【飛空】で宙を舞い森の木の幹を蹴って二体の後を追う。流石に一七ニ〇の様に空は飛べないけれど身を軽くして足で蹴って跳ねる立体起動なら何とかなる。ぶつかりそうになったら【念動】で軌道を変える。
『諏訪久、悪魔系の魔物は光属性の攻撃に弱いはずだ、属性可変域を”光”に変えて牽制を頼む』
「了解!」
お館様の攻めの間に合わせて後の先潰しを狙う。
振り切った剣を躱したあと【大悪魔】が攻勢に出る瞬間を狙いすまし。
【光矢】
光の矢を生み出し手で直に投げつける。
弓を使うより射程は短いけれど牽制に使うなら十分だ。
どうだい、致命の剣戟を躱しながら攻めに転じる出鼻に合わせて削りに来られるってキツいよね。
正武先生の教えには二対一、一対二もしくは多対一や一対多での戦い方もあるんだよ。
案の定、【大悪魔】は防戦一方だ。
ボクの放つ光の矢も段々飛距離と集的率が上がっていく。
手で投げた矢に後から【念動】を使って見えない力を継ぎ足すコツが判ってきた。
矢の速度を一瞬落として払いのけたはずの矢を【大悪魔】の身体に突き当てたときの驚愕の視線が頭から離れない。
脳から熱い喜びが満ち溢れ達成感に包まれる、ヤバい。美都莉愛の射撃狂の事言えないや。
時折【大悪魔】もいつの間にかに拾った岩を飛ばしたり【炎の吐息】を放ってくるけれど。よく見ていれば投擲物は【念動】で弾けるし、【吐息】を吐く前には決まった予備動作があり体の中から微量の魔力を引っ張られる様な肌感覚が感じられるのが分かる。
戦場へ旅立つ前に美都莉愛から教わった魔法についての物語を思い出す。
その昔この世界は魔力に満ち溢れていたのだという。
それこそ、一七ニ〇が生まれた時代には。人は見えない翼を持ち、鳥より高く飛び、指で岩を持てた。
魔法とはそれこそ貴族でなくともあまねく万民に備わった力だったらしい。
その力は、魔物と呼ばれる魔法生物が跳梁跋扈を始め世界中に広がるに合わせて次第に衰えついには魔法を使えるのは貴族と呼ばれる魔素・魔力に強い親和性を持つ一部の人々だけになってしまった。
それでも昔ほど色濃くなくても未だ魔法の元。魔素は貴族であれば昔の奇跡を再現できる程度には世界に残されているのだという。
魔物は “魔石”に書き込まれた「命令」に従って極限まで濃縮され具現化した魔素により構成された疑似生物なのだそうだ。
その疑似生命活動を停止させる程の損壊を与えれば構成していた魔素は霧散し空気中へ帰る。
但し、魔物を構成する核となる“魔石”は個別に破壊しない残り再度魔素を吸収し一定以上の魔素を蓄えた後再度命令に従った形態をとり疑似生命活動を再開する。
魔石加工とは魔石の中に埋め込まれた魔物生成の命令を削り取り魔力の蓄積と放出の性質のみを利用するための作業にほかならない。
そんな魔素を利用するときの動きが肌で感じ取れるというのも不思議な感覚だ。
猿の様に森に木々の間を飛び回る【大悪魔】を追い。だんびらで切りかかれどすんでのところで躱される。
これは一七ニ〇とお館様の腕でなく相手が上手すぎるんだ。
メキメキメキと音を立てお館様に切り払われた樹木が倒れていく。
もう既に大分の森が切り開かれ広場の様に夜空に星空が広がりを見せる。
東の空は薄白く色を替えつつあった。
不意に【大悪魔】が足を滑らせた。
ある程度の行動類型を読んだ所で足元に【土礫】と【水口】とで練った泥を具現化してみました。
【大悪魔】は見事に引っかかってくれた。
隙きは逃さず。お館様の金紗池の太刀は真っ直ぐ【大悪魔】に振り下ろされた。
今日はこっちもあるのです!
次回 107話『再々戦』(仮)は再来週公開の予定です。
それでは皆様、よい週末を!




