愛し子、服に揉まれる。
今日は、殿下との顔合わせ用のドレスを貰いに街中に来た。
何故『買う』ではなく『貰う』なのかって?
それはドレスは国から無料で支給されるから。
そりゃそうだ。国が決めた王子と愛し子の結婚だもの。こちら(うちの家)で費用を用意しろって言うなら、こんな婚約こっちから願い下げよ。
ただでさえクローディアさんのお金の使い方が荒めだから、少し心配し始めてる所なのに。
父は気にも止めてないみたいだから、それで我が家が財政難になるって事は無さそうだけど。
馬車でゴトゴト揺られて来た先は、王家御用達の仕立て屋さん。
ドアを潜ると、店の中には子供サイズの豪華なドレスだらけ!
どういうこと?
子供用ドレス専門店なのかな?
私がキョロキョロとせわしなくドレスを見渡していると、奥から店員さんが出てきた。
「ようこそいらっしゃいましたね!
あらあらまあ可愛い愛し子様ですこと!
お気に召すドレスはありますか?
緑の愛し子様だとお聞きしたから、グリーンのドレスを多めに用意したのですが…
可愛らしいお方だからピンクの方が似合うかもしれませんねぇ!」
おう、なかなか押しが強そうな店員さんだなぁ…
というか、え?
私に用意されたドレスって1着だけじゃないの?
もしかして、この膨大な数の中から1着に絞らなきゃならないってこと?
「まぁ!どれも素敵なドレスですこと!シャーロットちゃん、よかったわねぇ!」
「わあ!きれいなドレスがたくさん!
すてきね!おかあさま!」
後ろからクローディアさんとオリヴィアのはしゃぐ声が聞こえる。
仕事で来られないお父様の代わりに付いてきてくれたのだ。
『ドレスを選ぶんですもの!連れて行くなら女性(私)の方が絶対良いに決まってるわ!
ねぇ、オリヴィア、楽しみねぇ!』
と、自ら申し出てくれたのだ。
その時『選ぶ』ってどういうこと?って思ってたけど、こういう事だったのか…
「シャーロットちゃんには…そうね…これとかどう?」
クローディアさんがそう言って見繕ってくれたのは、落ち着いた紺色ドレス。
うん、なかなか良い!気に入った。
「ありがとうございます、クローディア様。
私はこれに致します。」
「シャーロットちゃんのはこれで決まり!じゃあ次はオリヴィアの番ね!」
えっ?
王家、オリヴィアの分もくれるの!?
太っ腹だなぁ!
たしかに、オリヴィアと私は体型もそんなに変わらないからこの中から選び放題だもんね!
楽しんでいる私達に、店員さんがしどろもどろに声を掛けてくる。
「え…あの、申し訳ございませんが、義妹様の分は承って無く…
これらは愛し子様の為に全てオーダーメイドでお作り致しましたので…」
なるほど。王家からは代金は1着分しか貰ってませんってか。
どうしよう…王家のオーダーメイドって絶対お高いよね?
王家から貰ったのはオリヴィアに回すとして、私の分は…お小遣いで足りるかしら…
「あの、私ドレスはクローゼットにたくさんあるので今日は結構ですわ。オリヴィア、お好きなものをお選びなさい。」
うんうん。これが最善策だろう。
家にドレスいっぱいあるし、これからグングン成長する予定だから 今無理して増やす必要も無いしね。
「ですが、愛し子様…」
「何か、問題でもあるかしら?」
「………はぁ、わかりました。
オリヴィア様の分もお付けいたします。
なのでシャーロット様もドレスをお選びください!」
え!?マジで?
2着も良いの!?ラッキー!
じゃあ貰っときますか。無料のものはなんでも貰う主義なんでね!
「それでは、私の分も有難く頂きますわ。
お心遣い感謝致します。」
私と店員さんが話し終わるのを見て、クローディアはオリヴィアのドレスを選びに取り掛かる。
「オリヴィア、どんなドレスにするの?」
「……」
オリヴィアは私の質問には答えない主義なので、変な沈黙が産まれる。
いつもの事だから気まずさとかは無いけど、やっぱりちょっと寂しい。
そこから3時間ほどオリヴィア達は悩みに悩んだ末、桃色のドレスを選んだ。
うんうん、それ絶対似合うよ。
というかなんでも似合うよ。オリヴィア可愛いからね。
ちなみに私はオリヴィアがドレスを選んでいる間中、ずっとデレデレとだらしなく笑っていたから花が咲きっぱなしだった。
え?どこに咲いてるかって?
使用人の中から1人「花係」を作って、土が入った袋を持って後ろをついて回ってもらってるの。
種が無くても草花が咲いちゃうから、それを持っておいてもらうだけでほとんどの花がそこに咲く。笑顔で咲いた花は物によるけど短いもので10分、長持ちするもので1年は枯れないから、至る所に咲かせるのは気が引ける。
これがあるおかげで、今日も私は周りへの被害を気にすることも無く笑えるのだ。
「オリヴィア、決まったなら試着させて貰ったら?」
「……」
お姉ちゃんはオリヴィアのドレス姿早くみたいんだよ〜
「義妹様、試着室はあちらです。
愛し子様も、ご試着なさってはいかがでしょうか?」
「ありがとうございます。それでは私も試着することにするわ。」
確かに、帰ってからサイズとか合わなかったら二度手間だもんね。
オリヴィアとは向かいのフィッティングルームに入って、侍女に先程選んだ紺のドレスを着せてもらう。
こうやって見てもやっぱり良いドレスだ。
でも胸元の大きな白いリボンが少し派手なので、作った人やデザイナーには悪いがリボンを解く。
そして代わりに控えめの白い薔薇とピンクの小花を咲かせてみる。
うん、わたしにはこれくらいでちょうどいいな。
顔が少しキツめだから、あんまり派手なドレスだと気が強い子に見えちゃいそうだしね。
〔チョット地味ジャナイ?〕
神が横から口を挟んでくるが、無視無視。
私が鏡に写ったそれらを眺めていると、
「おかあさま!わたし、このドレスとってもにあっているわ!」
向かい側のフィッティングルームから、元気なオリヴィアの声が聞こえてくる。
その姿を見ようとドアを開けてみると、淡いピンク色を纏ったオリヴィアと目が合った。
うんうん、オリヴィアはなんでも似合うなぁ。
可愛いなぁとヘラリと笑うと、胸元の花々がぽこぽこ増えた。
鏡の方を向くと、リボンの時よりも派手になっている。
なんか裾の方にも咲いちゃってるし。
やっちまったなぁ!
でも、別に変とか珍妙ってわけでは無いから良しとするか。
「まあ!愛し子様、リボンをお花に変えられたのですね!とっても素敵です。でも、こうするともっと華やかになりますよ!」
私のドレス姿を見た店員さんはそう言うと、私が外したリボンを、今度は背中につけてしまった。
〔オ、いいジャン〕
神も褒めてくる。
まあ、プロがそう言うならこれでいいか。
そんなことより、オリヴィアに感想を伝えなきゃ!
「オリヴィアはピンクがとても似合うのね。まるで妖精のようだわ。」
「……」
「シャーロットちゃん、オリヴィアは疲れちゃったみたい。そろそろお暇しましょうか。」
「うん…わたし、もうつかれちゃったぁ…」
そっかぁ…オリヴィア疲れちゃったか。
じゃあ、今日はもう帰ろっか。