101話 導く光
「なによりも……幼馴染みの……我が主の涙顔など見たくは無いのですよ」
ボソリと小さく囁き壬玲は踵を返した。
「お頼み申す!四八〇殿」
足速に進む四八〇号に【竜人】は再び炎の吐息を吹き付けるべく構えた。
すんでに加速し飛び掛かった四八〇号と縺れ絡み合いながらも放った炎の吐息は峠の谷側の空を焼き、何度か四八〇号の顔を焦がすもその翡翠の仮面をひるますには及ばず。
羽ばたき飛ぼうとする【竜人】に身を解き索の蛇と化した四八〇号が絡みつく。
「今のうちに通りましょう」
額から一筋の汗を垂らし息の荒い壬玲を鄭湛と九濫躯が両側から支え引きずるように歩き出した。
その時だった。
遥か遠く道の先から飛来れり。
輝ける一筋の流れ星。
何者かに導かれるかの様にその軌道はうねり時には上昇し。
!gishuaaaaaaaaa!
光の軌跡は直前に身を捻り躱したかに見えた【竜人】の肩口に突き刺さり鱗を裂きその流星の輝きを半ばまでえぐり込ませていた。
「美都莉愛!」
鄭湛はその光の矢の放ち主の名を叫ぶ。
ぅ゛ぅ゛ぅ゛ゔ ゔ ゔ ゔゔゔゔゔ!
遠くから次第に近づく機械音に混ざる風切りの音に更に何がが飛んで来る。
ひゅおぅーーー
一陣の風に乗り月明かりの下黒い影が転がる。
数回の前転から流れる様に立ち上がり低い姿勢のまま走り寄る黒い影は勢いを殺さず手に持つ長杖の先端を【竜人】の腰部急所へ叩き込んだ。
gyushuaaaaaaaaa!
思わずたたらを踏んだ【竜人】の顔面に、地を突いた杖を支点にトンボを切りながら踵蹴りを浴びせつつ反動で反転し間合いをとる。
「死捨間?!蜻蛉切り!」
壬玲が驚嘆の声を上げる。過去一度だけ見学したことのある西方騎士の秘儀が目の前で再現されていた。
―――――ヨルナヨルナ 槍ニハヨルナ。
gyushuaaaaaaaaa!
立ち上がった黒い長身の影は腰を落とし長杖を構えつつ片手の指先をチョイチョイと煽り言い放った。
「こい、羽根トカゲ」暗闇の中 凛と冴えわたる女の声。
gyushuaaaaaaaaa!!!
潰された鼻面を抑えながら威嚇する【竜人】の口腔に漆黒の矢羽が生える。
「ぁぁぁぁ」
どこからか女の叫び声と共に石と金属の擦過音が響いてきた。
「ぃさ.ァァァ.ぁあ」
峠の先から月の明かりに照らされ現れ出でたる姿は。
【陸制級戦術魔導戦騎 管理魔導知能№ 七八〇六号】
無限軌道で砂塵を巻き上げ突き進むその上に人形の上半身その鎧装甲に脚を掛けるこれもまた黒い人影。
その黒衣の人影の突き出された前腕から放たれる闇色の死は【竜人】の目を持ってしても直前まで見切ることは叶わない様子であった。
先に着地した長杖使いの猛攻をいなしながら躱したはずの矢羽が直前僅かに軌道を変えて突き立たる。
なんたる理不尽。
gyushuaaaaaaaaa
「美都莉愛とは?」操作に余裕ができたのか壬玲が鄭湛に問うた。
「私の妹にございますが弓をよくするもののここまでの神がかり的な……それに闇の矢はあやつの持ち魔法に非ず、しかしあの声の張り様は正しく我が妹……いやはやなんとも」
困惑の面持ちで語る鄭湛。
「あの陸戦型魔導騎は……」
「あれは隣領文和の105男爵家が魔導騎七八〇六号殿、恐らく叔父茶日琉・105が騎装しているものに違いありませぬ。後詰援軍に来ていたものと思われますが、もしや、我らの救援に……」
それ以上言葉にならなかった。
剣後の護りを置いてまで自分らの救援に駆けつけてくれるとはなんたるかな。
戦略としては愚策と言えたが援軍を受けた側からすれば正に暗闇の中道開く光明。
鼻の奥からツンとこみ上げてくるものを堪えながら鄭湛は檄を飛ばした。
「我ら万にも勝る援軍を得たり!木偶人形共を蹴散らし領都へ参ろうぞ!」
いまこそが勝機だ。
「「「「応!!!!!」」」」
鄭湛の下知に供回り衆、県軍が一斉に【石小鬼】を追い始めた。
牽制の弓矢、槍、礫の攻めに一体、また一体と落ちて行く【石小鬼】。
「お兄ぃさまぁ!」
七八〇六号から飛び降りた美都莉愛はやはり前転で転がりながら勢いを殺し起き上がりざまに至近距離から【竜人】の顎下に【光矢】を叩きこんだ。
「七八〇六号、屹立!」
キリキリキリ…と金属音をまき散らしながら七八〇六号の無限軌道前面装甲部が真っ二つに分かれ立ち上がりながら魔導騎の脚部へと変形していく。
移動形態から格闘戦形態へとその姿を変えつつ、同時に振り回した腕に巻き込まれ二体の【石小鬼】が砕け落ちた。
「間に合ったな様だな、鄭湛」ナパーム号から響く叔父茶日琉・105の声に。
「かたじけのう御座います!叔父上」【石小鬼】を牽制しながら答える。
「美都莉愛!莉夢!援軍!有難し!」
弓も無く無手で【光矢】を放つ黒づくめの魔導戦士と同じく長身の長杖使いにあたりを付けて声をかける。
無弓の射手がちらと鄭湛を見、親指を立てた。
二発しか撃てないはずの【光矢】を何度も放っている事や【闇矢】の事。長杖が噂に聞く”黒衣の未亡人”こと莉夢・木ノ楊出流であろうかと、聞きたいことは五万とあったが今はこの場を切り抜ける事を最優先に考える。
「翡翠の魔導騎殿操者殿に申し上げる、噂にに聞く四八〇男爵家縁の方とお見受けする」
七八〇六号から茶日琉・105の声が響く。
「いかにも!四八〇男爵家嫡男、壬玲にござりまする」壬玲も応と答える。
「見らば御前に捕縛せし獲物、御手柄横から攫うは不本意なれど今は緊急時、とどめの栄誉某に譲り給う訳にはござらぬか?」
(意訳:あなたが捕まえてる魔物、横殴りは無作法だけど今ヤバみだから殺っちゃっていい?)
