99話 峠越え
お待たせしました。
魔物の跳梁跋扈する夜半の街道峠越えはあまりにも危険すぎると県軍の部隊長殿には止められた。
しかし、自領の有事に身の安全を図るなど領主家嫡男の所業ではないと無理に出立した。
せめてもの護衛にと県軍の一個小隊を無理繰りに引き抜き、鄭湛に付けてくれた部隊長の厚情が身に染みる。
夜の峠越えに馬は危険すぎて使えないため鄭湛は徒士で供回り衆県軍小隊と共に霞村から木ノ楊出流へ向けて進んでいる。
半年ほど前、隣国太守御息女の留学警護にてこの峠を越えそのまま県魔導学校へ入学したのが昨日のことのように思い出される。
同時にあの日鄭湛の魔法を打ち消した庶民の子供の事も蘇ってくる。
(……我が魔法に怯え失禁していたあやつが今や我が義弟とは…)
鄭湛は苦笑うしかなかった。
「鄭湛殿、覚えておりますか? 半年ほども前にこの峠に牛車を止め、絶景の馳走に預かりましたな」
夜の峠を越えながらも息も乱さず笑顔で語りかける同道者に謝意を表す。
「誠にかたじけない壬玲殿、我が領難にご助力預かり感謝に耐えませぬ」
「なんの我が主里亜珠婦絽祁菟様のご下命あればこそ、それに共に切磋琢磨する学友の力になれるのです男冥利に尽きるというものですよ」
カッカッカッと闊達に笑う御仁壬玲・四八〇男爵令息。
四八〇男爵家と言えば遡れば祖は冠覇仁王呂帝国にまで辿れる名家中の名家、同じ男爵家と言えども木ノ楊出流とは格が違った。
その護衛の御縁で氣・琵庵侯爵令嬢様からも懇意にされ、今や御学友衆の一人として取巻く事を許され上級貴族の知己も増えた。
片田舎の男爵子息としては稀なる恵まれた環境で学生生活を送らせて貰っている。
壬玲・四八〇は主より鄭湛を無事送り届ける役目を仰せつかった。
一県の太守侯爵家息女が自身の持つ最高戦力を帰郷の護衛にと付けてくれたのだ。
事が終われば領を上げて鄭湛一世一代の歓待をせねば収まりがつかない。
里亜珠婦絽祁菟・氣・琵庵侯爵令嬢様より既に「里亜珠」と愛称で呼ぶ事を許されていた鄭湛は。
周りの御仁から「もげろ」と意味不明の声を掛けられているのだが里亜珠様の覚えめでたき事の揶揄だと思いただひたすら恐縮する次第。
余りの感激に次の長期休暇には是非木ノ楊出流領にお招きし父母からもご厚情の御礼をさせて頂きたいと願い出た所。
「お、お義父様お義母様にご紹介していただけるのですね? 大変うれしく思います」
と、顔を真っ赤にして存外な程に喜ばれ、大都市である隣県の太守令嬢ともなればひなびた片田舎の町等目新しき事なども無かろうに、里亜珠様の心遣いに鄭湛もまた心打たれたのであったがその思惑とは全く関係ない所で外堀が埋まりつつあるのはまた別の話。
不意に。
先頭を行く鄭湛付供回り衆筆頭従者九濫躯・出翁礼……正武・出翁礼騎士爵の息子……が全隊に停止の合図を出した。
そろそろ、この峠最大の難所”七曲り”に差し掛かる辺りであった。
更に感覚を研ぎ澄ます鄭湛。
いる……。
壬玲・四八〇男爵令息も何かに気が付いたようだった。
「おりますな…」吐息の様な囁きに頷き返す鄭湛。
共に腰の剣の鯉口を切っていた。
ガサ……。
パキ……ペキ……。
前方から聞こえてくる。山の枯れ下生えを踏みしだく音。
供回り衆は音もたてず担いだ半弓をするりと抜き構える。
後方の県軍小隊も無言の隊長合図により抜剣する。
聴覚に集注し周囲の静寂に耳を澄ませていたときだった。
gigigigigiiiii!!
「うおっああああああああ!」
最後尾の県軍小隊々員の悲鳴が上がった。
「前だ!鄭湛殿!」
後ろを振り向こうとした瞬間、壬玲の声に思いとどまった。お陰で右手の山肌から踊りかかって来る子供ほどの大きさの影に気付くことが叶った。
ガキン!
