愛し子、目標ができる。
ドレスを受け取る為に来た帰り道。
興奮しすぎたからか、オリヴィアはすやすやと寝り始めてしまった。
うちの馬車は座り心地が良いお高いやつだけど、流石に寝るのには不向きそう。
オリヴィアのお尻やら首やらを保護するように蕾で柔らかいクッションを作り、床につかなくてぷらぷらと馬車に合わせて揺れている足を蔦で作った台で固定してあげる。
うんうん、これで良し。
可愛い妹の寝顔を見ると、つい顔が緩んでしまう。
花係は別のところに乗っているから様子は分からないが、きっと袋の中はまた花だらけだろう。
はぁ、植物を操れるのは使いどころがあるからいいけど、笑ったら草伸びちゃうのどうにかならないかな。
今の所この力で得たこと1回も無いし。
この前 神にこれなんか意味あるの?って聞いたら
『マアマア、ソレハ ソウイウ ヤツなんダカラ 仕方ないヨネー。ソレカ、コッチ(神の元)ニ 帰ッテクル?辛イ?』
って言ってたよな。
つまり、私のコレは泣いたら鼻水が出るのと同じように、
【無い方が有難い、でも避けては通れないもの】という位置付けにあるものだと理解した。
ちなみに私は神の元に帰るつもりはさらさらない。食事が美味しくて、優しい人ばっかりで、可愛い妹(天使)がいるこんな生活を手放す訳にはいかないのだ。
1人で首を捻り対策を考えていると、オリヴィアの隣に座っているクローディアさんが険しい顔をしているのが見えた。
大丈夫かな?馬車酔いしちゃった?
進行方向と逆に座ってると酔いやすいもんね。
「クローディアさん、どうかなさいましたか?」
私は一旦悩むのをやめてクローディアさんに声を掛けてみる。
馬車のクッションにゲロリンパされたらたまったもんじゃないからね。
クローディアさんは眉間に皺を寄せたままこちらを見ると、聞き取れるかどうかという程の小さな声でこう囁いた。
「笑う度に植物が伸びるなんて気味悪いわ。」
確かに。
「こんな子が義娘なんて、私はなんて不幸なんでしょう。」
確かに!
「貴女なんて、二度と笑わなければ良いんだわ!」
確かにその通りだわ!
私が笑わなければ、花は垂れ流し状態にならない!
こんな人騒がせな能力、封印しちゃえば良いのね。
私が口に出した訳でも無い悩みを察知して、的確なアドバイスを出し、しかもそのアドバイスの切り口が大胆でわかりやすい。
しかも『気味が悪い』等、自分の意見を述べることで、『この力で困ってるのは貴女だけではないわ。一緒にがんばりましょう?』と遠回しに応援してくれているのだ!
お見逸れいりました!
流石クローディア様、いや、師匠!
今までオリヴィアみたいな可愛くて優しい子を産めるだなんて前世でどんな善行を積んできたのかしらと思っていたけど、こりゃ産まれちゃいますわ!
こんな人を選ぶだなんて、お父様も見る目あるなァ!このこのォ!
私の中でのクローディアさんの株は爆上がりだ。
「クローディア様、ご指摘ありがとうございます!私、頑張りますわ!」
「は?」
こうしちゃおれん、今から、私の新しい人生の幕開けだッ!
家に着き、馬車から降りると、すぐさま蔦を呼び出して爆速でお父様の書斎まで運んでもらう。
マイルールでは、意識的に出す草花は笑うと出る花とは違い自分でコントロール出来るのでokなのだ。
〔ソンナダサイ 技名ツケルナヨ!〕
神がなんか言った気がしたが、気にしない気にしない。
頬が風を切る感触が心地よく、つい笑みがこぼれてしまいそうになるが、キュッと気を引き締めてなんとか耐えた。
「お父様っ!私、生まれ変わりましたわ!
どこが変わったかわかりますか!?」
書斎のドアを開けるのとほぼ同時に、お父様に問掛けると、ゆったりとした返事が帰ってきた。
「シャーロットおかえり。んー、どこだろう、もしかしてそれは新しい髪飾りかい?」
お父様の目は節穴なの?
「お父様、ヒントは顔!ですわ!」
「顔、んー、何かなぁ?」
「ヒント2、表情!」
「えっと、怒って…る…?」
「惜しい!それでは最終ヒント行きますわよ!
むーひょーうー?」
「じょう?」
「正解!」
半ば無理矢理だが、お父様がなんとか正解したことに満足する私。
「私、もう笑わないことに決めましたの!」
「…それは、どうしてだい?シャーロット」
「笑う度に花が咲いてしまうなんて、おしめに糞尿を垂れ流す赤子と同じようなもの!
私は一皮剥けるのです!
これは修行なのですわ!お父様!」
なんか主人公、だいぶアホですね。
もっと賢くする予定だったのに。
さて、次回はオリヴィアちゃん視点です。