「これは願ってもない!某の腕には余る怨敵、動きを止めるが精一杯にござりまする。如何様にも宜しくお願い奉り候」
「かたじけなし、しからば御免」
横殴りの許可を得た茶日琉・105は 七八〇六号の前腕を伸ばしその五本の指でがっしりと【竜人】の頭部を掴んだ。
身を捩り声を荒げ叫び暴れる【竜人】。
翡翠色の策と解けた四八〇号が四肢とその翼に巻き付いて居るが故に事由に身動きが取れないのだ。
赤子の腕を捻るより簡単なお仕事。
茶日琉が叫ぶ
「杭打!」
轟音と共に七八〇六号の前腕下部に付属した機構から【爆裂】の威力によって打ち出された槍の穂先が【竜人】の下顎から咽喉部にかけての広範囲を貫き飛ばした。
【竜人】即死。
一瞬の出来事に一同は言葉を無くした。
「いやぁ通常なら捕獲するまでが一苦労なのです、四八〇殿に押さえて頂いた故の勝利です、言わば貰い首同然。討伐の栄誉は四八〇殿に」
「いやはや、105殿に援軍頂けなければ危ない所でした【竜人】討伐の栄誉は七八〇六号殿105殿にございます」
嗚呼、美しきかな、譲り合いソラ。
「まだ【石小鬼】がおります! 騎士同士の掛け合いは後に!」無弓の射手が声を上げた。
そう言いながら不可視の弓を引き絞り放つ。
悪魔系魔物に特効を持つ”光の矢”で【石小鬼】を一体、また一体と屠っている。
そんな乱戦模様に更に七八〇六号の後ろから駆けつけてきた援軍。
抜剣隊二個小隊も加わり魔物の集団は一気に鎮圧された。
「ありがとう、美都莉愛」
「兄さま、ご無事で」
半年ぶりの再会に兄妹はその場で抱きしめ合った。
魔導衣の面頬を上げ素顔を晒した美都莉愛に
壬玲・四八〇は”はっ”と息を飲んだ。
「て、鄭湛殿、こちらのご婦人は…」
食い気味に言う壬玲のこの言動は些少無作法ではあった。
初対面の貴族、特に男女は通常仲介者の紹介の後言葉を交わすのが通例。
戦闘中などは例外とされることもあるが現在は戦局は落ち着いている。
この場合壬玲は仲介者である鄭湛に”早く紹介してよ”とせっついた事になる。
「おお、失礼した、こちらは我が妹…」紹介しようとした鄭湛を美都莉愛の片手が制した。
「美…木ノ楊出流お嬢様っ!」
美都莉愛の面頬の奥から男子の声が漏れてくる。
「?誰?麗芙鄭じゃないわね?」面頬裏の内部表示には麗芙鄭の所持魔導小板からの通話を示す文字記号が表示されていた。
「かっ…鳫間ですぅっ」今にも泣きそうな声が聞こえてきた。
「御代町中に上級魔物出現の報により家令様も場瑠部さんも出払ってしまいましたぁっ!
若様ご帰還までつなげと言われて…でも無理ですぅ!
おたすけくらさいぃぃおじょうさまぁあああああ」
二週間早いですね。なかなかストックが増えません。
でもここの所新規読み始め最後まで読んでいただける方が増えて嬉しいです
油断するとすぐ1000PV行ってしまうので嬉しい悲鳴です。
1000PV毎の閑話挿入もペースを考えないとですね。
次回はさ来週更新の予定となります。皆様またお会いしましょう。
更新情報は「活動報告」とツイッターで流します。
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頑張りますので今後もよろしくお願いします。
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