103話 再戦
(ああ、オレ死んだわ。すまん奈兎、子供たちを頼むよ)
中央神殿の門の破壊を試みていた【闇王牙】の視線がギロリとこちらを向いた。
目があった。
場瑠部は死を覚悟した。
(ちくしょうめ! でもわずかでも門を破る時間を引き延ばしてやる)
木ノ楊出流のご先祖様とその魔導騎様に相打ったバケモンに向かって行くのだ、命懸けは想定の範囲内。
(願わくばこの僅かに稼いだ時間で木ノ楊出流にとって良い風が吹きますように)
場瑠部を見つめまっすぐ不乱の歩を進める【闇王牙】の視線をガッツリと真正面に視線を受けにやりと笑う。
背中に回した手の先で背後の弓隊に“散れ”と手信号を出す。
背後がどよめいた。
(早く散れって巻き添え食うぞ)
迫り来る【闇王牙】。
場瑠部の頭を砕きに振るわれる拳。現役時代、防御不敗と謳われた赤の肩当てを斜に構え迎え撃つ。
(ああ、もう一度嫁ちゃんにあいてぇ)
不退転の決意で迎える鬼の形相を赤銅色の衝立が遮った。
ずん! 音が響き。軽く地面が揺れた。
「すまねぇ! 麗芙鄭、助かった!」思わず昔の呼び方で呼んでしまった。
―――――間一髪。
「なんの! 一つぐらいは借りを返せましたか? センパイ」
「やめてくれぇ! 家令サマ、小便チビるところだったヮ! 」
克ての後輩に素直に対【闇王牙】の最前席を譲る。
(適材適所【闇王牙】を相手しようなんざ生身の人間が考えていいことじゃねぇ)
場瑠部よ、先ほどの自分は何だったと云うのか。
下がりながら弓隊を纏め五六八〇号への援護体制をとる。
【闇王牙】相手に命を張った場瑠部の奇跡の生還に弓兵たちの士気も爆上がりだ。
【闇王牙】が門から離れたのを見て取った中央神殿守備隊の面々も門の上部へ駆け上りこちらも弓を構え迎撃の準備を始めた。
この門を越えられたら避難している御代町の住人・入院患者・新生児たち千を越える人々の命を危険に晒すこととなる。
命に代えても抜かれる訳にはいかなかった。
縺翫♀縺」縺ィ縺峨?∬淹陋ク?∽サ募?繧顔峩縺励→縺ッ諱舌l蜈・縺」縺溘?―――――。
(おおっとぉ、蟹蛸! 仕切り直しとは恐れ入った。だが両腕でも勝てなかったオレに片手でどうすると?)
【闇王牙】はその長い舌をだらりと垂れ下げ。小首を傾げながら笑った。
左の片腕のみの三本爪を振りかざし、数度開閉を繰り返す五六八〇号。
「せんとうでぇたにあいついるのー、でも。ふたまわりくらいおっきくなってちからもはやさも”にわり”ましなのー」
“わらし”のナビゲートにぶるると武者震い麗芙鄭は笑った。
「ふっ!十七代目さまが相打ち、“木ノ楊出流の白い巨熊“が攻めあぐねた大敵。
まともにやったらて勝てる気がしないな、だがなわらし弱卒には弱卒の戦い方と言う物があるのだ。
不本意やもしれんがこれからは慣れて貰うことになる。 頼むよ」
麗芙鄭はともすれば早まり詰まりそうな呼吸をあえて深くゆっくり行うことを意識し冷静な思考を心がけた。
一触即発の間でにらみ合う【闇王牙】と五六八〇号。
【闇王牙】からは あと半歩必殺の間合いに不足。
五六八〇号が左腕を伸ばせば届くものの、その初撃を外せば内懐に入られ操縦席に致命の反撃が入るは必定。
推して一撃必殺を狙うべきだがそれを許してもらえるほどの格闘経験が麗芙鄭にはなかった。
だが、しかし。
繝ウ?溘◎縺?°縲√※繧√∞莉イ髢薙?蟶ー驍?r蠕?▲縺ヲ繝、繧ャ繧九↑?―――――。
(ン?そうか、てめぇ仲間の帰還を待ってヤガるな?)