反射的に振るった剣が重く硬いモノに衝突し火花を散らす。僅かに刃こぼれを起こしたことまでが感じ取れた。
予想外の重さに押され体勢を崩したが足りない分はすかさず蹴り上げた前足で補う。
「硬いぞ!石並だ!」鄭湛の声に供回り衆の半数は構えた半弓を捨て斧と戦棍に得物を切り替えた。
「これは、待伏せられましたな」どこか楽し気にも聞こえる壬玲の声に鄭湛は臍を噛んだ。
―――――この魔物【石小鬼】か!?。
【石小鬼】は主に魔導迷宮内に出現する魔物。
小鬼と付いているが【小鬼】よりは【業礼無】に近い。
頑丈だが鈍重な【業礼無】よりは翼を持ち小さく小回りの利く【石小鬼】の方が敵としては厄介だ。
県都の魔導迷宮で魔導学校の学生同士で組んだ集団で何度か応対したことがある。こいつらは会敵直前まで石像化しているため気配が全く読めない。
まさか自領内で一度も発見報告の無い魔物が待伏せて居るとは露にも思わず完全に油断していた。
山肌から谷側の道下から飛び立つ【石小鬼】に周囲を囲まれてしまっていた。
「後衛は防衛に専念! 前衛は進路を切り開らけ! 木ノ楊出流軍本隊迄魔物共を引っ張る!」
恐怖、不安に捕らわれる前に目的を持たせ士気を保つ。
防御しつつ移動、殲滅は大部隊に任せる。
咄嗟に発した鄭湛の下知に。
「応!!」
全隊が応える。
鄭湛を中心に【石小鬼】共を牽制しながら少しずつ動き始める。
まだ、先は長いがここで魔物共の殲滅を試みるよりは生き残る確率は高そうだ。
しかし相手は自由に空を飛び回り、ただでさえ夜半で視界は悪い。
周囲から不意に襲い掛かってくる魔物に一人また一人と倒れていく。
「……このままではジリ貧ですな、出し惜しみをしている場合ではなさそうだ」
流石に緊張した声の壬玲。
「すみませぬ。貴殿の命まで危険に晒してしまった、私の不覚です」
普通の貴族は簡単に謝らないと言うのに。
鄭湛の謝罪に壬玲は笑いながら応えた。
「貴殿のそういう貴族らしからぬところが主の心に刺さるのかもしれませんな。
鄭湛殿、願わくばこれから起きる事は内密に願いたい」
「壬玲殿?」
先程から僅かに噛み合わぬ話に気が付いているのか否か、鄭湛は壬玲と相互に背中を護りながらに道の両外側に向け剣を構え、部隊全体の動きに合わせ御代の町に向けてジリジリと進んでいる。
背中合わせの鄭湛からは見えない位置で壬玲は懐からソレを取り出した。
石なのか金属なのか材質不明の仮面。
その額に埋め込まれた大きな紅と翠の宝石模細工……削り出した魔石のはまったソレを己の顔面へと押し付ける。
鄭湛の背後で壬玲の魔力が膨れ上がった。
「騎聘! 四八〇」
い・い・わ・け
すみません。二週間のご無沙汰でした。
一応言い訳言わせてください。(知らんがなの方は↓の★まで飛ばしてもらって結構です)
基本この物語は可変型長期プロットと短期プロットをキャラの行動に合わせ作っている訳ですが。
可変型プロットの弱点として物語を進めていくうちに長期プロットと矛盾する話が出来てしまう事がありまして。
三万文字程あった書き溜めのうち一万文字程書き直す必要が出てしまっていた訳です。
(黒なんとかの所為ではありません)
今年に入ってからどうにも話が進まず書き溜めを食いつぶしながら来たわけですが何とか先へ進む目途がついたものの今度は書き溜めが苦しいことになっております。
私事ではありますが書き上げたお話は二週間ほど置いて読み直してから公開という形にしておりますのでこのままだとジリ貧な訳です。
そこで毎回更新ごとにお読みいただいております諸兄には大変心苦しいお願いではございますが、書き溜めが貯まるまで暫くの間隔週更新とさせていただきたいと考えております。
底辺物書きのくせになんともおこがましいお願いではございますがよろしくお願いいたします。
エタりはせん、エタりはせんぞぉ~。
★
次回はさ来週更新の予定となります。
更新情報は「活動報告」とツイッターで流します。
https://twitter.com/DarJack51
頑張りますので今後もよろしくお願いします。
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