97話 夜の街に
ドーン ドンドン ドーン
ドーン ドンドン ドーン
町中に響く退避太鼓。
カーン カンカン カーン
カーン カンカン カーン
合わせるように半鐘が村々で打ち鳴らされる。
魔物襲来、領民退避の合図だ。
半年に一度の訓練とは違う、今回は事前通告なしの本物の避難命令。
木ノ楊出流領内の各町村はそれぞれの決められた避難場所。
大概は村や町の中央付近に作られた塀の高い神殿、地域の学校や診療所を併設した籠城施設へと移動を始める。
必要最低限の荷物を持ち全町村民が整然と非難し集まっていく。
この時ばかりは町村内に屯している流民や通りすがりの旅人…幸か不幸か、魔物出現騒ぎで街道の利用は少なく余所者の人数は最小限ではあったが。彼らも強制的に避難施設へ誘導される。
一応名目は流民や旅人の保護ではあるものの美名だけの部外者保護という訳でもない。
有体に言えば流民や旅人は火事場泥棒予備軍扱いされていると言うことだ。
領軍以外の領民の男衆で結成する自警団は主に無人となった町村内を巡回し火事場泥棒を働く輩を取り締まる等治安維持活動を行う。
勿論、魔物侵入の際には避難施設に立て籠もり防衛戦の一翼を担う。
冒険者達は町の冒険者組合に集合する。
冒険者組合自体が元々魔物進入時の攻撃拠点としての設計がなされているのだ。
有事の際は冒険者達も職員も対魔物戦の一翼を担う事が義務付けられている。
冒険者組合は自警団と連携協力を行い地域内の治安維持に努めると共に魔物進入の際は領軍を補佐しその撃退に協力する。
もちろん相応の収入と保障が約束されており。顕著な働きが認められた場合望むならば非領民であっても領民登録を許される場合もある、これは戦える流民に対しても適用される。
そして、領主館。
こちらの使用人達はその殆どが怪我等により一線を退いた元領軍の出身である。
長距離行軍には耐えられないが防衛戦に限れば現役時代に劣らぬ戦闘力を望める。
この面々の守り抜く領主館こそが魔物を迎え撃つ木ノ楊出流領軍の要。
木ノ楊出流領内長渡支領領主にして。木ノ楊出流家家令。そして木ノ楊出流騎士団、通称”木楊団”の作戦司令官。
麗芙鄭・有手倉騎士爵の陣取る領軍の司令塔であった。
本来はここに領主可汎・Ⅵ・木ノ楊出流を配し最強魔導騎一七ニ〇号を最後の要とすべきところではあるが有手倉家所有の魔動騎五六八〇号が主を失ったことから情報入力を受け付けぬ自閉症状態に陥っており、自由な作戦行動が取れなくなってしまっていた。
より現実的な対応策として領主旗騎である一七ニ〇号を前線に出し五六八〇号を後詰に残すことにより木ノ楊出流としての面目を保ち、その実は領主の妻亜瑠美奈の実弟、茶日琉・105に実質の守りの要を頼むというなんとも余裕のない布陣を敷かねばならぬ事態。
国軍、県軍も両翼を抑えてくれているが正面は木ノ楊出流の本隊が担わねばならない。
「若は…鄭湛は未だ着かないか…」麗芙鄭・有手倉騎士爵は珍しく感情を露わに呟いた。
「はっ、荷駄隊は富嶽和領へ留め置き、県軍魔動騎三騎、兵一千と共に長渡支領糸女を進行中との報が入っております、あと半日はかからぬものかと」
麗芙鄭付き補佐官としての地位を確立しつつある鳫間が答えた。
「麗芙鄭、前線は少しづつ後退しているわ、どこかで補給交代してあげないと兵が持たない」
忍者偵察部隊からの報告を莉夢と共に取りまとめ逐次報告してくる美都莉愛。
解ってはいる、解ってはいるが。
こんな侵攻の仕方をする大海嘯等聞いたことがない。
これではまるで魔導院で学んだ主上様…シマノクニ初代王が戦った魔王軍の再来ではないか。
おそらく魔物の数にも限界があり、最後には総数に勝る人間が勝つのであろうが。
その時木ノ楊出流が擦り潰され民が蹂躪されていると言うのでは全く意味がない。
鄭湛の先導する魔導騎三騎と県軍一千は霞村の県軍駐屯地へ入り現在右翼を固めている県軍二千の補強に入る。援軍とは言え指揮権は木ノ楊出流側にはない、できるのはお願いだけだ。
所詮は当事者ではない彼らにとっては命を懸けてまで積極的に大海嘯を止める義務はない。これは雨田の駐屯国軍も一緒だ。
両翼が守勢をよくし抜かれずに魔物に背後を突かれないだけでも十分に感謝しなければならないのは判っている。
(…主上様のお言葉通り、国県共に万の軍勢であれば…)
とも思うがそれはいま語っても仕方のない事だ。今ある戦力で何とかするしかないのだ。
どやどやと廊下が騒がしくなる。
ドンドンと扉をノックする音がすると返事を待たずに開いたドアから場瑠部が顔を出した。
「すまねえ!麗芙鄭!…様」肩当が朱塗りの革鎧な場瑠部がしまったという表情。
「今は緊急事態だ、昔通りで構わんよ上官殿」どこかホッとした表情で麗芙鄭が笑った。
「わりぃな!家令様。こいつらがどうしてもお嬢に合わせてくれって」
いつもより生き生きとした表情の場瑠部が肩越しに親指で後ろ指すのは、並ぶ耀導徒第二友好冒険者集団の面々。
「あ、あんたに伝えたいことがある、その、信じてくれるか?」顔を真っ赤にした代表格の男が口を開いた。
「いいわ、言ってみて」美都莉愛が促すと冒険者達が語り始めたのは。
「町の北側の森に複数の魔物が潜んでいる?」
「そうだ、自警団の連中と手分けして町中の警備に回ってた時にウチの斥候が気が付いた、ここいらじゃ見た事ねぇ魔物だったらしい、結構な数だったらしくて戦わずに逃げてきたって」
作戦指令室…件の会議室ではあるのだが…内の面子は色めき立った。
「…バカな…北の森ってことは県軍二千の目をすり抜けてきたと言う事になる…」憮然とした表情の麗芙鄭。
「チッ」冒険者達の後方から軽い舌打ちの音が聞こえた。
「だから、俺らの話じゃ信じて貰えないって…」ぼそぼそとつぶやく声が後方から微かに響く。
美都莉愛は気にしたそぶりも見せず。
「その魔物、どんな姿かたちをしていたの?数は?」代表格の男の後ろに隠れる様にして居た小柄な女冒険者に問うた。
その女冒険者は一瞬身を固くしたが美都莉愛の優し気な微笑にたどたどしくも語り始めた。
「最初、夜中に飛んでる変な鳥を追って行ったんだ、そしたら森の中で………」
女斥候の言によれば。
【小鬼】程度の大きさ。真っ黒な体色。同じく黒い蝙蝠様の翼を持っている。数は数えていないが複数の気配は感じるという。
「【小悪魔】だ…」麗芙鄭は魔物図鑑に載っている魔物の名を上げた。
次回は来週更新の予定です。
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