麗芙鄭の狙いはいきなりバレた。
縺ゥ縺」縺。縺ョ髯」蝟カ繧よ凾髢鍋ィシ縺弱°縲?擇逋ス繧後∞縲―――――。
(そっちの陣営も時間稼ぎか、面白れぇ。どうやら向うの戦場にもお前らの方のエースが出張ってるみたいじゃねぇか?
大型が子供のオモチャみたいに潰されまくってるって三木の奴が喜々として連絡よこしやがった。
本命食えるって大喜びだ。しゃあねぇ、これまでオレが使ってた最強アバターを委譲してきたんだ、あいつがあのアバターボディ使って負ける訳が無いからな。
おれは粛々とこっちの“みそっかす”で我慢するとしよう。)
斎藤は無理にでも構成に出ようとするりと半歩前足を擦りだした。
突然視界が暗黒転した。
「!」
反射的に正中線と前面の急所を両の腕で守った。同時に同位置に痛烈な衝撃を受け【闇王牙】の身体が宙に舞った。
五六八〇号の赤銅色の前突きが炸裂していた。
「合成魔法【泥水浴】」
「どりるくらしゃぁぱぁぁんちぃ なのー」
【水】と【土】一見地味な魔法だが異なる二つの魔法を同時起動することにより戦局をも変える必殺の“目潰し”を麗芙鄭は放った。
続けて真正面から五六八〇渾身の回転破壊鉄槌を受け弾き飛ばされた【闇王牙】は何軒もの民家や商店を破壊し数軒先の建物に背中から突っ込んでいた。
縺薙s縺ョ縺峨?√d縺」縺ヲ縺上l繧九?ゅ□縺後>縺?●縺??―――――。
(こんのぉ、やってくれる。だがいいぜぇ、守るためになりふり構わずキタナイ手でも何でも使う。侵攻される側ってのはそうでなくっちゃあイケねぇよ。
それを挫いて攻めるのが攻める側の醍醐味ってやつだろう?なぁそうは思わんか?)
返答が無いのは承知の上。幾度となく拳をかわし合った蟹蛸に斎藤は語り掛ける。
ふと、先の闘いで斎藤の名を呼ばれ思わず集中力を欠かされた出来事を思い出した。
縺薙▲縺。縺ョ繧?▽繧峨→縺ッ隧ア縺碁?壹§縺ェ縺?▲縺ヲ縺ョ縺悟鴻―――――。
(こっちのやつらとは話が通じないってのが千年来の通説だったはずだが、ひょろい白鎧のクソ小僧といい金の小粒の何やかと言い定説外のことが起こりやがる)
目にこびり付いた泥の目隠しを払った瞬間に間合いを詰めた蟹蛸の拳が目前にあった。
身を固め体の硬い所で受け、蟹蛸の拳の勢いに乗るように足をけり出す。
派手に吹っ飛んでいるように見えるが実ダメージは大したことはない。それにしても。
縺ゅ?蝪比サ倥″蟒コ螻九d縺ッ繧雁ソ??諡?繧頑園縺九?―――――。
(あの塔付き建屋やはり心の拠り所か。自らの町を何軒破壊してでも躊躇なく俺を遠ざけようとしているって事は)
斎藤の口元が笑いに歪む。最強アバターボディとのシンクロ率かうなぎ登りに上がっていく。
縺ェ繧峨?菴呵ィ医↓縺カ縺」縺薙o縺励◆縺上↑繧九g縺ェ縺√≠縺ゑシ!
(ならば余計にぶっこわしたくなるょなぁああ!)
