105話 領都炎上
「火事だぁああああっ!」
「火を消せぇえ!」
「魔物だっ魔物が居るぞっ」
遠くから領軍の領都守備部隊か、領民の自警団かはたまた冒険者の集団かの怒号が飛び交う。
街中で何か所からか火の手が上がっていた。
(やっとか! 遅いし、ショボい)苦虫を噛み潰したかのような表情で斎藤は二、三か所立ち昇る炎と煙を見やる。
そんな斎藤の視界の端に幾筋かの光の帯がかかる
サーチライト(電気があるのか?)の光に紛れ込むように向かってきた魔法の矢は
(残念だったな、弓女。)
変異スーパーオーガ改の目に施された魔力感知フィルターにより看破されていた。
斎藤の視界の大外から回り込むように接近する三条の光の矢を視線も向けず良き時機に片手の一払いで叩き落とす。
(攻撃する方の無力感を誘い戦意を削ぐのも戦争のうちだしな。弓女の精神がそれで折れるかは知らんが)
矢の軌跡をさかしまに辿り弓女の位置を特定した、視認しづらいが一度捉えれば補佐AIにマーキングさせフィルタリングをかけいつでも位置を追跡できるようにして置く。
輪郭はスーパーオーガの視界の中にグラフィック表示させておこう、傍らには杖使い女も健在だ。魔法小僧の姿だけが見えない。
斎藤は”魔法小僧”の姿を探した。
(アイツが一番のトリックスターなんだ警戒するにこしたとはない)
他の兵士が使っていない特殊兵装を装備してまで最前線にしゃしゃり出てきた弓使いと杖使いの二人。彼女奴等もこの村の領主の親族か上位に位置する要人なのだろうと斎藤は推測する。
二、三回しか撃てなかったはずの光る矢の連発もその特殊兵装の機能だと考えていい。
緊急事態とみて虎の子の希少装備引っ張り出してきてるんだろうと予測する。
一般現地人が雑魚ではなくレアで強力な魔物に対抗できる追加装備が豊富にあるならばとっくに魔物の掃討戦に使われているはずだから。
(抵抗する連中の戦意を削ぐ為に裸に剥いて吊るすのはお前達でもいいかもな)
理想は三木がウルフボディであの塔のある建物に侵入した時、責任者の体を醸したという女。
多分建物の中のどこかに居て指揮を執っているはず。だがわざわざ見つけ出すのは面倒臭い。
(裸に剥いた後で門の上あたりでスーパーオーガの肉オ○ホにでもして泣き叫ばせてやれば魔法小僧も血相変えて飛び出してくるか?
それとも
○から杖で○刺にして門の前に飾ってやった方が心を折れるか)
……ふぅぅ。
斎藤は深く息を吐いた。
(なぜ俺はあの小僧がこんなに気になる?)
先般の戦いで魔法小僧はダークオークボディを魔核も残さず焼き尽くした例の炎の魔法を使わなかった。
それから考えればあの魔法は前提条件のクリアが難しく簡単には撃てないか一回こっきり使い切りの何かに違いない。
よしんば、再度使えたとしても斎藤の繰るこのスーパーオーガ改の敵では無さそうだが。
だがこんなにイラつくのは何故だ?
蟹蛸の伸びるパンチ(片手)をかわしながら
陸戦型のインファイトなフックを受け流しつつ、足にロー(キック)を叩き込んで距離を取る。
『警告、魔法の矢接近』
「けっ」
再び飛んでくる矢を叩き落とす。あきらめろや弓女。
再び視線を向け弓女の姿を捉える。
暗闇で弓は見えないがこちらへ突き出す左拳。
よく見れば足元がふらついているじゃぁねぇか。
傍らの杖使いも弓女をカバーする位置でじっとこちらを見据えている。
黒く味気ないフェイスガードの下から焼けつくような視線と食いしばる口元が透けて見える様だ。
◆◇
万事休す。
羽搏き大空から降り立った【変異闇王牙】に打つ手がなかった。
麗芙鄭有手倉はギリと歯をかみしめる。
飛空系魔物の襲来を想定していなかった訳ではない。
対空用の大型弩砲や投石機は飛空系の【翼手竜】を想定しているもので軽快に飛び交う人間大の魔物を狙って落とす様な代物ではなかった。
現在中央神殿の倉庫から搬出の最中だろうが配備が間に合っていたとしても空を飛ぶ【変異闇王牙】にどこまで通用するものか。
前線に気を取られ過ぎた嫌いもあるが魔物の首魁が少数の供回りだけ連れて前線を突破し単身こちらの喉元に刃を突き付けて来ようなどと事前に想像できた者がいるだろうか?
