98話 ある日森の中であった
「【小悪魔】かどうかまでは判らないが魔物の集団で間違いない様です」
莉夢の言葉に美都莉愛の背筋は震えた。
通報した冒険者集団と共に件の森付近へ接近した美都莉愛と莉夢。
莉夢は格闘衣に接続した魔導小板の【捜索】を起動した。
そう、美都莉愛と莉夢の魔導小板にはいくつかの簡易な魔法機能が内包されていた。
諏訪久の真の庇護者、魔導知能№一七ニ〇号様のお導きによるものである。
思えば家令の麗芙鄭が常用し、洗礼の儀の時神官様達に貸し出されていた魔導小板には【鑑定】が内包されていたに違いない。
正直、これは現在のシマノクニ王国ではとてもまずい情報である。
例えば、魔力だけが豊富で魔法技能を持たない莉夢の様な庶民でも魔法機能が内包された魔導小板さえ持てば貴族以上の魔法行使が可能だと知れ渡ってしまったら。
【鑑定】や【捜索】等の魔導小板で代行できる技能のみで貴族を名乗っている方々の存在意義がゲフンゲフン。
全国数万の貴族達に自己存在価値の崩壊を予感させたりすればまさに命がいくつあっても足りようはずもない。ご先祖様の加護と失われた古代の秘宝の機能のおかげと喧伝しておくのが貴族のタシナミという所だろう。
とにかく、格闘衣や魔導細外套の恩恵でほぼ無限に魔力を回復できる莉夢が簡易版とはいえ魔法技能を行使できるということは強力な利点だった。
おかげで、対象の北の森に侵入することもなく遠方から【捜索】を起動することによって魔物の存在は掌握することが叶った。
「麗芙鄭、ビンゴよ、索敵に引っかかった魔物の数だけで約三十余」
美都莉愛は面頬の通話機能で家令の魔導小板に向けそう告げた。
「了解しました、駆逐部隊を差し向けます。すみませんが引き続き監視をお願いします」
「り…了解」思わず耀導徒第二内部の隠語が出そうになった。
麗芙鄭との通信を切った後。美都莉愛は発見者の女斥候の手を取り。
「ありがとう、貴方のお陰で無辜の領民の死傷を未然に防げたわ」心からの礼を告げた。
「うっ…」女斥候は美都莉愛の感謝の意に思わず涙ぐんだ。
「えへへ…そいつ、孔雀草に入ってる親友を耀導徒第二に助けて貰ったって、今回絶対役に立つんだって張り切ってたから……口下手なのは許してやってくんな」
冒険者集団代表の男が口添えした。
不羅毘達を探索した時にも参加した構成員だったようだ。
それにしてもこの三十以上もの【小悪魔】共は何処から沸いたものか。通常【小悪魔】は魔導迷宮の中層以降に出現する魔物である。基本こんな市街地に隣接する森に居るはずがない。
見た目は蝙蝠の羽を持ち体表の黒い【小鬼】、耐久度も【小鬼】並ではあるものの空を飛び回り簡易な魔法、主に精神系に作用する魔法を使う。
物理攻撃に【呪詛】の効果が乗るのは悪魔系魔物共通の特徴。とにかく【小鬼】よりは数倍厄介な魔物である。一体であっても戦闘経験のない人間が相対すれば死から逃れられないことは明白。
夜中とはいえ通常魔導迷宮外に居るはずがない悪魔系魔物が市街地に隣接する森の中で人間も襲わず集団で大人しくたむろしている意味について。
本当なら美都莉愛か莉夢が気付くべきであった、というのは酷なのかもしれない。
元々てんでんばらばらに動くはずの魔物が統率された集団行動をとることの意味を。
程なく領内守備に残っていた駆逐部隊。領軍二個小隊が到着した。
音を立てない様に接近してきた部隊長に大体の【小悪魔】の位置を伝達。夜目が効く者を中心に編成したものの夜間に矢を射れる者は極端に少ない。
美都莉愛だって面頬の暗視機能がなければ無理だ。
部隊長達と相談し耀導徒第二も作戦に協力することとなった。
冒険者たちは安全圏まで下がらせ、万が一の事態のとき司令本部への情報伝達を頼んだ。
相手は魔物、夜目が効く。ゆっくりと、慎重に近づく。
「光よ…導き給え!」タメは短く、女神の弩速射。
闇夜の森の中を駆け抜ける一瞬の光の矢。
逃げようした一体の【小悪魔】の腹にカーブしながら突き立った光矢の軌跡は、森の中を飛ぶ【小悪魔】共の影姿を浮かびあがらせる。
kiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii!
【小悪魔】の悲鳴に呼応するかのように駆逐部隊二個小隊から矢が放たれる。美都莉愛の【光矢】を松明の灯り代わりに。
kii!kiiiiii!
kikiiii!
光源を放った格好の標的、美都莉愛に襲い掛かろうと降下してきた【小悪魔】の首筋を莉夢の長杖が旋回しながら叩き落とし喉を踏みつぶす。
一瞬の躊躇もない。
美都莉愛に【小悪魔】共を引き付ける事も策のうちだ。
「うおっ!」
「ぐはぁっ!」
精神魔法を抵抗し損ねたのか、攻撃を受け【呪詛】に侵されたのか、小隊の面々と思しき悲鳴が上がる。
後方から魔導探照灯が輝き、【小悪魔】の影を照らす。
襲い掛かって来る【小悪魔】を抜剣隊が迎え撃つ。森の中は乱戦状態となった。
何体かは森の奥に逃げた様だが深追いはできない。方向的には名来流村の方になるが知らせる術はない、名来流村の避難施設の警備体制に不備がない事を祈るばかりだ。
名来流村?
ここ、御代町の北の森に潜むということは魔物は名来流村の中を通過してきたと言うことだ。
けれど名来流村からは救援の要請も魔物襲来の合図も来ていないということは名来流の避難所は襲われていないということなのだろうけれど名来流村には何処から魔物は来たのか?
ここで美都莉愛は気が付いた、名来流村と霞村を繋ぐ街道の…かつて【闇王牙】率いる百鬼夜行が永遠の尊多と邂逅した”七曲り”の山道からしかないではないか。
そこなら霞村の県駐屯軍に気付かれずに通り抜けられる。この魔物たちが【闇王牙】の率いる魔物軍団なのだとしたら。領軍と県軍の間を縫って街道まで出られる道筋を知っていたとしてもなんの不思議もない。
恐らく魔物の侵攻点は街道七曲り。
そして、霞村県駐屯地に魔導騎三騎と県兵一千を送り届けた兄、鄭湛はわずかな供回り衆と共にこの夜中でも強行に街道の峠を越えて来るであろう。
美都莉愛は震える指先で麗芙鄭・有手倉への通信回線を繋いだ。
すみません。来週の更新は諸事情の為お休み致します。
次回はさ来週更新の予定です。
更新情報は「活動報告」とツイッターで流します。
https://twitter.com/DarJack51
頑張りますので今後もよろしくお願いします。