右足を軸に左足を踏みだす、脇下からひねる様に打ち出す右拳はもう読み切った赤銅の蟹蛸の伸びる左正拳突きを真正面最も破壊力の乗る一点で捉えた。
ごぉん
鈍い音と共に打ち負けた赤銅の拳を伝って本体は押し戻され、均衡を失った五六八〇号は背後の民家を押しつぶし尻もちをついた恰好となった。
重機の拳を人間大の魔物が打つ返した構図はあり得ない光景にも思えるが。それだけ【闇王牙】が高密度の魔素で構成されているという事を端的に示した事象でもある。
【闇王牙】のこの情報は既に木ノ楊出流領軍幹部及び国家上位機関に伝達共有され県域国域の賢者たちが今後の対策のための研究を始ている頃だろう。
今行われている闘いも貴重な標本となる。 が、今はまだ対応策は五里霧中と言ってもいい。
そんな中、【闇王牙】を排除しなければ住民のひいては木ノ楊出流の未来はない。
再度湖の中に沈め時間を稼ぐにしてもここ御代の町から湖までははるかに遠い。
そして水中からも時間さえかければ復帰できる事も確定してしまった。
別個体の可能性も考えられるが過去の例から考えれば希少魔物が二体ほぼ同時に出現する方が珍しい。
何より五六八〇の伸びる腕に対応してくるのが早すぎた。
五六八〇号と一度戦ったことがある、湖に沈んだ個体と考える方がより現実的だった。
そしてもしこいつが本当にもう一体いたとしたら。
多分木ノ楊出流は終わりだろう。
倒れている五六八〇に駆け寄る【闇王牙】。
起き上がっている時間などない、構造が複雑で最も無防備ともいえる股関節をさらしている状態。五六八〇大危機。
でもなかった。
「五六八〇(いろは)!大回転!」
叫ぶと同時に麗芙鄭は残された左腕を操作し器用に五六八〇号本体を片手倒立させた。
倒立しながら頭部回転の要領で回転する四本の足を【闇王牙】へ向けて牽制。
【闇王牙】の突進を止めて見せた。片手で跳ね同時に立ち上がり回転を維持したままの左腕を【闇王牙】にしこたま叩き込む。再び、三度弾き飛ばされる【闇王牙】。
「!♪!♪!♪!のーっ!♪!♪!♪」“わらし”の歓声が上がった。
「“わらし”こんなん はーじーめーてー♪」
五六八〇号は四本の脚で拍子を取りながら上半身を回転させ、周囲の建物を巻き込み破砕しながらも【闇王牙】に肉薄してゆく。
「いいのー いいのー のってきたぁのぉー♪」
直接戦闘能力こそ父親には劣るものの麗芙鄭・有手倉の騎操もまた一種の天才の仕業であった。
乱雑に建物を破壊音を捲き散らかし近寄る五六八〇に身構えた【闇王牙】を、横合いか突進してきたら黒い塊が轢き跳ね飛ばした。
繧薙□縺」縺、縺ィ縺翫♂縺峨♂!
(んだっつとおぉぉぉ!)
宙を舞いながら斎藤=【闇王牙】の見たものは。
これもまた周囲の建屋をなぎ倒しながら横滑り停止した黒の戦車が人型に変形しつつ立ち上がる場面であった。
同時に突然視界に飛び込んできた黒き仮面の悪役女傑姿の振り下ろす長杖が顔面を下から。いや、斎藤自身がさかしまな状態なので、莉夢からすれば全体重をのせた長杖を振り下ろし顔面に叩きつけた。反動で反転しながらブワリと魔導細外套を落下傘代わりに広げスタリと着地したその脇には。
「光りよ…」
同じく漆黒の仮面をかぶった英雌の斎藤を指さしまっすぐに伸ばされた左腕とそれに添う輝き。
一閃
寸分たがわず。落ち行く斎藤の顔面の未来位置に向かって突き進む彗星の煌めき。
「女神の彗星弾!」
輝ける彗星が【闇王牙】の顔面に吸い込まれていった。
「七八〇六号!屹立!」
続いて七八〇六号の変形完了の掛け声に神殿の壁の内側からどよめきに続きと歓喜の声が沸き上がった
木ノ楊出流の未来の領主を迎えるためにと数時前守りを外した隣領の魔動騎。
領主可汎・Ⅵ・木ノ楊出流の義弟にして領主妻、旧姓亜瑠美奈・105の弟君、茶日琉・105卿の帰着を意味する声だったからだ。
即ち、もう若様。鄭湛・木ノ楊出流の未来を紡ぐ存在の安全が確保されたことを意味した。
木ノ楊出流の未来は護られた。
今のところは。
お待たせしました。
地味に読者の方増えてきて嬉しいです。
次回 『104話 変身』(仮)は再来週公開の予定です。
それでは皆様、よい週末を!