木ノ楊出流では八八二三〇号が対空戦を全面的に請け負っていたことも対空防御に穴があったことの原因かも知れないが現在それを悔やんでも意味が無い、ない袖は振れないのだ。
◇◇
「ひがりよぉぉおっつ」
喉の奥から血の味を感じながらも美都莉愛・木ノ楊出流は【変異闇王牙】との距離を計り本日何度目かの光の矢を番えていた。
先日まで……魔導衣を手に入れるまで一日に二本までしかまともに射ることの叶わなかった己の貴族としての存在証明である【光矢】。
魔力こそ魔導衣を介し外部からの補てんで間に合わせているものの。
その一矢一矢を撃ち放つには極度の集中に神経を削られ、相応の体力を消耗しなければならなかった。
一気に複数本の矢を同時に具現化し軌道操作で当てに行くという荒業まで身に着けた。
しかし。
足元がふらつき平衡を崩してしまい途中まで形成した光の矢が雲散霧消してしまう。
「お嬢様っ!」
莉夢が駆け寄り美都莉愛を支える。
「無茶です……これ以上は……」莉夢もついぞ口走ってしまった。
莉夢の腕にすがり、体勢を立て直した美都莉愛は小さく首を横に振った。
「ダメよ……ここは皆が帰ってくる場所なの剣後にいる私たちが、今奴に打撃を与えられる私があきらめたらそこで戦は終わってしまう」
美都莉愛は胸に手を当てた。
必ず帰ってくるから故郷を頼むと言い残し、最前線へ向かったあの人から預かった大切なお守り。
『きっと君を守ってくれるから』
手渡された時の諏訪久のにかむ笑顔が蘇る。
「魔力ある限り戦います。この命、燃え尽きたとしても」するりと言葉が出た。
微笑んだ美都莉愛の肩を掴み魔力を込めながら莉夢が頷いた。
「申し訳ありません、私の方が先に弱音を吐くなどあってはならないことでした」
莉夢も自分の闘いを見つけた。
「でも……【闇王牙】を地面に張り付けておく方法がある?正武先生は最前線、叔父さまも麗芙鄭の魔動騎様も空戦は得意でない……光よぉおおおおっ」
左拳を突き出し【闇王牙】を見据え再び光が集結し矢の形を形成し始める。
莉夢は何があっても美都莉愛を守り抜くと心に決め杖を構えた。
「不肖にも空を舞う魔物を引き落とす術は不明ですが、魔物討伐の時は撒き餌を捲いて魔物を招き寄せたりもします、その……【小鬼】や【大躯】を引き寄せるために討伐隊の女が裸になったり……」
微妙な間が流れた。
「それだわ……導き給えっつ!」ふらつきながらも【光矢】を放つ美都莉愛。
「は?」
「魔導灯の光を一か所に集めるのよ。あたしそこで踊りながら服を脱ぐわ。
古代の神話にあるもの、たしか女勇者がそれでエッチな邪竜を引き寄せて討つのよ」
「……効きますか?【闇王牙】に」
莉夢は囮の話しをしたことを少し後悔した。
「だって……アイツ……その……洞窟の中で女たちを抱いてたんでしょう? 少なくとも裸の女には気を引かれるはずよ試してみる価値はあるわ! よく見ようとして攻撃の届くところまで近づいてくればこっちのものよ」
いや、そこじゃなく。
「領民や兵達にも見られますよ?」
「……領民を守る時間を稼げるなら安いモノよ!」
そう語る美都莉愛の笑顔は蒼白く、体は小刻みに震えていた。
「……お嬢様……」ため息をつきながら莉夢が告げた。
「私が先に脱ぎます」
そんな素人ストリップの相談を知ってか知らずか。空気を読まない斎藤=【闇王牙】はゆっくりと七八〇六号・五六八〇号 両騎へと歩み寄っていく。
【闇王牙】は七八〇六号・五六八〇号交互に視線を投げる。
「茶日琉殿…これは」
【闇王牙】の意を計りかねた麗芙鄭が戦歴の長い茶日琉に問うた。
「…麗芙鄭殿、まずは我が参りましょう」 七八〇六号が一歩足を進めた。
新たに生えた羽は未だ背中にたたまれたまま。
七八〇六号を見据えた【闇王牙】は笑ったかのようにその牙を剥き出した。
こっちも忘れていませんよ!
次回 『106話 VS』(仮)は再来週公開の予定です。
それでは皆様、よいGWを!




