100話 四八〇
パリン―――――。
玻璃の板が割れたかの音が鄭湛に空耳した。
鄭湛と壬玲、横隣の空を割り現れいでたるその御姿は。
翡翠の翠に煌めく外骨格に深紅の赤く丸い双眸を持つ。
召喚型試作魔導騎四八〇号。
一七ニ〇号以前に魔物に対抗しうる戦力を求め魔物の魔石を加工することにより魔物と同等の力を持ちかつ人が操る事を目指し作られた試作型魔導騎の一。
千年前の大戦においては試作ながらその携行性と中級以下の魔物に対しては無双を誇るほどの戦力は主に魔導士隊の守護魔導騎として活躍した。
龍種赤竜と緑竜の大魔石を組み合わせて創られたという。失われた技術の古代の秘宝。
その名騎四八〇号を現代に受継ぎその名を性に冠する一族。
それが氣・琵庵侯爵家付き護衛。四八〇男爵家。
「み、壬玲殿…こ、これは」
鄭湛の声が上ずったとしても致し方ない事だろう。
千年前の伝説の名魔導騎が目の前で騎装…いや騎聘されているのだ。
「ハハッ、氣・琵庵侯爵閣下も父も承知の上で我に託されたのですよ、我らが姫を守る為に。
ただ、四八〇号殿がここにあると広まれば本国の侯爵閣下の護衛が薄くなっていることが知れ渡ります、このことはご内密に願いたい」
まるで継馬を貸すかのような気軽さで告げる壬玲。
「鄭湛殿、恥ずかしながら我の未熟故四八〇号殿を繰っている最中はいささか己の護りが疎かになり申す、かたじけないが私の背中を任せしたい」
震える声を隠しもせず鄭湛は頷いた。
「当然です、皆分かっているな? 壬玲殿をお守りするぞ、壬玲殿の魔導騎殿が力を存分に発揮できるよう援護体制をとる。このことに付いては我が木ノ楊出流の名にかけて他言を禁ずる」
他言するなれば刀の錆になる覚悟をせよ。
そう、言い切った。
俯いた深紅の目が刹那輝きを増し首をもたげた。身の丈七尺(2m強)の細身の偉丈夫は鄭湛を中心とした集団の先頭に向け右腕を翳す。
先頭の供回り衆は宙を舞い動きの速い【石小鬼】に翻弄され、なかなかに決定打が打てない。
「修斗! 」
壬玲の声と共に索に解けた四八〇号の右腕は螺旋の軌跡を描きながら細身の槍となりてその翡翠の穂先で【石小鬼】の胸を貫いた。
一撃のもとに胸の魔石を砕かれた【石小鬼】は落下し一度地に当たり跳ねた後と仰向けに虚空をにらみピクリとも動かない。
石像に戻ったようだ。
それを確認した周囲の【石小鬼】は突如現れた脅威に死の危険を感じ取ったのか集団から距離を取らざるおえなかった様子。
「今だ、進むぞ! 」
僅かに緩まった【石小鬼】包囲網にすかさず九濫躯・出翁礼が前進の指示を出す。
集団はやっとのことで御代町への道のりを歩み始めることが叶った。
怪我を負った戦友を中心に集めゆっくりと地を踏みしめ進みゆく。
「修斗ッ! 」
牽制のためか近づいた【石小鬼】が二体目の石像と化した。今だ十数体の【石小鬼】は宙に舞い圧力をかけてくる。一瞬たりとも気を抜けない。
”七曲り”の難所を中程迄過ぎた辺りだろうか。
「前方!何かいる!」
九濫躯・出翁礼の叫びと一筋の紅蓮の炎が集団の先頭に浴びせかけられたのは殆ど同時だったろうか。
kishaaaaaaaaaaaa!!
gigagiiiiiiiii!!
「【火球】! 」「修斗ォ! 」
半ば反射的に九濫躯を押しのけ先頭に躍り出た鄭湛は【火球】を【炎の吐息】に叩きつけ相殺した。魔法学校での訓練の賜物であったろう。
同時に鄭湛の傍らに落下する【石小鬼】。
すかさず九濫躯は短槍をその胸に穿ちとどめを刺す。
突出した鄭湛に襲い掛かった【石小鬼】を四八〇号の翡翠の槍が叩き落としたものだ。
「すみません! 若」「かたじけない! 壬玲殿」詫びる二人に壬玲は
「鄭湛殿、九濫躯殿、全ては終わった後に致しましょう。それに……」
先頭の二人の上を飛び越え最前列へ飛び出した翡翠色の魔動騎の払い退けた腕に横一線真っ二つに裂けた【石小鬼】が落ちる。
「少し手ごたえのある魔物も居るようです」
集団の前方【炎の吐息】の発生点の辺りに、雲間から漏れた月の明かりが差す。
その姿は。
「…【竜人】」
見た目は鱗の肌を持つ【蜥蜴人】に近いが外観上の大きな違いはその背中に生える大きな翼。
より【竜】に近く竜語魔法を繰る事もできる。
【炎の吐息】も竜語魔法の一つだ。そしてその戦闘力は一軍を持って当たるべきとされる。
護衛魔動騎+操者、魔導士、供回り衆(約二個分隊)、県軍一個小隊。圧倒的に戦力が足りず。
峠道では部隊も展開できない上遮蔽物もない。
「困りましたね、多分四八〇号殿では少々役者不足かもしれません」
壬玲の言葉に余裕が無くなってきていた。
【蜥蜴人】ならまだしも【竜人】相手では護衛用魔導騎では荷が重過ぎた。
【竜人】はやや首をかしげ、こちらの様子を伺っている。
先頭に躍り出た四八〇号の能力を計りかねているといったところか。
ふぅぅ
深く息を吐き。壬玲・四八〇が語る。
「九濫躯殿、ここは建設的に参りましょう。
全滅するよりは些少の犠牲で切り抜けた方が理性的と言う物、四八〇号殿でトカゲを抑え道を開けます、全軍全速で走り抜けて下さい」
「駄目です、壬玲殿! 自らを犠牲にするつもりですね! 我が領の為に侯爵家重鎮の方に其処までして頂く道理が無い行くなら共にです! 」食って掛かる鄭湛に
「申し訳ない、鄭湛殿には申しておりません、判っていますね? 九濫躯殿」
夜目にも蒼い顔をした九濫躯は無言で頷いた。
「駄目です! 貴方には里亜珠様を御守りするという大義があります! 此処で失って良い命では無い」
血相を変えて叫ぶ鄭湛に壬玲は微笑んだ
「大丈夫です、四八〇号殿を【竜人】に巻き付けて谷から落とします。極度の集中を要します私の身体は部下の方々に運ばせて頂きたい」
鄭湛は絶句した。
「……お、同じです!千年前の名魔導騎を失えば貴方もタダでは済まない……! 」
「此処で死んでしまえばそれも同じ事です、もし、この首繋がるような事があらば身一つで鄭湛殿を訪ねて参りましょう、その時は食客としてこの領に滞在を許されたし。
その未来実現の為には貴方を無事に帰さねばなりませんな、私の将来のパトロン殿」
カラカラと笑う壬玲・四八〇男爵令息に周囲は息を呑んだ。
キリ番話なのに主人公もヒロインも出ないあたりDarjackクオリティな訳です。
早く斎藤さん仕上げないと閑話間に合わない~
次回はさ来週更新の予定となります。
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